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忍殺トリロジー感想/書籍第二部(9)『ピストルカラテ決死拳』(上)

◇注意◇
現行AoMシリーズからニンジャを読んだ人が、
旧三部作(トリロジー)に戻って色々読んだ感想記事です。
感想の中でAoMのお話もします。

こんばんは、望月もなかです!
『スズメバチの黄色』で忍殺に復帰し、以来AoMの連載を読んでいるタイプの人です。最新話を追いかけながらの並行トリロジー、第2部の5巻です。眠っていた主要キャラクターが次々と目覚め、敵幹部も揃ってきました。そろそろキョート編も折り返しかな? 舞台でいう幕間休憩が終わった感じですね。

前回感想はこちら

◇◇◇

今回読んだのはこちらです。

ニンジャスレイヤー第2部 ♯5/ピストルカラテ決死拳

ナラクが戻り、ナンシーが目覚める。ネオサイタマでの仕事は終わった。フジキドはガンドーの安否を確かめるため、急ぎキョートへ旅立とうとする……だがその直前、謎めいたIRC通信がユカノの危機を告げる。ザイバツはなぜユカノを狙うのか? 三神器とは何か? 銃弾を受けたタカギ・ガンドーの運命は!? 舞台はふたたびネオサイタマからキョートへ移る!

 【シージ・トゥ・ザ・スリーピング・ビューティー】

貪婪の都ネオサイタマ。ザイバツへの敬意も知らぬ、洗練とは程遠い粗野な街だ。私は中央では持て余す個性的で奔放な部下たちの長所を伸ばし、いつかキョートへ帰還する日を思い、真面目に勤務していた……だがニンジャスレイヤーがネオサイタマに舞い戻ったあの日から、すべてが狂いはじめた。ギルドに仇なすネオサイタマの死神よ……私は貴様を断じて許さぬ!

ワイルドハント=サン、カワイソウ。

ワイルドハントは、オペレータの告げた言葉に何の反応も返さなかった。「バイタルサインが喪失!」オペレータは僭越を押して再度繰り返した。(略)「喪失」ワイルドハントは呟いた。
「地下駐車場! ニンジャスレイヤーです!(略)いかがなされますか?」「ニンジャスレイヤー?」ワイルドハントはうわごとめいて、「ダークドメイン=サンと通信をつなげ」「ダークドメイン=サンのバイタルサインが喪失しているのです!」ほとんど悲鳴じみてオペレーターが繰り返した。

横暴上司の突然の死に静かに動揺しまくるワイルドハントさん。可哀想で見てられない。

なお感想を書くにあたって3部作アーカイブ版【シージ・トゥ・ザ・スリーピング・ビューティ】をざっと眺めてみたのですが、上で引用した冒頭の可哀想なワイルドハントさんのくだりは完全に物理書籍版の加筆だったので目を覆いたくなった。なぜここまでの追い打ちを、彼に!?

ついでに読み比べてみたのですが、このエピソード、加筆がすごく多いんですね。
ワイルドハントさんの可哀想なあれそれ以外にも、シバカリさんの逃走劇、アマクダリとの情報戦、ナンシーさんの自我希薄化から物理世界への回帰など、Twitter連載版にはない記述が多くて驚きました。面白いですねえ。

というわけで物理書籍加筆パートのチバ坊ちゃん。通信越しでも滲む色気と権力行使への慣れが増し増しになってて最高の気分でござる。自覚的な傀儡ポジションにありながらもこの風格、『スズメバチの黄色』でのチバ様に繋がる姿が見られて惚れ惚れしました。かっこいいです。

((((略)……だが引かぬぞ。ギルドの栄光は我が双肩にかかっていると心得よ、ワイルドハント!))) 彼は己を叱咤した。

脳内で己を叱咤しはじめた。
かわいそう。

「そしてワイルドハント=サン……うつろな日々の泡の上、無駄な努力をどれだけ積み重ねることやら……」

なんて酷いことを言うんだ。一応…味方なのに!

