見出し画像

MWiCメモ03 バイトセンサー調整-1

先行テスター(私)の経験談としてのMWiCのバイトセンサー関連の反応とその設定関連のメモです。MWiCのバイトセンサの感想、最初にすべき設定、Swingモードの設定について。(2023年7月23日作成・7/30一部追記)

MWiC詳細は開発・販売メーカーであるTeefonics社のサイトを御覧ください。

MWiCのバイトセンサに関するこだわり

ウィンドシンセの「息でコントロール」に次ぐ大きな特徴は「ビブラートのコントロール」で、プロ仕様のウィンドコントローラーはいずれもブレスセンサの他にビブラートを自在に操作できるセンサを持っており、管・弦楽器のような自在かつ多彩なビブラート表現ができるようになっています。
MWiCは木管楽器を模してアルトサックスのマウスピース・リードと密閉圧力式センサを組み合わせた独特のバイトセンサシステムを装備しています。
(参照:公式サイト https://teefonics.jp/mwic_introduction/feature )

バイトセンサは使い方が演奏者によって違いが大きいインタフェースであり、また演奏技量の差が大きく出やすいインタフェースでもあります。開発段階でもいろいろな意見が出て時間もかかったところでしたが結果として、MWiCはEWI系ビブラート、リップベンド系ビブラートの両方についてプロ〜初心者まで様々なニーズ・レベルに対応できる性能を達成しているものになっていると思います。単一のハードウェアで設定のパラメータ・プログラミングだけでこの幅の広さに対応できていることには驚嘆します。

EWI系ビブラートモードでは
・EWI/NuRAD同様のビブラート挙動(スムーズに持ち替え可能)
・空気圧式センサによる独特のバイト反応感(NuRADの感覚に類似)

リップベンドモードでは
・音程を安定しやすくする「ベンド平坦領域」の有無、カーブ選択・範囲設定が可能。平坦領域が無い場合リリコン挙動を再現。平坦領域はWX、Aerophoneよりも好みにあわせた細かいカスタマイズが可能で、よりスムーズなビブラートを狙える。
・リップベンドのダウン側・アップ側の幅を独立して設定でき、ダウンオンリーも可能
・アンブシュアが安定しなくても吹き出し時に必ず正しい音程になるTrack Bendモードを搭載

一言で言えば既存のウィンドコントローラー同等のバイトセンサ性能・機能を1本に上手く取り入れつつ、特にリップベンドで美しいビブラートを実現するための機能を追加装備していると言えるでしょう。バイト表現について既存の各社コントローラーと比べて能力的に劣ることは無く、演奏者の「好み」のレベルで選んでいただけるだけの製品になっていると思います。

反面、バイトセンサの幅広い使い方に対応するため、設定は結構複雑になってしまっています。特にReed Bendモードでは複数のパラメーターのバランスを取る必要があります。MWiC構造上の特有のパラメータ(B.Compensate)の理解も必要です。しかし慣れれば限りなく自分の好みに近づけられるカスタマイズ性があります。自分にあった設定の過程も楽しむつもりでぜひ使いこなしていただきたいと思う次第です。

どのベンドモードを使うか

前置きが長くなりましたが、いよいよ設定に入ります。MWiCはSwing、Track Bend、Reed Bendの3つのバイトセンサの動作モードを持っています。概要と詳細は公式サイト参照ください。
https://teefonics.jp/mwic_howtouse/bite_sensor 
https://teefonics.jp/mwic_settings/08_Bite-1 

最終的にどれを選ぶかは個人の好みですが、公式サイト(https://teefonics.jp/mwic_howtouse/bite_setting_guide)にもありますが、
好む好まざるに関わらず、MWiCを入手して最初に使用する場合はまずSwingモードで設定することを強くおすすめします。これ以外のモードは考え方がちょっと複雑なので、まずはいちばんシンプルに設定できるSwingモードでMWiC独特の考え方に慣れて適切に設定できるようになってから、他のモードに移ったほうが良いです。

最初に、バルーンの位置調整

バイト設定の前提として公式サイトの「03.マウスピースの取り付け」に従って、バルーンの位置調整とマウスピース・リードの取り付けを行います。
https://teefonics.jp/mwic_howtouse/mouthpiece
この公式サイトの記述通りに行うと、バイトセンサを思い切り噛んだ時のフル値=300くらいになります。まずはこの前提で進めます。

音源側の準備(事実上必須)

