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ブドウが赤くなる理由と着色メカニズム

ワインについて勉強中なので、間違いや補足などがあれば教えていただきたいですm(__)m
アツキ(@Z_Wine2017)さん / Twitter

巨峰は赤く、シャインマスカットは緑色ですよね。
ワイン用ブドウであれば、
カベルネ・ソーヴィニョンは黒く、シャルドネは黄緑色のように、

黄緑色から赤・黒色までの様々な色をしたブドウが存在します。

今回は、なぜ黄緑色ブドウと赤・黒色ブドウが存在するのか、
そして、そのメカニズムについて説明します。

・ブドウが色づく理由

ブドウが色付く理由は、ブドウにしか分かりませんが、
説として唱えられているのは、色付くことで目立ち、捕食者に見つけて貰いやすくするためと言われています。

ブドウの捕食者であるには、色覚があり、色の判別ができます。
そのため、鳥はエサとなる植物の実を、主に視覚によって見分けているそうです。

つまり、、、
ブドウは色付くことで目立ち、捕食者に食べて貰って、
種を遠くまで運んでもらう。
捕食者である鳥にとってブドウは、赤や黒色で見つけやすく、
そして、糖分や水分などの栄養を摂取できる。

win-winの関係が成り立ちます。

また、ブドウは、結実初期にはまだ食べられたくないようで、
成熟の少し手前の段階で色がつくことから、
やはりブドウの色付きは、捕食者へのサインのように思えます。

引用先:https://winefolly.com/deep-dive/veraison-when-grapes-turn-red/


・ブドウの着色メカニズム


本題であるブドウの果皮色を決定するメカニズムについて、
記述しようと思うのですが、その前に、、、

黄緑色のブドウ(いわゆる白ブドウ)にも色素が含まれるのですが、
本投稿では、赤・黒色の着色メカニズムについての説明ということをご承知ください。

・ブドウの赤・黒色の色素

まずブドウの赤・黒色といった果皮色は、果皮に含まれるアントシアニンの組成と含量により決定されます。

このアントシアニンは、植物界において広く存在する色素で、ブドウに赤や青、紫などの色を与える物質です。
構造としては、アントシアニジンに糖や糖鎖、有機酸などがが結合している物質です。

⇧アントシアニジンの基本構造で、糖や糖鎖が結合するとアントシアニンとなる。

ワイン用ブドウであるV.viniferaにて生合成されるアントシアニジンは、
・シアニジン
・ペオニジン
・デルフィニジン
・ペツニジン
・マルビジン
上記の五種で、これらのアントシアニジンは、すべてフェニルアラニンから合成されます。

💡アントシアニジンは不安定であるためワイン中では糖や有機酸が結合した状態のアントシアニンとして存在するとされている。

次にブドウのアントシアニン生合成経路について説明します。
ブドウは以下のようにフェニルプロパノイド経路にて合成されます。

引用先:ブドウゲノム・遺伝子発現解析による果実成熟機構に 関する研究の進展

この図をみて分かることは、

☑アントシアニンはフェニルアラニンから合成される。

☑シアニジン-3-グルコシド・ペオニジン-3-グルコシドと
デルフィニジン-3-グルコシド、ペチュニジン-3-グルコシド、マルビジン-3-グルコシドはジヒドロケンフェロールを分岐点として生合成経路が異なる。

シアニジンおよびデルフィニジンのグルコシル化には、UFGTという酵素が関係している。
重要なのは上記の三つかと思います。
そして、着目していただきたいのは、三つ目です。

この経路から、アントシアニンの合成にはUFGTという酵素が重要だと分かります。
このUFGTは、UDP glucose-flavonoid 3-O-glucosyltransferase の略称で、図を見れば分かりますが、アントシアニジンにグルコースを付与する機能があり、ブドウの赤・黒色素であるアントシアニンを合成します。

