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心電図読影で大事なのは、ホームランを打つことではなく、「三振をしない」こと

「もしも心電図が小学校の必修科目だったら」

 「もしも心電図が小学校の必修科目だったら(香坂俊 先生 著)」をご存知でしょうか?
 香坂先生の「わかりやすく、かつぶっちゃけた話しぶり(書きぶり?)」に感銘を受けたことを(わかりやすいけど、小学生にはキツイよなとかツッコミながら読んでいたことも)覚えています。

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 あの本が出て8年も経つと知り、早いものだなと感じています。

 なぜこの話題が急に出てきたか?といえば、、、本屋で偶然出会ったからです。手にとった瞬間「第2版」であることに気づきませんでした。「あ、香坂先生がまた新しい本書いてる!なんだろ!?」と手に取り、「パラパラめくっていると、にわかにデ・ジャ・ヴを感じたのです。慌ててページの前の方をめくると、「改訂版じゃん!」と気づいたワケです。

タイトル変わってるやんけ!!

 そりゃ改訂だと気づかなかったわけだ!変更の理由は「やっぱり小学生にはキツかったよな」という反省も生かされている?ようです。今回はコンセプト通りになっています。

読みやすさ・おもしろさはそのまま!

 前版の頃から、名著であり、とてもオススメでした。ですが、後輩にオススメしたことがあまりありませんでした。なぜかといえば、「オススメしなくてもみんなの本棚にあった」からです。
 あれから8年も経っていたのか、と思うと納得です。後輩へのおすすめ本として想起できなくなっていました。でも新版が出た以上、読んでオススメしないわけにはいかない!

心電図はあくまでもツールの一つ

 この本もなぜオススメか?と聞かれたらズバリ、今までに紹介してきた他著とスタンスが近いからです。「『あくまで診療の一つのツール』としての心電図」というスタンスだからです。臨床で実際に循環器の医師が、心電図を「どう使うか」という目線であること。心電図を極めたらこんなことも分かるよ?(ドヤ)みたいな本じゃないということです。
 それはこの本の「プロローグ」をお読みいただければすぐ分かると思います。そこで僕の大好きな名言が出てきますので紹介させてください。

「心電図読影で大事なことはホームランを打つことではなく、三振をしないこと」


 心電図をみて、「気胸」を診断する、心電図をみて「クモ膜下出血」を診断する。いや、もちろんそれができたらかっこいいかもしれないけど、「順番違うくない?」ということなんです。
 心電図ですべてを語ろうとするのではなく、すべてを語るためのツールとしての心電図の活用法。このスタンスが貫かれており、心電図が苦手な人でも、実臨床の観点から心電図を学べるので「スッ」と入っていけると思います。絶対オススメです。

AIによる機械学習時代の心電図

 本著の最後で、AIや機械学習の時代の心電図について、記載がありました。これからの医療業界に起こる「革命」について、われわれはおよそ「予想」しておく必要があるでしょう。

 医療の世界において、機械学習がすでに専門医の「目」を上回る可能性が示唆されている分野は実はたくさんあります。そして心電図とて、例外ではない。みなさんは心電図から性別を当てようとしたことはありますか?そもそもそんな発想はなかったと思います。ですが、AIは心電図から高確率で男女を当てることができるそうです。すでに人間の目を超えていると僕には感じられます。
 AIが人の目を超えて診断ができるとなれば、心電図が苦手な先生方や研修医にとって朗報です。僕は、「機械診断はアテにならない」とか後輩に指導しています(事実です)が、数年以内に、そうも言っていられない時代がくるでしょう。
 外科系のドクターが術前にスクリーニングで施行した心電図、健康診断の心電図。いずれも機械診断が正確であればあるほど、医療業界の負担は激減するでしょう。

心電図読影の、「アート」の側面は変わらない

 では、心電図の役割はどう変わっていくのでしょうか?

 医師が「患者に施行した各種検査のうちの一つの検査」として心電図を「目で見る」ことは減らないと思っています。そして、このときに「右脳的に心電図から受ける印象」が医師の判断や意思決定に大きな影響を与えることには変わりがないと信じています。つまり、(内科系の医師や研修医が)心電図読影を学ばなくて良い時代はこないと思います。

 ただ、① 読影に自信がない先生は機械の診断に助けられ、また② 読影力をつけようと心電図トレーニングを積もうとしている若手の医療従事者には「答え合わせができる」という環境は、間違いなく訪れます。そして、「トータルとして医療全体に大きな恩恵」をもたらすのではないかと思っています。良い意味で、楽しみです。

 そんな中、心電図という窓から循環器診療をどう診るか?という視点の本著は、「AI時代の心電図との付き合い方」そのものを物語っていると感じました。若手こそオススメです。医学生でも、あっさりと読めてしまいます。


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