以降の調整は、息を吹き込む、タンギングする、リードを噛むという動作をしたときにピッチベンド(PB)がどう変化するか、耳だけでなく「目で見ながら」行わないと非効率かつ判別が難しいです。ですので、MIDIのPB変化がリアルタイムで視覚的にわかるようなベンドホイールやPBメーター表示のあるソフトシンセや、DAWでPBをメーター等で表示させるなどしてそれを見ながら行うことを推奨します、というか見ながらでないと出来ないです。ソフトシンセならIFWやEVI-NER、Vital(無料)等。Macをお持ちならMainstageで自分でPBのメータを作って大きく表示できるのでこれが見やすくて一番のおすすめです。ハード音源ではYAMAHA VL70-mがPBメーター装備ですね。

参考1:IFW他ウィンドシンセ向き音源 https://note.com/windsynth/n/n49c9b5361a08
 参考2:Vitalのウィンドシンセ運用について  https://note.com/windsynth/n/na3b11d4a4f8e

MWiC用Mainstage画面作成例。この画面のメーターの動きを見ながら手持ちの既存のコントローラーとMWiCを交互に吹いて、その差が少なくなるようにMWiCを設定していくのも一つの方法。

なおMWiC単体でも吹きながらPBの変化を簡易的に表示する機能はあって、
https://teefonics.jp/mwic_settings/18_Misc
G&B LEDsを「P.Bend」に設定すると、PBが中央でLED緑色、弱ベンドで消灯、大きくずれたベンドで青色になりますが、これはどちらかというと演奏中にPBがズレていないか確認する目安のためのもので、設定用には大まかすぎて向きません。

[2023/7/30追記]上の写真のようなPBメーター表示入りMainstageのファイルを公開しました(無料)。Mainstageをお持ちの方はよろしければダウンロードしてお使いください。https://note.com/windsynth/n/n3e04cc977ffb

Swingモードについて

Swingモードはピッチベンドを送信した場合、ピッチ変化が通常のEWI、NuRADと同様の挙動となるモードで、さらに細かく言うと「Pitch Bend Up-Down」の挙動です(Down-Up挙動は今のところ備えていません)。リードを1回噛むとバイトセンサから1周期のLFO挙動のトリガーが発生してPBが上→戻る→下→戻るという挙動をします。周期的に噛むことで連続したLFO挙動としてピッチが揺れるビブラートになるものです。AerophoneではEWINDというモードの挙動に相当します。EWI的に演奏したい場合はこのモードを選択します。最も音程が安定しているモードですし、プロ奏者含めてこのモードを選択する方が一番多いと思います。
関連する設定画面はBite-1とBite-3の2つです。それぞれまずは公式サイト参照ください。
・08 Bite-1:https://teefonics.jp/mwic_settings/08_Bite-1 
・10 Bite-3:https://teefonics.jp/mwic_settings/10_Bite-3 

09 Bite-2はバイトセンサの出力をMIDIのピッチベンド(PB)信号だけでなく、任意のCC信号として単独またはPBと併用して出力できる機能の項目で、最初は使わない(デフォルト設定のまま)で良いので、今回は省略します。

SwingモードでのBite設定の流れと詳細

初期設定は下記で、この状態から設定(調整)をスタートします。
Bite-1
Response: 8
B.Compensate:   15%
Function:  Swing
BiteBendAdj:   100%

Bite-3
Min:  10
Range: 300
Curve: 4

SwingモードでのBite設定の流れ

流れ、考え方は下記1〜8の通りです。

  1. B.Compensateを適切に設定して、息をいれたときにバイトセンサが不適切に動かないようにする

  2. Minを適切に設定して、息をいれたときとタンギングしたときにバイトセンサが不適切に動かないようにする

  3. Rangeを変えて、意図した範囲でベンドビブラートがかけられるようにする。BiteBendAdjも必要に応じて調整する。

  4. Responceを微調整して、好みの速さ・深さでコントロールできるようにする

  5. 3〜4の結果が今ひとつの場合、バルーンの位置を調整する

  6. センサーリセット後、1, 2に問題がないか確認する

  7. 3〜4を行い好みにあうよう調整する。

  8. 今ひとつの場合、5〜7を繰り返して自分の好みにあわせていく。

それぞれ詳細に解説していきます。

B.Compensate (Bite-1)の調整

マウスピースをリガチャーも含めて根本まで「がもっ」と思い切り深く咥えてリードに歯や唇で圧力をかけない状態で、タンギング(舌つき)せずに0.5秒くらい、なるべく息を強く吹きいれます。おそらく、ピッチベンド(PB)が少し揺れると思います。PB値の揺れ方が、「先にPBが少し上側に行って、僅かに下側になってから中央(63)に戻る、振れ幅は±10程度以内がほとんど」であればOKですので(息の入れ方によってたまに90位まであがってしまうことがあるのは問題なし)、次の「Minの調整」に進みます。
「先にPBがかなり上がって、かなり下がってから中央(63)に戻る、振れ幅が±30かそれ以上という挙動が頻繁に発生する場合はB.Compensateの数値を大きくします。
先にPBが少し下がって(53程度)、少し上がって(73程度)からゼロに戻る、という挙動の場合はB.Compensateの数値を小さくします。
PBが上下する動きが速すぎてよくわからない、という場合はResponseを遅く(15)してみてください。

