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松尾スズキのおげれつ雑誌「hon-nin」

 地元の図書館が閉鎖した。といふのは改築工事のためであって、今年に入ってから母の茨城の友人をつれて図書館に行ったところ、天井から雫、といふことがあり、しかも三階にはいたるところにバケツ、あるいはビニールで天井を覆って汚ったねえ黄色の水が溜まってゐる、といふことになってゐた。

 それで二年後だか三年後だかの開館までわしはあてどもなく図書館求めて徘徊することになるらしいのだが、自転車での徘徊自体は区域全体の図書館巡りを中学生の時に敢行したことがあり、地図を見ながら砧の清掃工場の煙突を真下からぐんと展望できる道路をわたっての、なぜかラノベが多い砧図書館なぜか地下の深沢図書館、はたまた世田谷線の沿線沿ひに新しく建築された世田谷図書館で分別のつかぬ餓鬼が誤ってタブレットを落下し画面をバキバキに破壊し母親がひた謝りに謝るといふ光景を目にしてからといふもの、結局世田谷でいちばん大きいと思はれるのは、農大面する世田谷通りをまっすぐ行った先の中央図書館を除いては、梅丘図書館ただひとつのみであるといふ結論に達した。

 その、どうやら世田谷でいちばん古くもあるらしい図書館である梅丘図書館が改築してカフェーなどが併設されるらしく、TSUTAYA戦法といふか、ぢゃあ本読みながらカフェーでも啜るかといふ気分にならぬのは、私が生粋の図書館っこか、以前、もともと茶色のしみで裏表紙が皺くちゃになった計算クイズ本を借りたところ、頼んで返却したもらった父からいま館員にこっぴどく詰められてゐるといふ電話がかかってき、その後無実がはれてよかったものの、こぼす可能性のある黒ずみを本といっしょに扱はうなどといふのはなんたる野蛮人、だからといふわけでもないが、最近は防水の電子書籍を買うて風呂で水浴びしながら読んでゐる。

 といふことはどうでもいいのである。重要なのは、図書館にいりびたったおかげであんな本やこんな本も目にしたこと、二階に配架された棚のてっぺんに近い、雑誌かムックとかいふものをちらちら眺めた中学生時代が思ひ起される。なかには宝島社のVOWのやうな下品な写真を集めて嬉々とする雑誌や、だれがよむともしらないウヨ子ちゃんなる漫画がのった右翼雑誌もあったが、ひときは異彩をはなってゐたのが松尾スズキ責任編集「hon-nin」(太田出版)だった。

 正直、これを書くにあたって、hon-ninを鼻クソ雑誌と命名しようかとおもったが、さすがにおげれつ雑誌、程度にすませておいたが、はっきりいって、めちゃくちゃみうらじゅん的なのである。なんでもあり的なすごくおげれつ的鼻クソだったのである。

 まづ中川翔子の漫画がのってゐたが、これが相当気色がわるく、それはvol.04にある。中川はいまも楳図かずお的な絵を描いてはまはりの人を喜ばせる人だが、このvol.04にのった「脳子の恋」は本当にひどい(と思った)。娘に、家族の垢まみれになった風呂に入ることを強制する母親といふのが出てき、最後の展開かつ人物の造形はもう×××のんだかといふ異星人グロ、ある種の怪奇漫画的に狂ってゐてキモく、しょこたんのイメージはいつまでもこれがつきまとった。

 そもそも連載小説に会田誠の挿絵をつける時点でパンクにロック、狂ってゐるとしか思へぬのだが、ある小説は、裁判で、車中の練炭集団自殺に加はった当事者である被告人から、実は車中で博士の娘と××××してゐた、と語られ、裁判官もその博士も固唾を吞んでつづきをうながすとかなんとかマジもんの官能小説だったが、挿絵も相当ひどく、××××の最中に脱×した×××が空中を飛び交ふといふ小説内では描写されてゐない気色のわるい絵までなぜかのっけられてゐた。

 はっきりいってバカ雑誌(わざと)バカ(にふりきってゐる)雑誌であるが、印象に残ってゐる連載がほかにもある。

 1.西島大介の漫画。私が西島大介を知ったのは、この忌み深き雑誌からで、「魔法なんて信じない。でも君は信じる。」といふのをかいてゐて、河出書房新社で漫画原稿を紛失されるといふ顚末の記録である。引き算的な余白の多い(かはいい)絵だったので印象に残ってゐた。

 2.俳優(?)の宮崎吐夢のエッセーを河井克夫が漫画化したとかいふ「宮崎吐夢の「本当にあった面白くない話」」といふやつで、なぜか宮崎が女体化してをり、そのてっぺんの女体の宮崎のやぐらのもとでタバコと××××が盆踊りしながらニコチンニコチンとかやってるクソしょうもないコマが印象にあったがそんなことはどうでもよろしく、水谷豊と共演したといふエピソードがのっけられてゐたことを後年になっておもひだすといふことがあった。雑誌では水谷がとにかく温和で柔和だったといふことが書いてあり、後年、それがまぎれもないドラマ「相棒」シーズン5の第15話「裏切者」だと気づいたのである。それに気づいたとき、私はうれしくなってネットやツイッターでほかにも気づいてゐるやつがをらんかとしらべたが、たれもこの雑誌のことを知らんかった。そもそももう休刊か廃刊になってゐた。だからわしは有頂天になった。

 とこげなしょうむない雑誌の棚のななめしたにはみうらじゅんのしょうむない稀覯コレクション蒐集本みたいなのもあり、表紙は海女さんの美人人形、最後の頁には招き猫の置物をひっくりかへすと裏で徳川時代の恰好をした男女が××××をしてゐるとかいふ謎のおみやげが美麗な写真でのってゐて、それを持って棚の裏でこそこそ隠れながら××××するみたいなこともあった。まあ『ガルガンチュワとパンタグリュエル物語』とくらべたら屁でもないみたいなのはある。

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