見出し画像

楯野川 上流 純米大吟醸 山形県産美山錦R3BY「美しさ、そして強さ」

山形県酒田市の楯の川酒造株式会社さんと言えば、2016年SAKE業界史上初めて精米歩合1%に挑んだ酒蔵としてマーケットに大きなインパクトを与えました(加えてリキュールメーカーとして「子宝」ブランドでもそれより以前から大きな成功を収めていました)。また毎年のように商品ラインナップのアップデートが行なわれ、時勢を捉えたアイテム群を用意しています。原料米の大半は地元の20軒を超える契約農家さん達から仕入れていて、栽培も特別仕様になっているものも多数だとか。更には単に栽培契約を結んでいるだけではなく、醸造を担当する部門のスタッフさん達が農家さんごとの個性を理解して「この農家さんの米は締まっている」「この農家さんの米は溶けやすい」など把握する事で、醸造の際の調整、ひいては酒質へと反映されるようになっています。
このSAKEは、ブランドにおける「~流」シリーズとしては以前から在ったものですけども、今年2022にリニューアルしてそれまでの山田錦から地元産の美山錦(上述のように契約農家さんの減農薬特別栽培米)にチェンジして且つ精米歩合を40%に設定、より磨き上げたとの事。自社で投資して精米機を数台も保有していると高精米もしやすくなります。まぁ保有するとなると稼働率も上げなければという事にもなりますが。。。


このSAKEは比較的珍しい美山錦の高精米のアイテムなので、高精米由来のニュアンス、、、それは上新粉のようなニュアンスでありつつ、強い甘味を打ち出していないので白玉団子のような感じでもなく、、、 且つそれと共にそうなると美山錦の特徴として多数のコメントがある印象的な後味のニュアンス(酸味とも渋味とも)がマスキングされずに活きる訳です。
SAKEの美学上では後味の美しさをどのように演出するかが造り手さん達の腕の見せ所だったりするのですけども、近年では造り手さんもテイスティング能力を鍛えて、そして御自身が想い描く味わいに近づけようとするので、歴史的に今までの多くは美山錦では後味の美しさを、例えば山田錦をイメージして比較的演出しきれないとされて感覚的に敬遠されがちでしたけども、先ずもって高精米にする事で(これが実現するようになる事の意識革命もあるのですけども別の機会のネタに)印象的だった後味のニュアンスは一層美しさに近づきましたし、SAKEの原料である米においては栽培技術、醸造においては洗米技術や発酵管理技術などが進歩したので、十二分にクラシカルな価値観での美しさは表現できるという世界線の上で、更に最も重要なのは造り手さんが高精米だからこその美しい味わいを基礎としつつ後味に「上善水の如し」だけではないインパクトを演出しようとクリエイト&チャレンジする事で、それはこのSAKEにおいては見事に実っています。そして、一応に加えて、上記のように原料米が地元山形県産であり、地元の山形県酵母を用いて造られたSAKEです。比較的ラグジュアリーなイメージもありつつスローフードでもあり、このローカルだからこそ誕生した存在だとも感じます。全国に似たようなテイストのSAKEはあっても、どこか違和感を覚えるのはこのSAKEが唯一無二のアイデンティティを持ち合わせているからでしょう。


よって、そのラグジュアリーなイメージとは裏腹に一周まわってクラシカルな左党の方々にお奨めです。格式ある和食店や、コース料理を楽しむイタリアンレストランなどにもお似合いでして、味わいの視点ではワイングラスも似合いますけど、ラベルがスマートながら古典を踏襲している雰囲気なのでテーブル上にて盃でも大いにアリです。ペアリングは、その端正なテイストからとても高いユーティリティを持っていますけども、ふと思うと鰹出汁の椀やコンソメ、そして魚×クリームなどのひと皿が良きかと。
9+/10p


≪楯野川 上流 純米大吟醸 山形県産美山錦40%精米R3BY≫
楯の川酒造株式会社 山形県酒田市

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?