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虜になる循環の生理学⑤前負荷

復習

 前回、静脈系の圧についてはさらっと触れるだけにしました。前負荷は増やせば増やすほど心拍出量を増やしますが、(輸液によって)静脈系の圧が上がりすぎると有害事象が出るので、過剰じゃない程度にしましょう、と。

 そして、前負荷のコントロール法として、輸液は何にすれば良いか?紹介しました。基本的にはラクテック(乳酸リンゲル)のような晶質液(クリスタロイド)で良いでしょう。Hbが7g/dL未満であれば輸血も検討ですが、粘稠度が上昇するため、輸血のインパクトは思ったほどではない、ということも述べました。

 ここで、前負荷をもっと突っ込んで考えましょう。前負荷を意識するための静脈系のvolumeについてのお話をします。本書からの紹介でもあるのですが、多分に僕がいつも後輩指導する内容と重複するため、ほぼ自前の語りになってしまいますが、お付き合いください。

・前負荷はstressed volumeである

 まず、いつも登場するあの図を確認しましょう。

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 いわゆる体液の分画です。具体的な比率はともかく、血管内volumeというのは体液の中でもごく小さい分画である、ということだけが分かればOKです。
 さらに、血管内の体液(volumeとここでは呼んでおきます)の中でも、実際に循環に寄与し(心臓にとって前負荷となっ)ている体液をstressed volumeと呼びます。これを前負荷とほぼイコールで考えましょう。ここが、普通の点滴に関する書籍にはあまり書かれていない内容になります。
 一方、循環に直接関与していない体液を、概念的に「unstressed volume」と呼びます実際に循環に寄与していない多くの体液が、静脈系にpoolされているということは聞いたことがあるかもしれません


 前回述べた「補液」では、できるだけ血管内に残りやすい点滴として、晶質液を紹介しました。浸透圧の原理的に、膠質液というのは、(晶質液よりも)もっと血管内に残りやすいと考えられるのですが、改訂スターリングの法則によると、急性期はその効果はイマイチですよ、というわけで、安価ですぐ手に入る晶質液を使いましょう、という結論でした。


・Unstressed volumeをstressed volumeにshiftさせる

 「では、この血管内にあるのに循環に寄与していない体液を動員して循環させる方法はないのか?」と気になりませんか?実は前負荷は「補液」以外の方法でも増やせるのです。それが「血管収縮薬」です。

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 イラストをみて、「はっ」と理解された方もいるかもしれません。逆に、stressed volume(≒前負荷)をunstressed volumeに「逃がす」方法として、血管拡張薬がありました。心不全の急性期に利尿薬だけでなく血管拡張薬も使用する理由はここにあります。

・Stressed Volume(前負荷)のコントロール法

 というわけで、まとめると、以下の図の通りシンプルです。

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前負荷を増やす方法は①補液と②血管収縮薬の2通り。

前負荷を減らす方法は①利尿薬と②血管拡張薬の2通り。


 これら利尿薬や血管拡張薬、血管収縮薬については、紹介している本書の最後で明快に「ざっくり」語られており、次回紹介しようと思いますのでお楽しみに!感想・質問などあればドシドシご連絡ください!

↑連日紹介している書籍です。次回で最終章の予定です!本書で語られる「熱い」生理学の部分はここでは「はしょって」紹介していますので、ぜひ本書を手に取って読みふけっていただければと思います。




↑輸液について、循環動態の面から語られた一冊です。臨床的に活用可能ないろんなデータ(ICUで使うデバイスなど)をどのように活用しながら上手に輸液できるか、「超」実践的な輸液による循環動態管理の指南書です。連日紹介している上記の本よりは生理学的な部分を減らし、出来るだけ現場で役立つよう工夫されています。輸液中心なので、本書と一緒にどうぞ。



↑体液分布・電解質や栄養をはじめ、利尿薬についても非常に分かりやすく明快にまとめられた書籍です。とはいえ、ボリュームはしっかりあるので、「研修医のうちにこの一冊が頭に入れば、その後の医師人生の大きな礎になること間違いなし」の一冊です。



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