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忍殺トリロジー感想/書籍第三部(3)『キリング・フィールド・サップーケイ』(中)

◇注意◇

現行AoMシリーズからニンジャを読んだ人が、
旧三部作(トリロジー)に戻って色々読んだ感想記事です。
感想の中でAoMのお話もします。

こんばんは、望月もなかです!
先日お財布を落としてたいそう凹んでいたのですが、見知らぬ優しい方が警察に届けてくださり2日後には戻ってきました。治安の良さと見知らぬ方の善意に深く感謝……。そんな安全地帯から、治安最悪シティ小説を読んで興奮している他人ごとの春です。

前回感想はこちらです。

◇◇◇

今回読んだのはこちら。


ニンジャスレイヤー第3部 ♯3/キリング・フィールド・サップーケイ(中)

ガイオンの私立探偵、ネオサイタマの暗黒非合法探偵。人々の欲望蠢く社会の闇を暴く仕事はタフでなければ務まらない。今宵も彼らをニンジャ事件が待ち受ける。

【ザ・ブラック・ハイク・マーダー】

黒いルージュの女は、バーのマスターに私立探偵の行方を尋ねた。先の連続殺人事件について、探偵に伝えたいことがあるのだという。マスターは懐中時計のネジを巻きながら、「ブラック・ハイク・マーダー事件」について語り出した……

書籍限定書きおろしエピソードです。
フジキドさんがネオサイタマに帰ったあとのガンドーさん、どうしているのか気になっていたので嬉しい〜!

彼は錆び付いた身体をどう扱えばよいのか知っている。肉体はすぐに堕落し、怠けようとする。だから日々のルーチンを作り、機械時計のように動かし、精神をその手厳しい所有者にする。

耳が痛い!

すみません堕落し怠けた肉体で……わかっています。わかってはいるんです。私もガンドーさんを見習って、ラジオ体操だけでも継続していきたい。そう思いながら今週何回ラジオ体操した? 1回です…(小声)

彼はページをめくった。スズキ・マトリクス理論の論文流出事件には大いに興味を引かれたが、彼の活動分野は電脳空間ではない。

うわー! つまり時系列は【レプリカ・ミッシング・リンク】の直後!シキベさん復活への輝かしい第一歩ですね。喋る魚類もいなくなった世界! 美しい!!

(ガンドーさんが「二メートル近いタフな身体にダスターコートを纏った」描写、えっちすぎではありませんか?)

凄惨な連続殺人事件の現場描写が「マグロめいて切り刻まれ無慈悲に殺され」なの納得いかない。だからマグロの解体はそういうのじゃなくてさあ。
しかし殺人現場に残される手がかり、被害者の共通点探し、犯人の精神状態を示すかのように徐々雑になっていく手口と、あまりにも真っ当な「探偵もの」の読み味で嬉しくなります。ミステリ読みとしても楽しく読めました。
フジキドさんにおかれましてはぜひ、私立探偵タカギ・ガンドーのタフな仕事ぶりをよく見て参考にしていただきたい。えっ私は暗黒非合法探偵でありニンジャを殺す探偵だから別にいい? そうですか。(暗黒非合法探偵ってなんだよ!)

『それ以外にこんな殺人が可能なのは、ベッドの下やクロゼットの中に隠れていた吸血鬼かニンジャだけでしょう。その点、ニンジャならばハイクを詠むのも納得できますよ!

ぜんぜん納得できないけど…
真顔になってしまう。

残されたハイクの文面に「七つの門」「肉の牢獄」「黄金のゲート」など、オヒガンを彷彿とさせる単語が多いことが気になります。AoMだとト・キコさんあたりの思想と似ているでしょうか。この頃から世界観としてはずっと一貫しているんですね。

忍殺の「オヒガン」≒「インターネット」な世界観、好きです。

カウンターに並んでギムレットを飲んだ大事な人がいなくなる探偵=大好きな小説『長いお別れ』のリスペクトなので切なさポイント倍点。ところでそんな気はしてましたがポイント倍点の「倍点」が検索候補に出てこないので忍殺専用語彙だったのか…と別の意味でもしみじみしています。

「ギムレットにはまだ早すぎる」最高

オムラ社がキョートに攻撃を仕掛けたあの大事変前後、しばらくは、彼の周りにも何人かそういった相棒らしき者がいた。だがネオサイタマから来た厳めしい男は、彼の酒癖の悪さに愛想を尽かして出ていき、

…………。
………待っ………、、?? ?!???

