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不整脈の種類と重症度スペクトラム②

 前回、独断と偏見による、「モニターで不整脈出現時の考えかた」をざっくりお伝えしました。初学者に特におすすめの内容になっています。

前回の復習

 実はまだ、この図の詳しい説明はしていません。縦軸が患者さんの重症度、横軸が不整脈の種類だよ、縦軸と横軸の「判断」はベテランになるほど正確になるし、初心者や新人は「ざっくり」でいいよということをお伝えしてきました。

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不整脈の種類と、重症度スペクトラム

 では、この図の詳しい中身に入っていきましょう。不整脈の種類が、あちこちに書かれていると思います。これは、個人的な経験から、各種不整脈を、「よくある重症度」の位置に「配置」した図になります。

 そして、例えばPSVTは、青色の枠が小さいのですが、AFはもう少し緑色の枠が大きいなと感じていただけると思います。これが意味するのは、「その疾患が取りうる重症度の『幅』」です。発作性上室頻拍(PSVT)というのは割と若年層で見かけることが多く、ショックで受診するというよりは、比較的ケロッとしているものの「動悸が辛くてたまらない」と受診することがほとんどです。一方、心房細動(AF)は、無症状の方もいれば、無症状ながらもなんか脈がおかしいなと思っていた程度の方もいれば、動悸がするといって外来に歩いてくる方、動悸がつらくて救急車を呼ぶ人まで「様々」な病気です。

 こういった「原疾患」による症状の多様性を一つの図で表現できないかなあと考えていたところ思いついたのが上図になります。いかがでしょうか?納得いただけるところは多いのではないでしょうか?

その不整脈で「稀ながらも取りうる重症度」も表現した

 さらに、黒い線の幅が気になった方もいらっしゃるかな?と思います。これについては、「その不整脈ではそんなに多くはないけど、稀に見かける重症度」について表現しています。
 例えば、PSVTでCPA(心肺停止)になることはないけど、稀にショック状態で搬送される患者さんがいる、などです(循環器医でも経験したことはあまりないと思いますが)。
 一方、「重症に決まっているだろう」とみなさんが思っている心室頻拍(VT)でも、短期的には無症状の人がいたりします。そういうことまで配慮すると、こんな図になりました。VTはもはや「重症度的には何でもアリ」ですね。

ポイントは、黒い線ではなく、色のついた領域

 医療系の教科書では、厳密性を担保するために、上図のような「ざっくり」な解説はできません。逆に、正確性の高い医療情報は教科書に任せておけば良いと考えています。本ブログでは、「初学者、中級者がどうやって『現場で使える』知識をまずザックリつかめるようにするか?」を重視しています。
 その意味で上図を使って僕が伝えたいのは、「疾患ごとに色のついている領域」にこそあると思ってください!

色のついた領域に着目すると改めてわかるnarrowかwideか?の大事さ

 そうすると、やはりnarrow QRS tachycardiaか、wide QRSかで大きく重症度が分かれることに気づきませんか?

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 そうです。それが、まず初心者に覚えてほしい知識なんですね。
 モニターがwide QRSなら、「患者を見に行く前から『やばいだろうな』と思って対応」できます。○○号室の□□さんがモニターでVT出てるから見に行ってくる!救急カート用意しといて!みたいに対応できるわけですね。

実際の患者対応では、患者の重症度が極めて重要

 で、実際にVTの出ている患者さんを見に行くと

① やっぱり冷や汗をかいてぐったりしている。呼びかけへの反応も悪く、血圧もだいぶ低い。そんなケースでは、ドクターコールをしながら、「処置はかならずするはず。薬かな?意識悪いしDC(電気ショック)するかも。DCの準備しよう」などと考えて動けるようになります。

 もしかすると、

② 意外と患者さんはケロッとしていて、「動悸はしますか?」と聞くと、たしかにさっきから胸のあたりがドクドクする感じはあるね。」みたいに言っている。そんなケースでは、処置は必要だけど、いきなりDCするほどじゃなさそうだし、薬を試すかな?静脈路はちゃんと確保してあるかな?(余裕があれば、念の為DCできる準備だけしておこう)と考えることができます。

 要するに、患者対応は患者の重症度によってかなり変わってきます。narrow QRS tachycardiaでは、無症状なら様子を見ることも多いでしょう。自然停止するかもしれないから、余計なことをしない、という判断です。あるいは、症状があっても軽微であれば、点滴薬までは使わず、飲み薬や貼り薬で様子を見ることもありますよ。

現場対応のシミュレーションに役立ててください!

 この図をじっくり見て、実際の患者対応をイメージ・シミュレーションしてみてください。この図を見ながら、先輩と後輩で意見交換してみましょう。それが、「いざ」というときの対応をスムーズにしてくれるはずです!

 実際、循環器病棟では、右下の青いエリアの「narrow QRS tachy発生」→「様子観察あるいはビソノテープ貼り付け」「サンリズムあるいはアミオダロン点滴」みたいなことは日常茶飯事でしょう。そして、ときにVTが出てみんなで大慌てで対応!みたいなこともあるでしょう。循環器病棟の看護師さんの間でこの図がモニター教育の中心になることを願っています。また、改良の余地に気づけば、僕も適宜改良していきます!

次回予告

 次回は、各疾患別の具体的な対応の仕方をイメージできるよう、「疾患別ざっくり」を書こうと思っています!(たぶんVTがかなり内容が濃くなりそうなので、VTだけは次次回になっちゃうかもしれません!)ご期待ください!

参考記事

★研修医向け:不整脈の薬物療法


★研修医・看護師向け:DC

★研修医・看護師向け:上室性頻脈のざっくり鑑別



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