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日本サッカーへの強い思いに突き動かされて生まれるもの。『Foot!』敏腕プロデューサー・土屋雅史氏のお仕事ウラ話

3月14日、大分トリニータ公式コンテンツ「トリテン」に掲載するために、J SPORTSの人気番組『Foot!』のプロデューサー・土屋雅史氏へのインタビューを実施しました。話題はトリニータ関連から派生してお仕事のことにまで及び、時間も予定を大幅にオーバーした1時間超に。

サッカー番組プロデューサーのお仕事の裏側や、その「サッカーオタク」ぶりを広くお伝えしたく、こぼれ話的にこちらでお届けします。(※一部トリテンとカブっていますが、大筋は別内容となっています)

みなさんもJリーグロスでいろんな思いを抱えているかと

——お忙しいところインタビューに応じていただきありがとうございます。

だいたい土日は試合取材なんですけど、いまは取材がないので休もうかなと。再開されたら高校生の大会も結構詰め込まれてしまうと思うので…いまはゆっくりしてます(笑)。

——まず、土屋さんのお仕事についてご紹介いただけますか。

はい。J SPORTSの『Foot!』という番組を制作しています。役職としてはプロデューサーです。月曜から金曜まで、曜日ごとに毎日いろんなトピックスを扱っている中で、木曜と金曜を担当しています。木曜は育成年代。金曜はひとつのテーマを設けて、そのテーマに沿った2人ないし3人を呼んで、ひたすら30分間それについて話すというフォーマットです。

——いま、J SPORTSのサイト内の「mas o menos」で「Pre-match Words」を再掲してらっしゃいますよね。中断期間中の視聴者サービス的に?

やってますね、鬼のように(笑)。うち、Jリーグ中継をやっていないので、なかなか扱うトピックスもないなと思っていて。でも、僕もJリーグがすごく好きだし、みなさんもJリーグロスで「早くはじまらないかな」って、いろんな思いを抱えてるんじゃないかなと思いつつ。

2015年と2016年の2年間、J SPORTSが中継するカードのどっちかのチームの選手ないしは監督に、試合の週のどこかで現地に行って、僕一人でカメラとICレコーダーを回してインタビューを録っていたです。それがめっちゃ楽しかったんですけど、2017年くらいにJ SPORTSのホームページがサーバーを移行するか何かのタイミングで全部消えちゃったんですよ。

——悲しすぎる。J SPORTSにとっての財産じゃないですか。

そう、僕もそう思ってたんですけど、僕以外の人の2017年より前の過去ログもほぼ消えちゃったんです。僕にとっても楽しい企画だったし、どこかで再掲載する機会はないかなとちょっと思っていて。で、こういう状況になったタイミングで、あらためてもう一回やり直してみようかなと。毎日3回分、再掲載をはじめたんです。

——結構、怒涛の勢いで(笑)。

はい、いま時間あるので(笑)。

——取材された選手たちも掲載当時のチームからいまは移籍してたりするから、読者にとっても新鮮ですよね。

そうそう、そうなんですよ。あの企画はコンセプト的に、チームの中で、ちょっと失礼な言い方になっちゃうかもしれないけれど、大体5番目から6番目くらいに人気のある選手とか、肉声を聞いたことがないなって思うような選手を選んで取材していたんです。「肉声聞いたことないシリーズ」という感じで、動画を10〜15分くらい録って、それを5分くらいに編集して出していました。

