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不整脈の種類と重症度スペクトラム④

前回はスペクトラムの狭い2大疾患

 スペクトラムの狭い2大疾患として、VFとPSVTを挙げました。この2疾患に「症状のスペクトラムが狭い」という共通点があったとは。そういう発想はなかったという方は多いでしょう。


今回はスペクトラムの広い2大疾患

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 今日のテーマは、スペクトラムが広いのに「頻度も」多い、AFとAFLです。これら2疾患は本当に多様な症候をきたし、病態も多様なので我々循環器の医師も日々苦労しているところです(なのに、頻度も多い)。まずは参考になる過去の記事を貼っておきます。


心房細動AFと心房粗動AFLの臨床的な特徴

 まず列挙するならば、

加齢により誰でも発症しうる
頻度が多い
脳梗塞の原因になる
心不全の原因としても割と多い

でしょうか。ここまでは医療従事者のみなさんならすっと理解していただけそうですね。

 ちなみに、心電図で上室性の頻拍を区別する上でもっとも「カンタン」なのはAFです。
 ちょっと厳しいことを言うようですが、モニターのついている患者さんが、急にAFを発症したとします。モニターを見て、「あ、今AFになったな」とわからない人は、素人と一緒です。モニターを患者さんに装着する資格がありませんよ。モニターを装着するということは、「モニターを見る」という責任が生まれることを、医療従事者は自分に言い聞かせてくださいね。

発症しているのに気づかない人には合併症予防を

 「脳梗塞になってしまってから発覚する」では遅いのですが、やはり急性期病院に勤めていると、「あぁ、なんでもっと早く気づかなかったんだろう」と思う脳梗塞患者さんに出会うことは少なくありません。

 また、脳梗塞になる前に健診やかかりつけ医の診察で偶然指摘されることも結構あります。10人AF患者さんがいれば、2−3人は無症状だと思ってください。AFLについても、それほど多くないもののやはり無症状の人も一定数、いらっしゃいます。

 問題は、この無症状の人たちへの対応です。生活習慣病(サイレントキラー)と同じように、知らずしらずのうちに発症・進行してしまっていることが多いです。「手遅れ」ではないにせよ、「根治」しにくいほど進行してしまっていることが多いです。また本人も「困って」ませんから、合併症の予防に主眼が置かれます。要するに、「心不全化」の予防と「脳梗塞」の予防です。患者さんには、「合併症で困らないように、うまく付き合っていきましょう」と説明しています。

動悸が強い人は根治を目指しましょう

 動悸が強い人はどうしましょう?症状が強いので、治療してあげたほうがよいですよね。しかも、症状が強いおかげ(?)で初期の段階で発見できます。つまり「進行していない状態」で病院を受診するため、我々循環器医にとっても「根治しやすい」段階で受診してもらえるのです。

 患者さんも、治療してもらって症状が楽になる。僕たちも、根治してあげやすい。(どうせ心房細動になるくらいなら)「症状の強い」心房細動が一番お互いにとってハッピーな組み合わせです。ちなみに、心房粗動は「症候性」のことがかなり多いです。心拍数が150回/分で発症することが多いからです。

 やはり初期段階で見つけた症候性のAF/AFLでは、アブレーションが治療の軸になります。問題は、いつ頃にアブレーションに踏み切るか?です。

 初発の心房細動患者さんは、次いつ発症するか、正直わかりません。ときには、「初発の心房細動を起こして以来、そういえば2,3年発症していないなぁ」なんて方もいます。
 一方、初発でERに来たばかりだと思ったら、その後も何度も繰り返し救急受診し、「はやく先生なんとかして。アブレーション今月受けれないの?」と言われることもあります。

 最初は、それを見極める期間が欲しいなと感じます。頓服の抗不整脈薬をお渡しして、外来で数ヶ月様子を見ていきます。
 その間、抗凝固療法が安全に内服できていそうか、副作用はないか、飲み忘れはないか、などの様子も見ます。

 そして、フォローアップしながら、「進行してしまう」前にアブレーションに持ち込みます。

 流れはイメージできたでしょうか?ここまでがAF/AFLとの付き合い方の「核」になる部分です。病棟で新規に発症したAFでも同様です。重症でなければ、上記のようなフォローアップの方針になるでしょう。

 とはいえ、基礎疾患によってはショックなどの重症病態になることもありえます。ERでは、ショックで搬送されるケース。病棟であれば、患者の状態が普通じゃない、というようなシチュエーション。頻度は多くはないものの、決して「稀」とも言えないので注意しておく必要があります。
 重症であればあるほど、ある意味対応はシンプルです。「患者さんが重症そうかどうか」に注意して観察してもらえれば良いでしょう。いわゆる、「タテ軸」です。

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心房頻拍ATは「病態的にAFLに近い」とイメージしておいてください。

ただ、AFやAFLに比べて頻度が極めて稀であることがポイントです。つまり、「勉強する優先度は低い」です。

上室性頻拍の総論

 スペクトラム表をみていただければわかると思いますが、上室性頻拍は一般的に、ヤバそう!なことは稀です。「まずはあなたが落ち着く」ことが大事です。

次回、wide QRS

 さて、あとはヤバそう!なことの多いwide QRSシリーズですね(そのうち、VFはある意味シンプルなので、PSVTとセットで前回記事にて解説しました)。

 この、巨大なテーマ。まとめきれる自信がありませんが、できるだけわかりやすく、研修医・中堅看護師が「なるほど」と思ってもらえるような記事を書けるよう心がけますので、お楽しみに!

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