(タイム! タイムを要請します!!!)

◇◆◇

ティータイム

スゥーッ、ハァーッ

ティータイム

◇◆◇


休憩終わり。

さて…………

……読み返しますか。

ネオサイタマから来た厳めしい男は、彼の酒癖の悪さに愛想を尽か

ほんと待って。
待ってください。
錯覚じゃない。なぜ。
あの、これ何!? 初耳ですけど!?!!

双子がデイトレーダーで生きていくことができるのかも激しく心配ですが、それはそれとして、ガンドーさんに愛想を尽かす年下男フジキド概念を急にぶち込まれた事実に動揺が抑えきれません。

フジキドさんからガンドーさんに対しての感情、/真っ暗闇のニンジャ人生のなか、力強く行く手を照らしてもらった恩があり/その光が残像現象のように心にこびりついたままで/だから第三部でも、人生に迷ったときはついガンドーさんの言葉を思い出してしまう/みたいなあれが、マジで、たまらんな……!!と思っているので……

さらにアンダーガイオンの昔馴染みには「私立探偵の横にいるフジキドさん」がこう映ってたんだ!? 第三者視点のガンドー&フジキドコンビが!?!?と思うと、えも言われぬ興奮物質が脳内から分泌され、両手は行き場をなくし、ろくろを、猛スピードで回し続けてしまう! はぁっ、はぁっ

このくだりについて考えこんでいるうちに一行も進まず半日が経過し、翌日になってしまったんですけど、まだ3日くらいは味わえる気がしています。

ずっと(フジキド、年下男のフジキド……)と牛の胃みたいに概念と衝撃をこねあわせたものを胃に放り込んでは消化しきれずまた噛んで…よく噛んで……を繰り返し、言葉通り反芻しており……気づいたらまた一時間が経過しており(ほんと何してんの?)(何してるんでしょうね?!)

全ニンジャにとっての恐怖そのものであるニンジャスレイヤー=サンが、ガンドーさんを前にすると「年下男」になるのあまりに良すぎやしませんか。ありがとう。ガンドーさんの携えた灯が普段は照らし出されることのないフジキド・ケンジの年下男側面に奥ゆかしく届き……私は伏して拝んでいる。

あとエピソードの筆致的に、ブラック・ハイク・マーダー事件を語っているのは(いわゆるいつもの)地の文さんではなく、バーのマスターっぽいんですよね。

さて。
だとすれば、「ガンドー探偵は酒癖が悪くて、相棒に愛想を尽かされたらしい」とマスターが話すのはなぜなのか? 国語の問題です。3択から一番己の解釈に近いものを選びなさい。

1.フジキドはマスターと接触があり、オムラ襲撃事件後「タカギ・ガンドーの酒癖が心配だ。気にしてやってほしい」と伝えてキョートを去った
2.オムラ襲撃事件後、しばらく行動を共にしていたハンチング帽の男が消えたことをマスターが訝んで訊ねたところ、ガンドーが「酒癖に愛想を尽かされちまってな…」的にごまかした
3.マスターは、常連ガンドーの酒癖の悪さに長年じわじわと苛立っている

オレの答えは……全部だーッ!! 
国語だよ。類推と論理だよ。だから妄想ではないんだよ!(渦巻き目)

……でも真面目な話、バーのマスターが、ガンドーの歴代相棒’sを知っている=ガンドーさんはシキベさんだけでなくフジキドさんや双子のことも時計バーに連れてきていた可能性が高いのではないか? と推理できます。キョートの大事件後に、人生模索中双子を馴染みのバーに連れてくるガンドーさん、助かりすぎる。作画してほしい。

「この先は実に呆気ない幕切れで、かつ、血なまぐさいのですがね。話題を変えて、懐中時計にまつわるお話などはどうですかな……あ、興味ない。そうですか。(略)」

マスター、話を引き延ばそうとしていません?
ガンドーさんを待ってたりする?

