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「急性疾患」と「慢性疾患」の違い

「急性疾患」と「慢性疾患」の違い

 これ、一言でいえますか?

 僕なりに言うと、

① 急性疾患は、失われた機能そのものによる症状・所見が主に出てくる。
② 慢性疾患は、徐々に失われつつある機能を「代償」しようとして出現してきた症状・所見が主に出てくる。

となります。要は、メインになる症状・所見が違う、ということです。
 もちろん個別具体の話をすれば当てはまらないケースももちろんあります。ですが、ざっくり「抽象的に」、急性疾患と慢性疾患の違いとしてこういうイメージを持っておくとよいと思うのです。

 慢性疾患ではホメオスタシスが働き、急性疾患ではホメオスタシスが追いついていないケースが多いです。

慢性的な甲状腺機能低下が生じた場合

 例えば、甲状腺機能が慢性的に低下してきた場合は、甲状腺ホルモンは正常だけど、その親元にある甲状腺刺激ホルモンが代償性に上昇している。つまりFT3とかFT4とかは正常だけど、TSHが高いというので「慢性的な甲状腺機能低下があるのだろう」と判断するわけですよね。これはその他のホルモン関係の疾患でも同様です。

慢性呼吸不全

 慢性の呼吸器疾患で呼吸筋が発達するのも、「代償機構」が所見として見えているわけですよね。

慢性心不全

 同様に、慢性心不全というのは、「うっ血」が主な所見です。教科書などで定義を確認すると「心機能が低下して、心拍出量が低下しているために〜〜〜」みたいな書き言葉をよく見るものの、これではわかりにくいのです。多くの場合、代償機構のおかげで心拍出量は保たれているからです。
 むしろ「心拍出量を維持するために代償性にうっ血している」というのが慢性心不全の本質です。

 慢性的な弁膜症等があり、心機能が低下しているような患者が、心不全増悪を来す場合というのは、「前負荷が過剰になって」起こる症状がメインになりますので、「体うっ血」「胸水」「肺水腫」などが目立ちます。これらの代償機構が、逆に身体に対して「負担」になるせいで「悪循環に陥っている」というのが心不全増悪の病態です。

急性の心機能低下では?

 急激に心機能が低下した場合は、「うっ血している暇がない」わけですから、初期には低心拍出症状がメインになります。
 だから、「急性心筋梗塞」や「たこつぼ心筋症」あるいは「不整脈」のように急激に心機能が損なわれるような病態では、低心拍出症状が出てくる可能性が高いです。そのような病態で、急性期からいきなり利尿薬で前負荷をへらしにかかると痛い目にあう可能性があります。「あえてうっ血させながら強心薬で心機能をサポートする」というのが正しい戦略です。

 このように、急性疾患と慢性疾患とでは、同じ臓器の傷害でも、病態や治療介入が異なることがあります。

まとめ

 慢性疾患ではホメオスタシスが働き、急性疾患ではホメオスタシスが追いついていないケースが多いです。

① 急性疾患は、失われた機能そのものによる症状・所見が主に出てくる。
② 慢性疾患は、徐々に失われつつある機能を「代償」しようとして出現してきた症状・所見が主に出てくる。

 この「ざっくり」したイメージを心に留めておいていただければこの記事を書いた「甲斐」があります。

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