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メディアとは何なのか?に気づいた熱い夜のできごと

 仕事を終え、急ぎ有楽町へ向かう。最寄駅から山手線へ乗り込むと同時にスマホに挿したイヤホンを耳へ装着した。毎週火曜に拝聴している動画コンテンツ、「遅いインターネット会議」が始まる時間だ。

 これは宇野常寛さんが主宰するオンラインサロンPLANETS CLUBのコンテンツで、宇野さんが司会進行役を務めるトークセッションだ。宇野さんが毎回冒頭に述べる「政治からサブカルチャーまで、そしてビジネスからアートまで様々な分野の講師の方をお招きしてお送りしております。」という言葉の通り、毎回多様なゲストが招かれる。ゲストの人選は「有名なあの〇〇さん」といったものではなく「宇野さんが今話してみたい人」として呼ばれる。結果として、非常に濃密で切り込んだやり取りが展開され、とても見ごたえがある。世に流されない本質かつ実践的なテーマと内容にいつも学ばせて頂いているコンテンツだ。
 新型コロナウイルス感染拡大防止のためにずっと無観客やオンライン対談の形式で行われていたが、10/5の回はきっちりした感染対策をしたうえで久方ぶりにリアル開催されることとなった。僕はPLANETS CLUBメンバーであるため幸いにもその会場へ直接伺えることとなったのだ。
 会場は有楽町にある三菱地所さんのコワーキングスペースSAAI。あいにく仕事が長引き、急ぎ有楽町へ向かいながら冒頭はいつものようにスマホでの拝聴となった。

 今回のゲストは元ハフポスト日本版編集長の竹下隆一郎さん。テーマは「市場から社会を変える」思想の限界と新展開について考える、である。
 竹下さんは元NewsPick編集長の佐々木さんと共に今年「PIVOT」という新メディアを立ち上げた。ハフポストとNewsPicksという方向性の異なる2つのメディア(宇野さん曰くポリコレとエコノミックアニマル)の編集長を務めた2人が一緒に起業した、という非常にイデオロギー色の強い点に宇野さんも驚かれたということで、竹下さんの問題意識について伺いながらのトークという主旨だった。

 PIVOTはスタートアップとSDGsが2大テーマであり、後者を竹下さんが担当されている。気候変動と消費者動向の変化という企業の大きなリスク要因があるところへ元国連事務総長のアナンさんがうまく金融を巻き込んで、SDGsを企業が目指すべき目標とした。更にグレタ・トゥーンベリさんの出現やSDGsのわかりやすさ、そして国連のプロモーション力の高さといったことから、政治よりむしろ経済こそがSDGsを通じて社会を変えるムーブメントになっている。「今や綺麗事こそがラディカル(急進的)であり、起業家精神とNPOのような社会貢献がミックスされてきている」との竹下さんの言葉が印象的だった。

 竹下さんのPIVOTの紹介が終わり、では宇野さんとのトークに、となった頃へ僕はSAAIへ到着。入口の自動ドアが開くと、イヤホン越しに聞こえるのと同じ会話が入ってすぐ奥のスペースで繰り広げられていた。トークしているお2人とその様子を写すカメラマンさん。ディスタンス確保した椅子に座ってマスクをしながら静かに視聴している観覧席の皆さま。おおお、これがいつも画面越しで見ている番組かと心中で感激した。
 入り口で手指消毒と検温、入館手続きを済ませて、僕もそそくさと観覧席へ。やはり直接見ると「熱」がスゴい。スマホ画面越しだとトークにばかり気を取られるが、リアル会場だと様々なところに目が向く。トーク中のお2人の背後に据えられた本棚には宇野さんが代表を務めるPLANETS刊行の雑誌が並び、イベント中はスタッフさんが常にサポート。また、大きめのテーマながら非常に身近で実践的に「自分ごと」として思えるトーク内容であるため、観覧席の方も頷いたりメモを取ったりしている。多くの人達がこの会場の「熱」を作り上げているのだなと実感した。

 トークの話に戻ろう。竹下さんの冒頭のお話は「市場から社会を変える」思想が盛り上がっているというものだが、今回のテーマは「その限界と新展開について考える」というものである。宇野さんからの「SDGsは果たして思想たりうるのか?」という投げかけから、「個人の快楽」と「価値観で繋がる集団」(MeとWe)をベースに様々な視点から語られた。竹下さんが「実はSDGsって、日本の伝統的な男性スタンスと真っ向から対立するもの」と述べたり、宇野さんが「SDGsで語られている格差や貧困は国家間(先進国と新興国)であるが、国内の格差や貧困問題もある」といったところから都市や地方論にも発展していく。課題を多様な視点で語ることの大切さを見せつけられた。

 お2人は異なるメディアの代表でもあるので、そのお話を聞いているうちに、メディアとしての色やスタンスというのは「怪獣(課題)とウルトラマン(解決策)をどのように提示するのか」ということなのだな、と感じた。

 この例えで言うと、ある課題について述べることとはつまり、「怪獣が出ました!」と伝えることだ。その際に、どのような形状/大きさ/脅威として伝えるかは報道のスタンスによって変わる。課題をどのようなものとして具現化して提示するのか、いわば「どのような怪獣として世に生み出すか」ということがメディアの最初の役割である。
 次に、対応策をどう提示するかだ。「大した実害は無いので何の心配もありません」と言うのか、「このようにすれば個人でも対処可能です。自分の身は自分で守りましょう!」と言うのか、「科学特捜隊に志願して、皆で撃退しましょう!!」と言うのか、「皆さんの声援があれば、きっとウルトラマンが来てくれます!!!」と言うのか。
 このように、課題と対応策のどちらをも自ら生み出して自ら発信するのがメディアなのだな、というのが個人的な気付きだった。そうなると自分がどういったメディアに触れるかの意味合いはとても大きい。世界とはどんなものか、その中で自分はどうあるべきか、の見方が全く変わってくるためだ。

 トークの方は竹下さん、宇野さんがお互いのスタンスに同意したり反論したりしつつ、最終的には竹下さんは「We」をキーワードとしたメンバーシップを、宇野さんは「Me」をキーワードとした個々の存在が社会で許容されるパーミッションを重視しているということで違いを認め合ったところでニヤッと笑顔になって(いるように見えた)セッションは終了。

 僕はと言うと、目の前で繰り広げられる熱気ある論理展開にあてられて、いつものスマホ視聴の数倍で頭がグルグルと回りっぱなし。こちらも勝手に心地よい頭脳労働の疲れを感じてふぅと一息ついていた。やはり生で観るのは良い。また機会があれば是非観覧させて頂こうと思う。

 「遅いインターネット会議」はネットを使った配信はしているけれど、SNSとは良い意味で無縁だ。僕が20数年前に初めて出会い、「新たな世界との出会い」の可能性をとてつもなく感じたインターネットとは、本来こういうモノであった気がする。昨今のSNSを中心としたインターネットを流れているのは、半ば強要される繋がりでドロッとした不健康な血のように思える。サラサラとした真っ赤な血が流れる健康な身体、それこそが「遅いインターネット」活動の先にある本来のインターネットの姿である気がした。


好き勝手なことを気ままに書いてるだけですが、頂いたサポートは何かしら世に対するアウトプットに変えて、「恩送り」の精神で社会に還流させて頂こうと思っています。