Min (Bite-3)の調整-1

Minはバイトセンサの反応の閾値です。先程と同じく「がもっ」と深く咥えてタンギング(舌つき)せずに息を入れます。PBの僅かな揺れがなくなるまで値を上げます(息の入れ方によってたまに強く上に揺れることがあっても問題ありません)。個人差は大きいと思いますが、30〜100くらいにすれば、息を入れた時のPBの僅かな揺れは無くなると思います。
次の確認として、「がもっ」ではなく、普通に演奏するようにマウスピースを咥えて、タンギング(舌つき)と、強弱やアクセントをつけながら普通に演奏するように吹いてみてください(ダブルタンギングができる人はそれも交えて)。タンギングの時にPBが揺れるなら、Minをもう少し大きくします。タンギングを含めてもMin=30〜100の範囲内で、演奏時の吹き込み・タンギング時のPBの揺れは無くなると思います。

Min (Bite-3)の調整-2

ここまできたら、EWIのビブラートと同じイメージでリードを周期的に噛んでビブラートをかけてみてください。自分の思う通りコントロールできればこれで調整は完了です。しかし思った通りにビブラートがかかってくれない(幅が狭すぎる、時々かからない等)ことも多いと思います。その場合一旦Minを初期値の10に下げてみてビブラートがうまくかかるようであれば、普通に演奏しながら「最初に調整した息によるPBの揺れが気にならずビブラートの操作性が良い」ところのバランスをとってMinを再設定してください。しかしそれでもビブラートに不満が残る場合も多いと思います。その場合Rangeを調整します。

Range (Bite-3)の調整

Rangeはセンサの感度に相当します。数値を下げると感度があがって、少ないリードの動きでもSwingのトリガーがかかります。初期値300から、200くらいまで下げると、ビブラートできるようになると思います。Minの値も微調整しながら、程よいところを探ってください。まあこれなら大丈夫かな?という感じになったら、BiteBendAdjとResponceを調整してしてさらに好みに合うようになるか試します。

BiteBendAdj (Bite-1)の設定

ここは必要に応じての最後の微調整です。バイトセンサによるPB変化幅を決めます。初期値100%ですが、ビブラートの深さ=音程変化の幅が大きすぎると感じる場合はこの値を小さくします。

Responce (Bite-1)の設定

SwingのLFOの1周期の速さの設定です。初期設定の8で大体の場合は大丈夫と思いますが、演奏者のビブラートの深さの好み、速いビブラートと遅いビブラートの使い分け、バイトセンサを利用したベンド表現の好みによっては変えたほうが良い場合があります、とはいえSwingモードの場合は好み・個人差があっても5〜10の範囲内におさまることが多いのではと思います。

バルーン位置の調整・再調整

Min, Range,BiteBendAdj, Responceを変えてもどうしてもしっくりこない、思い通りのビブラートコントロールができない、という場は、バルーンの位置を変更します。初期設定ではバルーンの位置はセンサ最大値が300程度になるように、というものでした。これをとりあえず1000程度になるように、バルーンの位置を先端側に動かします(マウスピース種類にもよりますが概ね6mm程度)。一旦マウスピースを外し、チューブを持ちながら慎重にバルーンを引っ張って動かし、再度マウスピースとリードを取り付けて、リードを手で数回押してなじませるた後、センサーをリセットします(Bボタン超長押し)。Bite-3画面を表示して、リードを強く手で押して、画面下部のカッコ内の数字が1000前後になっているか確認します(下の写真で1058になっている箇所)。

センサ最大値が1000付近になるようにバルーン位置調整した場合のBite-3画面

バルーン位置の調整ができたら、まずはそのまま吹いてみてください。かなり音程変化が大きいビブラートがかかるようになったはずです。大きすぎだと思いますので、Rangeをバルーンの最大値に近い値(例えば1000。上の写真では850になっている)にしてみてください。大きすぎるビブラートが、ほどほどになったと思います。Rangeをもう少し大小させて、ある程度好みにあわせます。
ここでB.CompensateとMinが適切か、前述と同じ方法で再度確認し必要に応じ修正します。特にMinは300の時より値が大きくなるのが通常と思います。BiteBendAdjとResponceも必要に応じて調整します。
センサ最大値300の時より1000のほうが好みとなれば、ちょっと手間はかかりますがもう少しだけバルーン位置を動かして最大値500、1500、2000(これはマウスピースによっては息が通らなくて無理かも)の場合についても試してみましょう。どの最大値(バルーン位置)が最も自分が演奏しやすいか
を見つけ、それにあわせて各パラメータの最適値を見つけていきます。