——人選がシブいんですよね。で、その肉声を聞いたことなかった選手たちが、いま見るとその後、活躍されている。

そうですよ。ほとんどの選手が移籍してるんですけど、そこで存在感を発揮してますね。

——その慧眼がすごいなと。

いや、慧眼はないですけど(笑)。

選手権を見たあと大会総集編を読み込んだ小学生時代

——土屋さんって、以前やっていた対戦前のつながりピックアップすごかったですもんね。「ここまでさかのぼって、そんな細かいとこまで!」みたいな(笑)。

J1・J2、毎節やってましたよ。あれは趣味でしたね(笑)。毎週金曜に更新してたんですけど、J1とJ2全部調べるのに多分10時間くらいかかってました。

Jリーグの面白いところじゃないですか。日本人だからこそわかる、「この2人が市立船橋高校出身で、こういう関係だな」とか。それってJリーグを楽しむ要素の結構重要なところじゃないかなと思っていたので。あの頃はいまよりもまだ少し時間があったので、毎週やってました。いまはさすがに無理ですけど。

——片野坂監督と下平監督のつながりとか、すごくマニアックなネタを押さえてるんですよね。

試合を見たあとに大会総集編みたいな本を読み込むということをずっとやっていたので。だから小学生だった頃の選手権ほど、いろいろ覚えてるんですよね。

——これだけの情報を提供できる人は日本に一人しかいないだろうと思ってました(笑)。土屋さんってわたしの中では日本サッカーメディア界において最も仕事がデキるクラスタの一人なんですけど。

いやーよかった、あの2013年の大分の夜に笑ってもらえて(笑)。

——実況の八塚浩さんと解説の三浦淳寛さんと、スタッフのみなさんと。

みんなでトークポゼッションを奪い合うという(笑)。

授業を聞くよりもノートをきれいに取りたいタイプだった

——あの個性派揃いの場の仕切りも素晴らしかったですね(笑)。で、以前も一度言ったと思うんですけど、土屋さんの取材中のメモですよね。試合見ながらどうしてそんなに文章できっちりメモ取れるんですかって。

僕、確か新潟のクラブオフィシャルのサッカー講座というトークショーみたいなのでも、ノートの話になって。そのときも多分話したんですけど、ライターの方って、ピッチでどういうことが起きたかという場面、プレーを図解すると思うんですよね。矢印とか丸とか。

一方で、基本的にテレビの仕事をしている僕は、まだ取材に出たりしていなかった頃、ハイライトのためのキャプションを作るのが全部文字なんですよ。どこに誰々がいて、そこからクロス、誰がシュートしてGKがセーブ、とか。僕はそこから社会人としてのサッカーの仕事に入っているので、テレビでゲームを見ながら、ハイライトに使うキャプションというかたちで、起こっていることを文字で書いていた。だから現場に取材に行ったときも、そのまま踏襲されて、ああいうノートになっているという感じなんです。

——リアルタイムで色分けまでされている。土屋さんのノートが文章でとてもきちんと書かれているのに対し、自分のノートを見たときに、ピッチを見ながら間接視野で記号でメモを取ったのを見て、あれは自分のデキなさを痛感する瞬間ですよね…。

学生の頃から、ノートを取るのが好きだったんですよ。授業を聞くよりもノートをきれいに取りたいタイプだったので。

——仕事がデキる人って几帳面ですよね。

ああ、そうかもしれない。

僕の高校時代のプレースタイルを推測できた人はいない

——いろいろ伺うに、この仕事に就くべくして就いてる人ですよね…。

サッカーオタクってよく言われます。

——ご自身がプレーヤーだった人でそこまでサッカーオタク的な人って少ないでしょ。

そう。やってるときは周囲にあまりサッカーを見る人はいなかったですね。1979年生まれの僕が小学生の頃はまだJリーグがなくて、テレビで観れるサッカーってトヨタカップか選手権くらいでしたからね。

——子供の頃からそれだけサッカーを見ていたら、プレーヤーとしてもそういう視点を持っていたんですか。

全然なかったですね(笑)。ただひたすらスピードを生かすFWだったんで。サッカーを理解していなかったですね。

——えっ。いまのJリーガーで言えば誰みたいなタイプだったんですか。

誰だろう…スピードはあそこまではないけど、永井謙佑みたいな感じかな。

——ルックス的にも全然違うしすごく意外です…。あんなガンガンにプレスかけたりしてたんですか。

僕、足が速くて50m走で6秒切るくらいだったんですよ。ボールを出してもらって走る、あとは後ろがついてきてるかどうかも気にせず無闇矢鱈にプレッシャーかけるという、そのふたつで生き残ってきてたんで。