ライトなミステリ読みの勘としては、犯人扱いされている闇サイバネ医師はシロじゃないかと思うんですよね。コヨミ・ウサギが真犯人か、もしくはハイクの雰囲気が変わったあたりから女中と入れ替わっていて、ウサギが女中で女中がウサギという可能性も……はっ。完全にミステリ読みのドツボに嵌ってしまっている。そもそもこれはニンジャスレイヤーなので、そういうお話じゃない可能性もありますね。

しかし死の恐怖を前にしても、マスターは口を割ろうとしなかった。信じがたいアティチュードだ。長きにわたって私立探偵との繋ぎ役を務めて来た彼にもまた、ある種の矜持と覚悟が存在したのだ。

(思わずタキさんのほうを見ちゃった顔)

タキさんのそういうところも、好きですよ。

キャ~ッ! マスターのピンチにドアを蹴って乱入するガンドーさん!!! カッコイイー!!!!

「お楽しみの所、悪いな」私立探偵は歯で掴んだスリケンを吐き捨て、笑った。

身の丈2mの偉丈夫が歯でスリケン噛むのは……R18ですよ! 破廉恥警察出動。

美女サイバネニンジャの名前はエグザルテッドさんというそうです。

【exalted】 高位の、高貴な、高尚な

ウィズダム英和辞典 第三版

多分これかな。

ウサギさんは普通にサイバネ過剰で亡くなっていたんですね。ある意味では真犯人でしたが、ちょっと考えすぎだったかな。

ニューロン内だとシキベさんと一緒なガンドーさんにああ~!と顔を覆っています。はぁ……。

「……万が一の話だがね。脳チップから蘇ったとして、コヨミ・ウサギはまた魔術をやろうとするかね?」(略)「魔術師は蘇り、そしてまた私立探偵が阻止するわけだ」

えー!これ、実際本当にあり得るんじゃないですか!? AoM世界の今なら、探偵シキベ&カラス所長vs復活のコヨミ!なんてカードも夢じゃないわけですよね。それってすごく希望だなと思います。テックの進歩は、たくさんのものを置き去りにして踏みつけて破壊しながら、同時にこれまで光の照らされなかった者たちへの一筋の希望にもなり得たりする。

他ならぬ私も、地方のテレビ事情ではずっと他人事でしかなかった「好きな漫画のアニメ化」が配信で観られたり、新幹線代を払って都市部へ出なければ手に入らなかった人気ファンタジーの洋書最新刊が、東北の片隅にいながら全世界と同じタイミング・同じ価格でで手元に電子書籍として送られてくる、そんなテックの進歩に救われています。だから、トリロジー時代の荒唐無稽な夢が、十年後には現実問題として彼らの前に立ち現れる――そんなニンジャスレイヤーの世界観がとても好きです。

貴重なフジキドさん不在のエピソード、面白かった!

◇◇

【キリング・フィールド・サップーケイ】

堕落武道家タギ・トワは殺しに手を染め、破門される。彼は潰れた両目をサイバネ化して道場に舞い戻り、師を殺め、やがてニンジャとなった。請負殺人と行きずりの殺しを重ね、空虚な破滅の淵へと滑り落ちていく男……彼は今や暗黒非合法探偵の監視下にあった。

装甲巨大液晶を腹に吊り下げた大型マグロツェッペリンの編隊が、ネオサイタマの超高層ビル街を威圧的に泳ぐ。

一行目で本を閉じた。
脳が処理できなかった。

マグロ型の飛行船が集団で泳いでいる光景……なぜマグロが……?と混乱してしまい、ページをめくる手が止まる。今さらなのはわかっています。

ナムサン! もはや宗教道徳は死に絶え、民はついにあの男すら消費し始めたのだ。

アウトアウトアウト。
さすがにあの男はダメ。

謎のレインコートの男が流れるように邪悪行為しているので読んでるこっちが不安になります。なんて悪い男なんだ! 次のツイートでフジキドさんが出てきてもおかしくない行為を、ひとつどころか連続で行っている!

「封切り前の『ジーザスIV』を落としたぞ、アハー、アハー」
 これは違法ダウンロード! 神をも恐れぬ悪質ハッキング行為である!

あっ! 映画泥棒だ! いけないんだぞ!
コトブキちゃんに怒られてしまえ!