ブドウ(V.vinifera)において、この着色メカニズムは普遍的で例外がないとされているようです。

ここからは内容が複雑になりますが、
黄緑色品種に色が付かない理由について説明します。

まず白ブドウにもUFGTは存在しており、
また、プロモーター領域も、黄緑色品種と赤・黒色品種に差がありません。

これは、UFGTの発現を制御する上位の遺伝子に変異が起きた可能性が高いことを示しています。

そこで、黄緑色品種であるItaliaとその赤色枝変わり品種のRuby Okuyamaを使用して、アントシアニン合成に関係してそうな酵素を調べてみると、MybA1という酵素が着色に関係していることが分かりました。⇩

そして、最終的に黄緑色品種と赤・黒色品種におけるMybA1の発現を確認すると下図のように、黄緑色品種では発現が見られませんでした。

黄緑色品種と赤・黒色品種におけるMybA1の発現

ちなみにV.viniferaとV.labruscaのMybA1の塩基配列は98.3%一致しています。

・なぜ、黄緑色品種ではMybA1が発現しないのでしょうか?

それは黄緑色品種では、MybA1のプロモーター領域の近傍に、レトロトランスポゾンであるGret1が挿入されていることが原因となり、MybA1の転写が阻害され、アントシアニンの合成が誘導されないことが明らかになっています。

Gret1によるMybA1の発現の阻害

まとめると
・ブドウにおけるアントシアニンの合成にはUFGTという酵素が関係している。
・UFGTの発現では上位遺伝子であるMybA1が関係している。
・黄緑色品種ではGret1というレトロトランスポゾンがMybA1の発現を邪魔している。

・おまけ


画像引用先:https://www.naro.go.jp/project/results/laboratory/fruit/2011/142b0_10_07.html
画像引用先:https://www.naro.go.jp/project/results/laboratory/fruit/2011/142b0_10_07.html

四倍体のブドウの着色遺伝子構成とアントシアニンの含有量を調査したところ、安芸クイーンのようにMybの発現が1つの場合はアントシアニンの含有量が0.3 mg/L以下ですが、Mybの発現が二つである巨峰は1.48 mg/L、Mybの発現が4本のブラックビートではなんと7.44 mg/Lもアントシアニンが含まれています。

V.viniferaでもMybA1の発現が増加すれば色の濃い品種が出来るかもしれませんね。

引用参考文献
・農研機構 . "フラボノイド" . 花き研究所:フラボノイド | 農研機構 (affrc.go.jp) ,(2023年1月23日)

・片山(池上) 礼子, 高居 恵愛, 島田 稜, 松田 賢一, 坂本 知昭, 成熟後期でのアブシジン酸含有肥料処理によるブドウ ‘安芸クイーン’ および ‘ルビーロマン’ の着色特性の差異, 園芸学研究, 2017, 16 巻, 3 号, p. 317-324, 公開日 2017/09/30, Online ISSN 1880-3571, Print ISSN 1347-2658, https://doi.org/10.2503/hrj.16.317, https://www.jstage.jst.go.jp/article/hrj/16/3/16_317/_article/-char/ja,

・Shozo Kobayashi, Nami Goto-Yamamoto, Hirohiko Hirochika, Association of VvmybA1 Gene Expression with Anthocyanin Production in Grape (Vitis vinifera) Skin-color Mutants, Journal of the Japanese Society for Horticultural Science, 2005, Volume 74, Issue 3, Pages 196-203, Released on J-STAGE November 11, 2005, Online ISSN 1880-358X, Print ISSN 0013-7626, https://doi.org/10.2503/jjshs.74.196, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjshs/74/3/74_3_196/_article/-char/en,

・Shozo Kobayashi, Regulation of Anthocyanin Biosynthesis in Grapes, Journal of the Japanese Society for Horticultural Science, 2009, Volume 78, Issue 4, Pages 387-393, Released on J-STAGE October 23, 2009, Online ISSN 1882-336X, Print ISSN 1882-3351, https://doi.org/10.2503/jjshs1.78.387, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjshs1/78/4/78_4_387/_article/-char/en,

アントシアニン - Wikipedia (2023年1月23日)

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