バルーン位置はマウスピース内部の形状との兼ね合いで物理的に最大値2000くらいが限界ではないかと思います。バルーン位置を動かすことで息抜けや吹奏感も若干影響しますので、別に述べたブレス調整(https://note.com/windsynth/n/n1c1fa94974e0)も再度行いながら、自分に最も適したセッティングを見つけてください。

まとめ

・MWiCのバイトセンサ設定は、まず最初はSWINGモードで行う
・バルーン位置を調整しながら、Bite-1, Bite-3の項目を設定し、何回かこれを繰り返して自分にあったセッティングを見つける
・Reed Bend, Track Bendについては別記事で説明します。

参考:私の設定値

ちなみに私のSwingモードでの設定値はブレスもあわせて下記の通りです。設定値は人によって全然違ってくると思うのであくまでも参考に。なお私はビブラートを結構深くかける派です。
マウスピース:ヤマハ4C
05 Breath-A:  Min 60, Range 900, Curve 4
08 Bite-1:  Responce 7, B.Compensate 18%, Function Swing, BiteBendAdj 100%
バルーン位置:最大値約1000の位置
10 Bite-3: Min 100, Range 850, Curve 4

補足

B.Compensateおよびタンギングの影響について

公式サイト:https://teefonics.jp/mwic_settings/08_Bite-1
の通りですが、B.Compensateは他のウィンドコントローラーに無いMWiCの特有のパラメータです。MWiCの構造上、バイトセンサ用のバルーンが息の圧力でも押されてしまうので強く息を吹き込むとバイトセンサも反応してしまいます。これをプログラム上で減算して実質的に影響を無くすためのパラメータです。デフォルトでは15%で、私がいくつかのマウスピース種類・バルーン位置・リード位置で試した限りではSwingモードではほぼ15%のままで問題なし、Reed Bendモードでは少しシビアに調整しますがそれでも15〜22%の間でした(現在の私はYAMAHA 4Cで18%に設定)。仮にSwingモードでB.Compensateを全く使わない(=設定値0%)の場合、息圧でバルーンが強く押されてSwingの強いトリガーが働きます。MWiCのSwingはUp-Down挙動なので、PBが上→下に大きく動きます。B.Compensateをかけするぎる(例えば50%に設定)と、減算が強く働きすぎてPBが下→上に動きます。ですのでこの中間を狙ってトリガーがかからないところに設定すれば良いのですが、そもそも演奏中の息の強さは一定ではないので、B.Compensateだけでは演奏中に全くトリガーがかからないようにするのは不可能でどうしても時々弱いトリガーがかかってしまいます。そこでこの弱いトリガーは、Minで閾値を設定して弱いトリガーを無視するようにします。こうすると演奏中の息によるバイトセンサへの影響を完全に無くすことができます。B.Compensateでトリガーを弱くする→弱いトリガーをMinで無視させる、という流れです。

また、タンギング(舌つき)は「リードに舌を軽く触れる」ことで行われますので、MWiCの機構上タンギングの度にバルーンに軽く圧がかかることになります。特にSwingモードの場合はその圧の開放でトリガーがかかってしまうのでタンギングの度に上下に微妙に音程が揺れてしまいます。これを解消(バルーンに軽く触れても無視)するためにMinの値をある程度大きくする必要があります。

適切なB.Compensate値、Min値、Range値はバルーンの位置(センサ最大値)、個人の息の強さ・タンギングの強さ影響されますので、これらのバランスをとりながら最適値を見つけていってください。

音程が多少揺れても良い?

蛇足ながら、EWIでいわゆる「噛みっぱなし」奏法をすると、幅は僅かですがそれなりに音程が揺れます。これによって「生楽器的あるいはリリコン的な生っぽさ」が出せる効果もありますので、「数値的にPBが全く揺れない」ことだけにこだわって設定しなくても良いかもしれません。強いタンギングの時やオーバーブローした時に多少音程が揺れてもそれは他のウィンドシンセに出せない味の一つになるかもしれません??(クラシック曲を演奏するときは別かもしれませんが)
他のコントローラーを持っている方はそのコントローラーで吹いた時どの程度PBが揺れているか、前述したPBメータでチェックしてみるのもおもしろいと思います。



【ご注意】2023年7月スタートアップ企業Teefonics社より、日本発の新しいWind Midi ControllerであるMWiCの販売予約と貸出試奏受付が開始されました。私は先行してテスターをさせていただいておりましたのでその経験メモをここで共有しております。というわけで本記事の内容は単なる一人のユーザーの経験談でありTeefonics社の公式見解とは無関係です。また速報的なものですのでこれからどんどん変わっていくこともあり得ます。その点ご理解の上、参考になれば幸いです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?