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なぜ、コック・オー・ヴァンにはジュヴレイ・シャンベルタンを合わせるのか?#1

コック・オー・ヴァンとジュヴレイ・シャンベルタン。
ソムリエ試験の勉強をしたことがある人ならば、かなり初期に覚える組み合わせだと思います。しかし、何故この組み合わせが推奨されるのでしょうか?

この組み合わせは、ソムリエ教本の「地方料理とワイン」の欄に記載されているものです。よって、「その地方で伝統的に試され、定番となったものだから」というのが教本的な回答になると思います。

しかし、なぜモレ・サン・ドニや、シャンボール・ミュジニーではなかったんでしょうか。同じくコート・ド・ニュイの隣合う村で、同じ品種を使ったワインです。ソムリエ教本にはヒントがなく、多くの人が丸暗記で試験に臨んだものかと思います。私もそうでした。

ずっと疑問だったことですが、WSETの料理とワインの考え方で整理すると腑に落ち、さらには応用にも繋がるものだったので、それを共有しようと思います。

WSETの料理とワインの考え方

WSETの料理とワインに関する、最も結論的な考え方は、以下の通りです。

ワインの風昧によって料理の風味がそのままに現れたり、対照的に引き立てられることがあるという考えは、料理とワインを組み合わせる際に考患される最も一般的な概念の一つだ。例えば、煙製、香辛料、猫鳥類、クリームのような風味の料理には、煙製、香辛料、猟鳥類、クリームの風昧を持つワインが 組み合わせられる。
良い結果につながるかもしれないが、うまくいくか失敗するかは風昧の調和で決まるわけではない。
それよりも、料理に含まれる構成成分 (糖分、油/脂質、塩味など) とワインの構成成分 (糖分、アルコール、酸味、タンニンなど)相互作用によって決まることになる。

(WSET Level3のテキストから引用)

少しややこしい記述なので、使いやすいようにかなり強引にまとめます。

料理とワインの組み合わせは、
①料理とワインを合わせた際のバランスが最も重要。
②さらに風味を合わせると、良い結果に繋がりやすい。

これは、あまりにも身も蓋もない話に聞こえるかもしれません。合わせた際のバランスを気にするなんて当たり前では?と。しかし、それが「キャッチーな風味」や「料理の故郷」より優先されていることが重要です。

バランスの整え方も、WSETの考え方が非常に参考になります。
WSETのテキストでは、料理の五味とワインの相互作用が以下のように記載されます。

料理がワインのバランスに与える影響
(WSET Level3テキストから筆者が作成)

細々と詳細を見るより、具体例で考えた方がよくわかります。

コック・オー・ヴァンとジュヴレイ・シャンベルタンの相互作用

コック・オー・ヴァンとは、雄鶏の赤ワイン煮込み料理です。雄鶏を用いる煮込みであり、風味や旨味の強い料理です。ワインで煮込むため、酸味も比較的高い料理です。作り方にもよりますが、甘み、苦味、塩味が突出した味付けは多くないでしょう。

以下、バランスを取るために考慮すべき突出した要素ごとにバランスを取る方法を考えます。


料理の酸味

  1. 料理の強い酸味は、ワインの果実風味など強めるなど調和しやすい要素だが、ワインの酸をぼやけさせるリスクがある。

  2. リスクを回避するには、酸味の高いワインを選ぶ。

→ジュヴレイ・シャンベルタンは、ピノ・ノワールから作られるワインで、酸味は高いです。これは、モレ・サン・ドニやシャンボール・ミュジニーでも(程度の差はあれ)同様のことが言えるでしょう。


料理の旨味

  1. 料理の強い旨味は、ワインの味を固くするリスクがあります。(ワインの甘み、果実味、ボディが下がったように感じさせる)

  2. リスクを回避するには、凝縮された果実風味を持つワインか、タンニンの多いバランスの取れた赤ワインを選ぶ。

→旨味とのバランスを考えると、例に上げた3村の中では、ジュヴレイ・シャンベルタンが最も果実味とタンニンが強く、最も適切なワインだと言うことができると思います。


以上を踏まえることで、やはりジュヴレイ・シャンベルタンが、コック・オー・ヴァンに合うワインであると言えます。元から定番の組み合わせなので、いちいち細かく考える必要はないかもしれませんが、この考え方は定番がわからない料理にこそ真価を発揮します。

【応用】牛すじオレンジ煮込みとホアジャオのパスタ、何を合わせる?

牛すじオレンジ煮込みとホアジャオのパスタ

初めてこの料理を聞いたとき、これは何料理なんだろうか?とずいぶん戸惑いました。イタリア風なのか、プロヴァンス風なのか、はたまた中華風なのか。「郷土合わせ」では明らかに不安が残る料理です。

当日ぶっつけでのペアリングだったので、料理の名前と作り方から、以下の仮説を立ててワインを選びました。

仮説

この料理は、牛すじの煮込み料理なので旨味が強い。白ワインとオレンジで煮込むため、酸味も高い。構成要素が多く、柑橘、花、ホアジャオの複雑な香りがする。煮込み料理なので焼いたニュアンスの香りは少ない。

旨味と酸味が強い料理なので、先程のコック・オー・ヴァン同様、バランスを取るための条件は以下になります。


  1. 凝縮された果実風味を持つワインか、タンニンの多いバランスの取れた赤ワイン

  2. 酸味が高いワイン

  3. さらに、香りとの調和を考えると、白のアロマティック品種で作られたものが好ましい。ブレンドや醸造で香りが重層的だと、なお好ましい。


これらの条件を考えると、混植・混醸で複数のアロマティック品種で造るられる、アルザスのエデルツヴィッカーが選択肢にあがりました。

エデルツヴィッカーは、比較的ライトなスタイルも多いジャンルですが、マルセル・ダイスのものは、濃厚でボディが強いものが多く、今回はその中で納期的に手に入った「ツェレンベルグ2017」を選びました。

参考に、通販サイトのコメントは以下のとおりです。

オレンジの砂糖漬け、蜜、貴腐ワインを彷彿させる魅惑的なアロマ。柔らかくまろやかな口当たりで、パッションフルーツのようなトロピカルな風味が広がります。黒ブドウ由来のストラクチャーとふくよかさがあり、味わいの重心は低く濃密。どこまでも続くかのような美しいミネラルと酸が心地よい、時間をかけてゆっくりとお楽しみいただきたい1本です!

https://www.winegrocery.com/fs/winegrocery/00335

このペアリングは、仮説で期待した通りに料理のバランスを高めてくれました。料理の故郷(イタリアやプロヴァンス)にとらわれず、このワインを選んだことは成功でした。

おわりに

なぜ、コック・オー・ヴァンにはジュヴレイ・シャンベルタンを合わせるのか?という問いから、私の実践まで書いてみました。

紹介した「WSETの料理とワインの考え方」は、非常にワイン選びの参考になるので、ぜひ詳細も御覧ください。

【再掲】料理がワインのバランスに与える影響
(WSET Level3テキストから筆者が作成)

※この記事は、日本ソムリエ協会や、WSETの公式見解をまとめたものではありません。その知識の活用を検討したものです。より良い解釈や活用のヒントがあれば、コメントいただけたら幸いです。

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