「モスキート=サン、状況はどうなっている」『今回は、そのう……この点いまだ把握していないのだが……白人女性を、好きに?』「まず状況を!」

か、かわいそう。

こんな意味不明部下でも優秀さを認め、適材適所でそこそこ使いこなしているっぽい感じなのに……ワイルドハントさん自身は優秀な隊長の筈なのに、なぜ、なぜこんなことに…。

そしてその転生した俺たち、もといモスキートさんは絶好調ノリノリで語彙がすごい。鍵を閉めて「密室事案!」とか言い出したときはいっそ感心しました。その豊かな語彙力、ちょっと羨ましい。

『モスキート=サン。現在の状況を……ブツン』ワイルドハントからのIRC要請をすげなくオフにすると、モスキートは己の欲望を最優先で果たすべく(以下略)

隊長かわいそうだよォ!!(悲鳴)

亡霊の正体はダイダロスさんですよね。自我を失ってなお恐ろしい強さ。しかしほんとに加筆修正が多いですね!

「ドーモ。ニンジャスレイヤー=サン」ニンジャスレイヤーの腕の中で、ナンシーが見上げた。その目には力があった。
「タダイマ」彼女は薄く微笑み、ニンジャスレイヤーの首に手を回した。

いい……。この二人の深い深い信頼関係、すごくいいですね……。

暴走機関車と暴走機関車が互いに競い合うように走り、互いに相手が脱線しかけたときは手を貸して、レールの上に留めておいてくれるみたいな……そんな素敵な関係ですよね。(※暴走はする※)

ナンシーさんを抱き上げる前に「失礼を詫びる片手アイサツ」をするフジキドさんがさりげない描写ですがめちゃくちゃ好きだぜ……!

ワイルドハントは目を閉じ、息を吐いた。(((何が起ころうとしている? ケチの付きはじめはどこだ。(略)私は……私には何が足りぬ?)))

温泉旅行券あげたい。憩って。

足りないのは……何でしょうね。運かな。

「現実ってすごく綺麗よ」ナンシーは笑った。

良い~~~~!!!!

読者の皆さんには説明しておこう。巨大な蜘蛛状脚部にオムラ社のロボニンジャ、モータードクロの胴体を接合したこの不格好なマシンの名はモーターカニ。

(優しく本を閉じた)

(精神回復タイムを申請します✋)

イグナイトさん派手でいいですね! ちょっと今まで出てこなかったタイプのニンジャさんでは?(言動もあまりザイバツっぽくない気がする)

ワイルドハントさん最後まで可哀想でしたね。

足りなかったのは「運」じゃないかと思ってましたがザイバツ離脱絶叫を見ていたら足りなかったのは「退職(または転職)する勇気」だったんじゃないかと思えてきました。南無阿弥陀仏。あの世で温泉旅行にでも行って憩ってほしいです。

ザクロさん&ヤモトさんのニチョーム嬉しい!
思ったよりも早く、実現しない口約束でもなく、本当に困ったときにフジキドさんが絵馴染に訪れてくれたの嬉しいですねえ。やったあ!

今度はナンシーさんもキョートに来てくれるということで、だいぶ安心感が違いますな。よかったよかった。(やっぱりキョート編冒頭でフジキドさんが一人で土地勘のない土地に突っ込んでったのおかしいんですよ)

それはそれとして

「とことんやる」彼はナンシーの覚悟を繰り返した。「とことんやるのか……」とデッドムーン。「とことんやるのね」とネザークイーン。「とことん……」とヤモト。

これは笑いました。引かれてるのでは!?www 

謎の電話がかかってきたところで続く。

このエピソードを通して、第一部では鉄輪のように固く繋がっていながらもどこか頑なだったフジキドさんとナンシーさんの信頼関係が、しっかり結ばれた縄紐のような手触りのあるものに変化した気がします。

ニンジャも敵味方、ハッカーから爆弾屋からジツ使いまで多種多様にたくさん出てきて、ショタ若の堂々たる姿も拝めて、とにかく贅沢なエピソードでした!すごく面白かったです!

