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新しい宮城の酒米「吟のいろは」から分かる、県内蔵元の今現在ver.2020

1.before「吟のいろは」の宮城県

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2020年2月。


宮城県にて県育成として2品種目となる酒造好適米(醸造用玄米)が一般に公に御披露目されました。その名は


吟のいろは


父品種が「出羽の里」、母品種が「げんきまる」です。宜しければ、公式のアナウンスとして下記リンク先も御参考ください。​

www.pref.miyagi.jp/uploaded/attachment/775416.pdf

余談として、県育成の1品種目は1997年デビューの「蔵の華」でして、当時県内で多く栽培されていた長野県出生の「美山錦」に替わるような地元の酒米を・・・という意識があったらしく、よって栽培特性としての耐冷性などと共に醸造特性としての低タンパクなどが主眼に置かれて育成されたと耳にした事があります。その「蔵の華」は酒造好適米のアイデンティティとも呼べる心白がほぼ出現しないのですけども、農林水産省に酒造好適米として品種登録されたという事で、酒造好適米の定義を変えたとも呼ばれ或る意味で偉大な存在であるとお伝えしておきます。

もう一つ余談として、県育成という枕詞がつくのには理由があって、宮城県には「蔵の華」の他にも農家育成の酒造好適米が存在します。それは「ひより」。宮城県の奨励品種ではなく生産量も限られる為、県内の一部の蔵元さん達しか使用していないはず。非常にローカルな存在です。

という訳で、宮城県内の蔵元さん達は、心白がある酒造好適米による酒造りは必然的にも県外に原料調達を望むしかなかったのでした。

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2.新しい酒米の意義

公式のアナウンスでは「吟のいろは」の育成は十三年前の2007年からスタートしています。

2007年と言えば、秋田県の「新政」新政酒造の佐藤祐輔現社長が蔵に戻った時で、長年に渡って日本酒業界に明るい話題が見出しにくい時期でもありました。その少し前の2005年には、宮城県内において仙台市内にあった2つの蔵元さん達が、奇しくも期を同じくして山麓に醸造所としての酒蔵を移転させました。様々な理由もあったようですけども一つには市内に立地する事での固定資産税などの財政的な大きな問題がありました。そして残念ながらそのうち1つの蔵元さんは2020年の今現在は廃業してしまっています。

きっと「吟のいろは」はそのような業界の苦しさ、少なくとも宮城県内には在った暗雲のようなものを打破する想いが込められて育成されただろう事は想像しがたくはありません。実は、近年は他の県でも続々と新しい県育成の酒造好適米が誕生しています。東北の青森県では「吟烏帽子」、秋田県では「秋田酒120号」「秋田酒121号」、福島県では「福乃香」、関東の栃木県では「夢ささら」、北陸の石川県では「百万石乃白」等々、列挙するとキリがないほどです。米の育成には一般的に十数年掛かると言われますから、おそらくは各県も育成開始当時は宮城県に似たような状況下だったのではないかと推測する次第です。事実、「新政」佐藤祐輔社長は蔵に戻るのが一年でも遅かったら廃業の危機があったとも語っていらっしゃいました。

まぁ、県が公式に育成する、という事は税金の使い先を作る、という意味合いもあります。。。そして日本酒が製造される、売れれば、酒税が増収する、という考えも。

限られた財源から、長期間に渡って一定の投資がされるプロジェクトな訳ですから、目途が立った暁には可能な限り早く一定の成果を上げて欲しいと県が考えるのは、大人の方々であれば誰しも御理解いただけるのではないかと。


3.「吟のいろは」の特徴と2019年の栽培状況

「吟のいろは」は心白発現率80~90%で千粒重は約28グラムと、とても御立派な酒造好適米になりました。

・・・これは非常にザックリとした言い方になってしまうのですけども、オール宮城で山田錦を使ったかのような日本酒が造れるようになった、という事になります。心白があると、日本酒製造工程の一つである麹造りがしやすく、酒質が芳醇になりやすくなります。宮城県の日本酒のキャラクターがスッキリというのも、数年後にはイメージチェンジしているかもしれません。一般に御披露目される年度の以前に、試験醸造をした2つの蔵元さん達はやはり山田錦のように感じたそうです。


しかしながら、「吟のいろは」が6.5ha作付けされた宮城県大崎市松山地区の2019年の気象状況は厳しいものでした。出穂後の高温が続いてしまって高温障害が発生してしまいました。そうなると、米が溶けにくく、酒質が芳醇になりにくいのです。また整粒歩合も芳しいものではありませんでした。せっかくの魅力が充分ではないまま、「吟のいろは」は2020年2月デビューせざるを得なくなった訳なのです。

これまた余談で、「吟のいろは」は県の奨励品種ではないので、県関係者曰く1~2年は作付けが現状のままの可能性が高く、精米歩合も50%で各蔵元さん達が使用するのが続きそうとの事でした。

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4.図らずも宮城県内の蔵元達へのリトマス試験紙に

松坂牛のサーロインを渡して今から焼いてくださいと言われれば、ミシュラン三つ星のシェフも、一人暮らしを始めた大学一年生でも、おそらくは合格点以上の味わいには仕上げてくれるのではないでしょうか。その合格点から上の幅は今は置いておいて。ただし、そのお肉が、或る国のものがどうやら美味らしいので仕入れたから焼いてみて、と言われたらそれはなかなか難しい調理になる事でしょう。どの種のお肉かも分からない、どの部位かも分からない、などとなると、やはり調理する人のセンスやスキル、そして経験などによって仕上がりに大きな差が出てしまいます。

宮城県の蔵元さん達は、わざわざ必ずしも出来がよろしくない原料米を、県(酒造組合)からの要請という事もあり使用しなければならず、また精米歩合も50%と統一されてしまい一定の酒質の方向性まで決められた中で、各蔵元さんの個性を表現する、というハードル高めのコンテストに半ば強引に参加させられたような状況になりました。不参加の蔵元さん達も居ますが。


結論から言うと各蔵元の実力が出た、という印象です。元々の蔵元さんの個性や、精米歩合50%という縛りもありますけども、これほどまでに蔵元さん達の技術力を図るのに整った環境はなかなかないです。

自分は3つのポイントを意識して「吟のいろは」の日本酒達をテイスティングしました。

①雑味

②芳醇さ

③酒質設計

精米歩合が50%と高精米でも、整粒歩合が良くない米で仕込むと雑味が多くなりますので、その点をしっかりと対処できているか。次に、高温障害を経て溶けにくい米で、如何に甘味を演出してそれに連動してアロマのヴォリュームも整えるか。そして、新しい米に触れる事で、新しい何かを表現しようとするか否か。


高評価の銘柄から御紹介します。

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