ワインのフェノレとブレットについて
ワイン有識者と飲んでいるとたまに「フェノレ出てるね」、「ブレットあるね」と聞くことがあります。
個人的にはブレットはフェノレに含まれるのでは?と疑問に思っていたので、今回はこの違いと自分の中での定義付けと知識の整理目的で記事を書きます。
☆フェノレとは
そもそもフェノレとは、フランス語で"フェノール性の~"という意味を持つそうです。
しかしワイン業界ではフェノレ=フェノール化合物由来のオフフレーバのことを指しており、揮発性フェノール類と呼ばれます。
フェノレ = 揮発性フェノール類
ワインで問題となる揮発性フェノール類は
上記の4つです。
図にもある通り4VPと4VGのビニルフェノール体は白ワインで問題となり、
4EPと4EGのエチルフェノール体は赤ワインで問題となります。
☆生成経路
次に揮発性フェノール類の生成経路を確認します。
起点となるのはシンナム酸酒石酸エステルや遊離しているシンナム酸で、これらが酵素によってビニルフェノール体やエチルフェノール体となります。
ややこしいのですが、図にRという文字があると思います。
そこにH(水素)がくっついているとp-クマル酸(p-coumaric acid)で、OCH(メトキシ基)がついているとフェルラ酸(ferulic acid)となります。
もう少し分かりやすく図にすると・・・
起点となる物質がp-クマル酸の場合はフェノール系のオフフレーバーとなり、フェルラ酸の場合はグアイアコール系となります。
☆酵素の特性
酵素の説明をしておくと、
☑シンナム酸エステラーゼの由来はブドウ、Saccharomyces(酵母)、ペクチナーゼなどの酵素剤で、名前の通りシンナム酸酒石酸エステルを分解して遊離シンナム酸にします。
☑シンナム酸脱炭酸酵素(遊離シンナム酸をビニルフェノール体に変える酵素)はSaccharomycesやBrettanomycesが持っています。
この情報で分かるようにワインのアルコール発酵で利用されるSaccharomyces属もフェノレというオフフレーバーを生成することになります。
特に甲州はp-クマル酸の含有量が多くフェノレが問題となりやすい品種らしいため、日本ではシンナム酸脱炭酸酵素の活性が低い(もしくは無い)酵母を使用してワインを醸造することがあります。(これをPOF-酵母という。)
☑ビニルフェノール類還元酵素は主にBrettanomyces由来の酵素で、所謂ブレット(4EP、4EG)を生成する酵素です。
この酵素はカテキンやタンニンによる活性阻害を受けないため、Brettanomyces自体をワイン中で活動させないことが問題解決となります。
長くなるので本記事では深くは記述しませんが、Brettanomycesの防除処理は以下のようなものがあるそうです。
個人的な感覚ですけど、↑のような処理には難しいものや品質への影響が大きいものがあるので、樽の洗浄と汚染された樽は廃棄、そしてBrettanomycesが活動しにくい低pHや低温度、分子状亜硫酸の確保などが現実的で重要かと思います。
具体的な防除とその効果については奥村さんの記事を見ることを推奨します。
ブレタノマイセスの繁殖理由と管理|奥村 嘉之/WineHacker|note
☆結論・まとめ
大きな括りではブレット(Brettanomycesによるオフフレーバー)もフェノレに含まれますが、白ワインでBrettanomycesによ汚染は少ないため、私は勝手に、
白ワインでの揮発性フェノール類のニオイ→フェノレ
赤ワインでの揮発性フェノール類のニオイ→ブレットと呼んでいます。
たまにこのような表現を使ったり、生産者にこの認識を伝えても特に問題はなく同意を頂けるのでこれからも↑のように使い分けようかと思います。
参考文献
Daniels-Treffandier, H., Campbell, C., Kheir, J. et al. A new method for the detection of early contamination of red wine by Brettanomyces bruxellensis using Pseudomonas putida 4-ethylphenol methylene hydroxylase (4-EPMH). Eur Food Res Technol 243, 1117–1125 (2017). https://doi.org/10.1007/s00217-016-2822-x
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