◇◇

 【ウェン・ザ・サンズ・バーンズ・レッド】

赤く燃える夕暮れ、緑茶園の庭園リングで、奴隷格闘家となったホリブチは友を自らの手で殺した。勝利の褒美として抱いた茶摘娘ナツメとの出会いが、死にかけていた彼の胸にふたたび赤い火を灯すのだが……。

 二頭立ての水牛戦車に乗る、明らかに高貴な装束を纏った男。(略)その男の名はパーガトリー

MC公家のひとですよね?

「YOYO~アアーハァー」MC公家は驚くべき美声を張り上げ、場の空気を塗り替えた。古典発声!「即ち麿の能スタイル、麿の美技に酔うべし、下賤の者に作り出せぬフロウじゃ」ワオオーッ!

この人ですよね?

ラップ次元(※2021年忍殺エイプリルフール企画)の汚染により曇ったガラス越しにしかパーガトリーサンを見られなくなっている! ごめんなさい!

このような男にイグゾーションを殺せる筈が無い。師父は派閥政争に敗れたのだろう。

あ! 今気づいた、ブラックバンタムさんって前巻の【システム・オブ・ハバツ・ストラグル】でデトネイターさんをわざと違う名前で呼んだりしてネチネチ苛めていたあの人でしたか~。そういえばパーガトリー派閥に引き抜かれたとか、茶摘みがどうとか言ってましたね。こう繋がるんですか、なるほどねー!

でも威張ってるわりに戦法がせこくて、しょぼい。負けてもしかたない。残念。

ホリブチさん&ナツメさんが無事に逃げられて良かったです。彼らがまた登場することはあるのでしょうか。出てきたら嬉しい。

◇◇

 【ガントレット・ウィズ・フューリー】

修行僧仲間を皆殺しにし、宝具を奪って出奔した破戒僧グノーケを追って街に飛び出した若き僧アコライト。両手首には、宝物殿の彫像に隠されていた鋼鉄の籠手が装着されていた。情報を追って飛びこんだヤクザ事務所で、彼は謎めいた赤黒のニンジャと出会う。

急に奇声を上げた修行僧のボンジャンシャウトが始まったので読書を中断した。や、やめて。心の準備をさせてください。

その緊張感溢れるカラテは、歴史あるボンジャン・テンプルが、キョートに無数に存在するバトルボンズの頂点に立っている事の証左だ。

キョートに…無数に!? このような狂える坊主たちの寺が無数に!?

まさかヨコハマロープウェイのあの人が再登場するとは思いませんでした。スミスさん逞しく生きているようでなにより。波乱の人生でしょうがどうかまた会う日までお元気で……。

しかしこのエピソードあまりに普段のノリと違うのでどういう顔で読んだらいいかわからないな。

 アコライトは目の前の赤黒のニンジャに対し、あけすけに言った。彼は若く、しかもこれまでの人生の殆どをテンプルでの修行に費やして来た。ゆえに彼は「まず疑う事からかかるべし」という、マッポー社会におけるザ・モースト・ベーシック・メソッドを持たぬ。

瞳が……瞳が澄んでいる! 夏祭りのラムネ瓶から取り出したあの日のビー玉みたいに無垢な光を透かして、どこまでも澄んでおり……逆にこわい!

「こんな場所にいては、オヌシの功徳にダメージがありそうだな」ニンジャスレイヤーは言った。「いえ」アコライトは首を振った。「そういったシステムがあるわけでは。……単に私が至らぬのです。慣れなくて」

しかも奥ゆかしい!?

