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ピノ・ノワール2021/テールドシエル「飲む価値ある唯一無二性」

非常にユニークなワイナリーさんだと思っています。
社歴を言えば、創業として2015年から長野県小諸市糠地地区にてワイン用ブドウ栽培開始、2018年から委託醸造によるファーストヴィンテージのワインをリリース、そして2020年から自社の醸造所を設立して自社醸造スタート、と2000年代からポツポツと新設され始めて、2010年頃から爆発的な増加傾向にある日本のワイナリー状況から鑑みると極々一般的なフローを経過していまして、ましてや北海道と双璧をなす二大ワイナリー増加エリアともよべる長野県になので、やもすると上述のような増加傾向にやや食傷気味の日本ワインのユーザーには「その他の大勢の一つ」にカウントされてしまうようなマーケット的視点もあったりなかったり。。。まぁそれはあくまでもマーケット側の意見に過ぎず、流通の川上にありますメーカーとしてのワイナリー側としては、様々な想いをもってワイナリー設立に沢山の労苦をかけてその実現に漕ぎ着け、十人十色よろしく唯一無二のワイナリーたる事を目指して設立そして開業とスタートラインに立つ訳です。メーカーとして何を表現し打ち出していくのか、ユーザーとして何を欲して実際の行動に移していくのか、これは永遠にマーケットの妙であります。
さて話をテールドシエルに戻しますと、まだ間もない社歴にも見えますけども第二期創業ともよべる激変を既に実は経験しています。2020年の自社醸造スタートの際、創業時には加わっていなかった社長の池田岳雄さんの娘婿である桒原一斗さんが加わりました。桒原さんは二十年近くワイン業界に身を置く御仁でして、しかもその経験は栃木県ココファーム&ワイナリーで現10Rのブルース・ガットラヴさんや、あの現ドメーヌタカヒコの曽我貴彦さんなどと共にブドウ栽培やワイン醸造の行なったという輝かしいものでした。優劣を語るつもりはさらさらありませんけども、ワイン教育系機関に数年ほど通学してたという経験のみでワイナリーを設立する、というものとは異なる骨太さがあるのはどなた様でも感じる事ではないでしょうか。そんな桒原さんはテールドシエルにおいて専務取締役兼栽培醸造責任者として指揮をふるう事となりまして、本格デビューだとマーケット的な視点ではないかと。そして多くの日本ワインラヴァーの方々は御存知のように既にそのワイン達はローンチされた途端に完売してしまうほどに大人気です。期待が高かったのもあるでしょうけども、実際にお飲みになった感想などもSNS上で見受けられましてズラズラと高評価が並んでいます。
余談で、自分は桒原さんがココファーム&ワイナリー時代に試験的に責任醸造した限定品を飲んで感動した事があります。テールドシエル入社の以前から、御自身が目指すコンセプトがしっかりとお有りで表現する手法も磨き上げていたのだろうぁと察する次第であります。


さて。ピノ・ノワールはワインラヴァーにとって特別な存在と呼べるでしょう。誰もが知っていて、誰もが飲めるものではないスーパーリッチなワインはピノ・ノワールから造られているのは周知の事実です。このヨーロッパ原産の高級ブドウ品種は、春先から秋口までの栽培、そして醸造と貯酒管理の幅で大きくワインに仕上がった時の品質に差が出ます。もちろん栽培地とその年の天候も。
桒原さんはメディアでは頻繁に、ブドウがなりたいワインへ、という趣旨の醸造哲学があると紹介されていまして、ガチガチの醸造フォーマットがあるのではなく、収穫されたブドウをもって醸造方法を決めるよう(「収穫された」という表現は、桒原さんは収穫自体には参加せず醸造所にて待っていて、持ち込まれるブドウを見極める、という言わば精神集中をされているとの事でした。しかしながらそれは栽培責任者として収穫の直前までしっかりと樹で育っているブドウの房を全てチェックしているからこその体制です)。テールドシエルのピノ・ノワール種は北海道からの某クローンとの事で(知りたい御仁は是非ゼヒ北仙台の酒場のカウンターまで)且つ相当な収量制限をかけています。2021年は標高900mの糠地地区でもしっかりとブドウが熟すのを待てたようで、ピノ・ノワールは大半は除梗しつつも数十%は全房で醸しました。
色調は微かに霞みがかったルビー色。アロマは印象的なのはハーブ様のもの、ジャスミンや赤シソ、トリュフも。スパイス的ニュアンスはスターアニスや少し黒コショウ。そして果実はブルーベリーやプルーンを想起します。口に含んだ時の、サラサラとした質感には糠地地区の産地性を感じまして、そこからトップにはしなやかなタンニンと仄かな酸味、余韻の儚さにはまだ若い証左がイメージされます。相当、めくるめく味わいのフローがありまして「野生酵母」に強いこだわりをみせる桒原さんの真骨頂が表れている気がしています。


よって、このユニークな紅の液体はワインラヴァーでしたら全員にお奨めでして、なんだったらお酒好きでしたら一飲の価値はあるものだと太鼓判を押せます。ラベルからも感じられるように水墨画のようなモノクロ感は、カジュアルというよりもフォーマルな気持ちで接した方がベターでしょう。グラスペアリングも、いわゆるナチュールの世界線にもありながらもどちらかというとクラシカルなTPOの方が良い印象がありまして大ぶりなワイングラスをお奨めします。そしてフードペアリングは懐深いので飲み手のお好みに寄り添ってくれるのも容易にイメージできますが敢えていえばやっぱり牛肉の赤身のグリル。フルーツを効かせたソースが一体感を醸成してくれるでしょう。
ただ一つだけ。出来れば2025年以降まで待ってからテイスティングしたかったです。。。

9+/10p


≪ピノ・ノワール2021/テールドシエル≫
株式会社テールドシエル 長野県小諸市



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