天使と王様
天使の仕事は人間の社会を見守ることである。
そのため天使一人一人に担当の王国があり、その国の王様は一度だけ天使に願い事を叶えてもらうことができるのだ。
しかし、ベテラン天使のミカはもうこの仕事にうんざりしていた。
自分の担当している国の王様はいつもいつもろくでもない奴ばかり。
天使に叶えてもらう願い事もどの王様も決まって
「国民の情報を操作する力が欲しい」というのだ。
そうして、国民の知らないところで王様だけが得するような国づくりをしていた。
そんなことばかりが続くのでミカの心は
「どうしてこんな人たちを私が見守らないといけないのだろう」
「こんな国なんてさっさと滅んでしまえばいいのに」
こんなことを思ってしまうぐらい荒んでいた。
そんな中、ミカの担当する国に新しい王様が生まれた。
その新しい王様はものすごく優しい王様で、自分のことより国を、国民を大事にするような王様だった。
ミカはその新しい王様がすこぶる好きになった。
「あの王様のためになれば」
と思いながら天使の恩寵を王国にたくさん与えた。
その結果、ミカの担当する王国は今までにないぐらい幸せに満ち溢れる王国へ生まれ変わった。
しかし、そんな幸せな時間は長くは続かなかった。
世界中のあらゆる国を巻き込みかねない戦争が起こった。
ミカの担当する国には直接的な攻撃はなかったものの、戦争の影響で作物は育たなくなり、経済は悪くなる一方で、不安に駆られた国民たちは次第に口喧嘩をよくするようになった。
そんな中、王様は願いを叶えるためにミカに会いにいった。
「王様、私に何を望みますか?」
ミカがそう問うと王様は意を決した顔をしてこう言った。
「国民の情報を操作する力が欲しい」
その言葉を聞いた瞬間、ミカは心をハンマーで殴られたような感覚を覚えた。
その願い事は今までのろくでもない王様と同じもの、
「どうして……どうしてそんなことを願うのですか?」
ミカは、どうしても、どうしても、この心の優しい王様がろくでもない王様たちと同じ願い事を言うことが解せなかった。
「国民の不安をとりのぞき、国民同士の争いを防ぐためだ」
「え?」
王様から帰ってきた予想外の言葉にミカは素っ頓狂な声を上げる。
「国民一人一人が違う意見をもつこと、いろんな意見を世間に発表すること、これは大変すばらしいものだ。そこから新たな発見が見つかり、人々は新たな価値観を見出していく」
王様はそこまで言うと少し暗い顔をしながら口論している人々が絶えない自分の国を見る。
「しかし、こんな非常事態ではそれは逆効果になってしまっている。それは誰だって、非常事態の時に自分が助かるためにしていることが否定されたらいやだろう。非常事態を切り抜けるために意見を集めたら真反対の二つの意見が出てきたら混乱するだろう。そうなれば人々に不安がたまりこうやって口論になってしまう、果てには国民同士で憎みあい、争ってしまう」
そう言った後、王様はもう一度天使の方を見る。
「だから、国民の情報を操作して意見を一つに統一さてやりたいのだ。そうすれば国民の不安も多少はとりのぞかれるし、国民同士で争うこともないだろう……もし、私が統一した意見によって国民全体が被害を受けることがあれば……私はどんな罰でも受け入れる」
ミカはその王様の覚悟に感動した。
これでもし、統一した意見が上手くいかなかったら。
その全責任は王様にかかってくることになる。
この王様は国民の不安を取り除くために、国民がお互いを憎みあうことがないようにその責任を負うつもりなのだ。
「分かりました、あなたの願いを叶えましょう。ただ一つ言っておくことがあります」
「なんだ」
「もしこれで、統一した意見によって国民全体が被害を受けたとき、その責任はあなたの願いを叶えた私にもあります。だからあなたが罰を受けるなら私も一緒に罰を受けましょう」
ミカはそう言って王様に手を伸ばす。
「そうか……ありがとう、こんな私のために」
そう言って王様はミカの手を握った。
そうして数年後、戦争は無事におさまったがミカが担当した国はものすごい被害を受けた。
国民たちはそれを王様のせいだとして、“国民全員”が“結託”して王様と王様を支えていた天使ミカを殺したのであった。
しかし……その王様と天使の死に顔はびっくりするぐらい安らかなものであったという。
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