大丈夫? えっ普通に心配、こんな純粋無垢なシスターみたいな人を忍殺世界に放り込んではいけませんよ。貝殻と星の砂の南の海より透き通った瞳をしているじゃない。

この時期のフジキドさんが気遣って配慮して会話をするの相当ですよ。アコライトさんとニンジャスレイヤー、あまりに住む世界が違いすぎて、フジキドさんが(ニンジャにも善良な魂の持ち主がいるかもしれない)と考えを改める材料にするにもなんか……異世界で採取した材料なので参考にならないというか…

「眉目秀麗でいらっしゃいますなぁ」

しかも眉目秀麗! たいへんだ。たいへんですよ。山に返してあげないと。

「俺のサイバネ・キャタピラーは防御したお前のガントレットごと腕をグラインドしてミンチ重点なんだよォー!」

キャタピラーさんの発言がリズミカルで面白い。たまに現れる「活きのいいセリフを残しまくって死んでいく三下ニンジャ」の一種だ。好きです。

これはブッダ城伝説に因んだ悪しきカリカチュア構造であり、イヴォーカーにとって精神的に重要な防衛システムであった。

ブッダ城伝説 is 何(いやな予感がするので絶対に知りたくないですが)

悪いが容赦はせん。ボンズの眼前であってもだ」ニンジャスレイヤーはアコライトに言った。「わかっています。私に貴方を責める資格はない」

フジキドさん(しかもシルバーキー氏以前)の配慮あまりに珍しくて笑ってしまいます。ごめん。フジキドさん、あの透き通った瞳に見つめられると罪悪感を抱いてしまうのかな……。無垢とは、圧。

「違う……全然違う」咳き込みながら抗う声あり。アコライトである。若者は壁から身をもぎ離そうともがいた。「未熟者の私にもわかります、違います、答えは……そんな手前勝手な理由付けの中には無いんだ……ブッダはイモータルでは無い……我々と同じです!」

アコライトさん、滾々と湧き出る湧水のように魂が美しい。どんなに無垢でも善良でも、彼は人形でもオイランドロイドでもない、怒り哀しみ、善を為したいという意志のある優しい若者なのですね。

(デスドレイン君とめちゃくちゃ相性悪そう)
(間違っても出会わないでほしい……誰も幸せになれないから……)

(コトブキちゃんとはかなり相性良さそう)
(こちらは出会って一緒に修行とかしてほしいですね)
(AoMのキョート編は見たいかもしれない!)

ヌンチャクか素手かフックロープで戦うフジキドさんは見たことがあっても、棒はめずらしいので戦闘シーンがすごく楽しかったです!

◇◇

 【ガントレット・ウィズ・ミスフォーチュン】

アンダーガイオン第九層で、見境なく住民を殺す化物が現れた。神器に囚われた男の、なれの果てだ。ダークニンジャは神器回収に乗り出す。

この怪物が、前のエピソードで逃げ出したイヴォーカーさんってことですよね。アコライトさんもあのまま吞まれていれば同じ目に……魂が澄んでいてよかったよかった。

鉤爪がダークニンジャの顔面を斜めに削いだ! 否! それは残像であった。こめかみに微かな赤い線を一筋残すことができたのみ!

地の文=サンからフジオに対する確かな劣情を感じる。視線が、熱い。

一読した時は気がつかなかったんですけど、ここで手に入れた(アコライトさんが寺の彫像内部から見つけ、その後イヴォーカーに奪われた)ガントレットが、ベッピン鍛え直しのときにフジオが身につけていた三神器のひとつだった、という流れで合っているんですよね? ちょっとわかりにくい感じがしました。「聖なるブレーサー」なる神器名と、呪いアイテムじみた形状の「ガントレット・ウィズ・(不吉な単語)」が頭の中ですぐ結びつかなかったせいだと思いますが。

聖なるボーの呼びかけも、神器がただの聖なるアイテムじゃないことを示しているようでしたし、ヌンチャクもマスラダくんが初めて使ったときは、闇が彼を呑み込もうとしてる感じがしました。カツ・ワンソーの身体の一部を鋳溶かして造られた神器……まだまだ秘密が多そうですね。

長くなってきましたので、いったんここで区切ります。
ではまた、後半の感想でお会いいたしましょう。

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次の感想はこちら。

【感想目次】



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