と思っていたら映画泥棒を殺し屋が殺りに来てしまいました。
10年以下の懲役どころではない。

デソレイションさんめちゃくちゃゴールデンボール破壊するのでこわい。フジキドさんも狙われちゃうってことですか? 金のボールを……

だがドージョー・ヤブリが成功した場合、門下生はその場で新たな師範に対して忠誠を誓わねばならない。さもなくば、セプクである。平安時代から続くこの伝統は、マッポ―の世にも未だ息づいているのだ。

そんな伝統知らない。
それとも私が知らないだけなのでしょうか。忍殺、たまにそういうことありますからね。

(……調べた……)

やっぱり新師範代への忠誠と切腹の伝統は存在しないと思う。看板を燃やすくらいが関の山では? すごく堂々と書かれているので騙されるところだった。そんなわけはないんだ!

最後尾車輛には、月飾りの武者兜を被り腕組みして座るニンジャ……ムーンビーム! 数日前、盟友トワイライトが消息を絶ち、今宵、盟友レイディアンスまでもが殺された。

ムーンビーム、字面が強い。

フジキドさんの「探偵手帳」、ほんとにそれは探偵手帳なんですか? ニンジャ陰謀論を几帳面に書きつけたメモ帳なのではありませんか? 疑いの眼差しは稲妻のように鋭く、トレンチコートを射抜く! 


堕落武道家タギ・トワは、ニンジャソウル憑依現象により「デソレイション」となった。僅かに残された人間性であろうか。デソレイションは、荒々しい欲望に身を任せながらも、殺し屋の依頼だけは律儀にこなしていた。

才能あるアキラはデソレイションに気に入られ、ツキビトの位階まで進んだ。(略)哀れな依頼人トバツとのやり取りを聞いていて、怒りと我慢が限界に達したアキラは、勝てぬ相手と知りながらフスマを開いたのだ!

アキラさん……! あんた、漢だよ!!

「ウオーッ! 使わない……! マシンガン・カラテドージョーを愚弄するな!」アキラは歯を食いしばり、ナックルダスターを放り捨てた。

アキラさん……ッ! あんた真の漢だよ!!!!

「誰だ」とデソレイションが言った。「ドージョー・ヤブリだ」と暗黒非合法探偵イチロー・モリタは言った。

そしてこの人は何言ってんの? 堂々と言えば何とかなると思ってるフジキドさんシリーズもここまでくればドン引きですよ。

探偵は道場破りじゃないんですよ。さっきの【ザ・ブラック・ハイク・マーダー】をフジキドさんも読んでください。探偵というのは、ああいう仕事をする人のことをいいます。ガンドーさん何か言ってやって。


デソレイションの満たされぬ心は、色を失い荒んでいくばかりであった。過去の残響がサイバネ視界を白く染める。だが。道場のフスマを開け放った赤黒の影が、雷鳴の如くカラテの高揚感を呼び戻した! 

迫り来るボールブレイカーの脅威を前に、ナラク・ニンジャが目覚めたのだ!

フジキドさんの大事なもの(暗喩)を守るために目覚めたナラクちゃん、なんか笑ってしまう。すみません。

普通にカラテで勝っちゃいましたね。ムーンビームさんまだ到着してないけど大丈夫でしょうか。(ページをめくったらまだ半分くらいあった。もう一波乱あるみたいですね)

「ドージョー・ヤブリは成し遂げられた!」破れたフスマの奥から、ニンジャスレイヤーの声が響き渡った。その姿は再び、ハンチング帽にトレンチコートへと変わっていた。

黒帯奪ったり看板割ったり、堂々と胸を張って道場破り仕草をし続けているフジキドさん、ゆきずりのなんか変なカラテの強いおじさんの行動としてはまあそこまで問題ない(そうか?)と思うのですが、一番の問題は「探偵」を名乗りながらこれら一連の行動をこなしていく精神性なのですよね。どうゆう理屈が彼の中で働いているのでしょうか。謎すぎる。

「死ぬ前に洗いざらい話すがいい。アマクダリ・セクトの秘密についてな」(略)「なんだ、てめえ……アマクダリの刺客じゃねえのかよ」「……何?」探偵が眉根を寄せた、次の瞬間。

しかも推理が間違っている。

これじゃ難癖付けてニンジャを殺しに来たカラテの強いおじさんでしかないよ! 

ムーンビームは直ちに奥の手、イザヨイ・ジツを繰り出す! 月光を集積し、その両目から危険な殺人光線として放つヒサツ・ワザだ!

