見出し画像

劇団ままごと『わが星』の引力−演劇鑑賞ノススメ

劇団ままごとの戯曲『わが星』が、10月20日から1年間限定で公開されている。

『わが星』は、演劇ファンならきっと一度は聞いたことがあるだろう、名作でありながら、DVDも現在は取り扱われていない、まぼろしのような作品。
それがこの度、国際交流基金のプロジェクト「STAGE BEYOND BORDERS」により、YouTubeに多言語字幕付きで無料で公開されているのだ。

この作品をもっと多くの人、できれば普段演劇を観たことがない人に観てほしい、と強く思い、この記事を書いている。先に断っておくが、決して観やすい作品ではないと思う。
簡単に言えば、とても硬派なのだ。ほとんど小道具を使わず、身体と言葉、声、照明、音楽のみで場面転換を表現する。だからもしかしたら、初めて演劇を観る人には少しとっつきづらいかもしれない。
でもそのセットのない余白が私たちの想像力を掻き立てる。それは小説を読んで情景を想像することに似ている。それこそが演劇の良さだと思う。

・ ・ ・

夜空に瞬く無数の光 今そのひとつが消えた
そのことに誰も気がつかない だって夜空は広すぎるから

かつてあの星には色んな人が住んでいて
幾度となく慈しみあって争いあって そして静かに滅んでいった
僕は彼らを思い出す いつか僕のことも誰かが思い出すのだろうか

あの星の話をしよう そこに暮らしていた人々の話 今はもう誰も知らない話
星の誕生から滅亡までをひそやかに語る

今回はそんな “ままごと”

(劇団ままごと公式サイトより)

舞台は宇宙。物語のなかで、地球の100億年の一生と少女の100年の一生とが交錯する。大きな宇宙の中の小さな地球と大きな地球の中の小さな少女。その対比の中を私たちは交互に行き来する。俳優の動きに合わせて瞬く間に転換する世界。強い引力で私たちは地球と少女の物語の間を行き来し、そして時に現実と物語の間を行き来する。

俳優の体で表現されるその瞬時の場面転換や少女を成人女性が演じたり、おばあちゃんを成人男性が演じたりできるその自由さが演劇の魅力だと思う。
テレビであれば、20代の俳優が高校生を演じただけで違和感を覚えるが、不思議とその違和感はない。むしろ、全く違和感がないために、成人女性がここまで少女を演じられるのかと、終演後に膝を打つのである。

その自由さと可能性が演劇の面白さだと思うし、この面白い世界を一人でも多くの人に知ってほしい。

画像1

撮影:濱田英明


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?