——プロデューサーというお仕事のイメージかもしれないですけど、司令塔タイプだったのかと思ってました。

それはよく言われます。ボランチやってたでしょとか(笑)。僕は、味方のシュートは全部クロスバーに当たれくらいに思ってたタイプのストライカーでしたよ。性格悪かった(笑)。

——そうだったんですね…鹿島時代の本山雅志みたいな選手だったのかと思ってました。

スピード以外だったらどっちかというと武田修宏さんみたいな感じかもしれないです。ワンタッチゴールとかすごく多かったし。いま一緒に仕事してる人たちの中で、僕の高校時代のプレースタイルを推測して当てた人はいないですね(笑)。

人は週に16時間くらいなら捻出できる

——J1全試合を見るというお話ですが、お忙しい中でどうやってその時間を確保されてるんですか。

削るところといえばもう睡眠時間しかないですよね(笑)。4時間5時間という日もありますけど。

——早送りとかは。

しないのがこだわりです。わずかな倍速とかもしない。

——わたしもそれはしないようにしてるんですけど、対戦相手の直近3試合を見てるだけなのに、全然時間足りないんですけど(笑)。

いやいやホント、足りないですよ(笑)。どれだけ大変かはワッキーさんがいろんなところで言ってますよね。ワッキーさんはネットカフェで1日5試合見てるなんておっしゃってますけど。

でも大体、1節のうち1試合は現場に見にいくので、残り8試合。1試合見るのに大体2時間かかるとすると16時間。それを6日ないし7日間の中で確保すると考えたら、人って16時間くらいならあると思うんですよね。

——いま試合がないからこうやってゆっくりお話をうかがえてよかったです…。

そうですよね(笑)。海外もこれで延期っていうことになっちゃったし。正直、ここまで中断が長引くとは思ってなかったです。

再開予定の4月3日が逆にピークの可能性もある

——3.11のときと比べて、お仕事的にはどんな感じですか。今回のほうが先が見えないとか。

まあ3.11のときも先は見えなかったですからね。いつ再開されるのかわからなかったし。ただ、あれははっきりとした事態が事態としてあったじゃないですか。明らかに試合が出来ないという状況だったのでまだ割り切れたんですけど、いまは東京五輪のことを考えていろいろ、っていうのもありますし。

——いつがピークかわからないというストレスもありますしね。

そう、再開予定の4月3日が逆にピークになってる可能性もあるし。だから選手は大変だと思いますね。

僕、先週の月・火曜で沖縄に行って、播戸竜二くんを連れて小野伸二のインタビューをしたんですけど。月曜にホテルに入って翌日に対談予定だったのが、月曜夜の村井チェアマンの会見を受けて翌日から4日間、琉球がオフになっちゃって。そこはバンちゃんと小野くんの関係性で直接連絡とってインタビューできたんですけど。これでまた先が見えなくなるとメンタル的にキツいからってことで、クラブも4日間オフを取ったと言ってました。

——スケジュールがはっきりしない状態でのコンディション調整って難しい。今季はそのあたりもスタッフのマネジメント手腕が見どころになりそうですね。

大分には戦ピリの第一人者もいるし(笑)。僕、岩瀬健さんとは結構仲がよくて、大分に行ったときは「おおっ」と思いましたよ。やっぱり大分はすごいなって。ここに片野坂、岩瀬、安田を揃えられるんだなって。

——西山GMが岩瀬さんと小学校で先輩後輩らしいんですよね。

そうなんですね。そりゃ人脈強いわ(笑)。

——というわけで、是非とも取材に(笑)。

行きたいです。会社をそそのかします(笑)。

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