素朴な疑問なんですけど、これ昼間や新月の夜には使えない技では? 昼は役立たずになっちゃうのかな…


ニンジャスレイヤーは、デソレイションを殺すことなくカラテで下し、ドージョー・ヤブリを宣言した。だがアマクダリの乱入に乗じて殺し屋は姿をくらましてしまう。裏路地に残された市民の遺体を発見したフジキドは……。

「お金は借金したのでたくさんありますから、入院させます。退院したら、幸せな生活を送るんです」トバツが言った。

それはあるって言わない。

二週間ほど前、アキラは暗黒非合法探偵の都市伝説を知り、藁にもすがるような想いで、依頼メッセージを送信していたのである。

一応依頼があって現れたかたちだったんですか。フジキドさん、疑ってごめんね。でも依頼者のアキラ本人もフジキドを単なる道場破りの人だと思っていたってことは、……依頼に応えて道場破りしにくるのって、やはり探偵としては変な行動だったのでは!?

「……すまぬ、アキラ=サン、私には無理なのだ。人に物事を教える資格など、私には……ない」

AoM時空にやってきた今、【ドラゴン・ドージョー・リライズ】でドラゴン・ドージョーを陰ながら支える姿や、2024年末年始スレイトでユカノさんに請われてパソコン再起動をかける姿、マスラダくんに不器用ながらインストラクションを伝えようと頑張る姿を思い返して嬉しくなりました。十年の時を経て、フジキドさんが「私にセンセイの資格はない」と同じ言葉を口にしながらも、物事を教える行為に対して心穏やかでいられること、嬉しいです。

まあユカノさんに社会性を教えていかないと、大変なことになってしまいますからね……「物事を教える資格などない…」とかいってるうちに自己破産しそうでしたからね。姉弟子って偉大。

アキラは不意に、気恥ずかしくなった。「そうだ、ニンジャなど実在しない……フィクションの存在だ……」己は何か一足飛びに、安易な手段でカラテを高めようとしていたのだ。それがニンジャだったのだ。危うく、武道家としての一線を踏み越えるところであった。

アキラさん!あんた本当に真の漢であり崇高なる武道家だよ!!

……気がつくと二人は、荒れ野にいた。廃駐車場で向かい合っていた時と同じ体勢、同じ間合いのまま。純白のショドー用紙に水墨で描かれたかのごときモノクロームの荒野で、二人は対峙していたのである。
「さあ、カラテしようじゃねえか」

これが本編初サップーケイ。

私はAoMから出戻り勢なので、ホローポイントさんが初サップーケイだったのですが、実際こちらが元祖ですね。かっこいい。これはぜひ漫画で見てみたいですね。コミカライズ三部はまだだいぶ先ですが、すごく漫画映えしそうで今からとても楽しみです。

ホローポイントさんの回も読み返したくなってきました。ホローポイントさんのサップーケイ好きなんですよね。裏路地でありながら海の底なのが……


デソレイションの使う特殊なジツの正体は、相手を一対一のジツ無効化カラテ空間に引きずり込む「サップーケイ」であった。絶え間なく襲い来るアマクダリの刺客。追い詰められたデソレイションの精神は摩耗し、僅かに残っていた人間性すらも削り取られていく。

雨はなく、時折強い風が吹く夜だった。

「入り」の文章うますぎ。良い文章には癒し効果があります。

東の空では、ジェット・パンクスの集団に取り付かれて破壊されたマグロツェッペリンが、青白い火花を散らしながら流され、タマ・リバーに向かって静かに沈降していった。

治安が最低すぎる!!! 癒しが吹っ飛んだ!!(地団駄)

チャドー呼吸は、ナラク・ニンジャの気配さえもニューロンの奥底へと遠ざける。ナラク・ニンジャの力を用いたとき、フジキドは必ずやチャドー呼吸を行い、高まりすぎた殺忍衝動を冷ましてきた。

なるほど。
チャドー呼吸ってフジキドさんの精神安定剤としても大事だったんですね。己を律して、ナラクとの適正な距離を確保するためにも、なくてはならないものなのか……なるほどね。ドラゴン・ゲンドーソーとの出会いが、あらゆる意味でフジキドを救ってくれたのだと思い知らされます。

逆に「憎悪の鍛え直し」を行わなければ「ニンジャスレイヤー」として生きていけないフジキドさんを見ていると、(マスラダ・カイ、自我が強すぎるな……)と改めて思わされます。自我が強すぎる。何だよニンジャスレイヤー屋さんって。

その手には、中世ペスト医者めいたメンポを被るニンジャの生首がひとつ。

またそうやって生首持ってきて。もとの場所に捨ててきなさい。
深く傷ついたフジキドの心の回復には、このルーティーンが必要? じゃあしかたないか……十年後にはもうやってないみたいだし、落ち着くまではしょうがないかな…。(いつ落ち着いたんだろう……さすがにもうやってないですよね?)

デソレイションは破れたショウジ戸をだるそうに蹴破り、元ツキビトの死体を紙屑のように縁側から放り捨てた。アキラであった。

そ、そんな……。アキラさん……。

じゃあ最初の道場破りの時に、ナラクちゃんの言うことを聞いて容赦なくタギ・トワを殺していれば、こんなことにはならなかったのでしょうか。でも……それがフジキドさんにとっていいことなのかどうかは……。苦しい。


ニンジャスレイヤーは罠と知りながらも、暗黒コッポ・ドージョー跡を訪れた。そこで見たものは、アキラの惨殺死体とデソレイションであった。アマクダリの刺客が迫り来る中、デソレイションのサップーケイが発動する。色のない荒野で、彼らは向かい合った。カラテのみが勝敗を決する!

「魂をヤスリ掛けされるような感覚」という表現がいいですね。

死闘の末に相手を倒したのに荒野から抜けられなかったのに驚きました。サップーケイって、勝った方が現実に戻れるんじゃなかったんですか?! 術者本人以外が勝ったらだめなのかな……そんなのもう引きずり込まれた時点で詰んでるじゃないですか。ヤバすぎるのでは? ズルだよ……

なんか走ってたら抜けましたけど、これもどういう理屈なのでしょうね。
モノクロームの世界に赤が着色する描写が美しかったので強引に納得させられてしまいましたが、冷静に考えるとよくわかりません。

AoMシーズン2で、ホローポイントさんが間違って一人でサップーケイに入ってしまった時は、コトダマバグ亀裂を通って現世に帰還してましたよね。つまり、術者自身の形成した近似ローカルコトダマ空間に強引に引きずり込む、そんなカラクリなんでしょうか。
Fateの固有結界以外にも似たようなシチュエーションを見たことがあるけどなんだっけ……と考えていたら思い出しました。『レベルE』高校野球地区予選編です! すっきりしたー! 野球部全員が、ある部員の無意識領域(野球場)に引きずり込まれて野球する話です。あれに近いメカニズムだとすれば、「術者の意志が伴わなければ脱出が無理」という理屈もわかるかもしれない。


鬼気迫るカラテ応酬の果てに、ニンジャスレイヤーは勝利した。だがデソレイションは爆発四散してなお、ニンジャスレイヤーを荒野に縛り続けた。ニンジャスレイヤーは駆ける。重金属酸性雨降りしきる、ネオン輝く欲望都市へ。

そもそも彼女は稼ぎの悪いトバツを見限って自らハッカー・バロンの愛人となり、自分は恥辱でセプクしたとの噂をクラブに流させていたのだ。

ワモさん逞しすぎるな!?
デソレイションさんの破滅も含め、今回の悲劇はある意味すべて彼女に起因しているのかもしれないってことですよね。もちろんアマクダリに目をつけられていたデソレイションは遠くないうちに殺されていたでしょう。それでも、トバツさんは彼に殺しを依頼しなかったかもしれない。ならフスマを隔てたトバツの不遇に憤って、アキラが下剋上をすることはなかったかもしれない。

何を言ったところで、最後まで生き残って映画を楽しんでいるのはワモさんなのですよね。映画の出来がどうであれ続編制作が決定しているのと似たようなもので、誰が生きて誰が殺されようとも運命は大きな流れに沿って収束していく。ニンジャスレイヤーらしい無情さのある、読み応えあるエピソードでした。

それにしてもサップーケイ格好良すぎる。

というわけで、今回はここまで。
長いですね。すみません。
次は「ブッダスピード」と「インガオホー」の予定です。
ではまた、次回の感想でお会いいたしましょう。

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次の感想はこちら。

【感想目次】



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