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ざっくり解説:第2交響曲

こんにちは!ウインドオーケストラオリジンです!
今回は演奏曲解説シリーズ第三弾、来る第5回定期演奏会のプログラムより、アルフレッド・リード作曲「第2交響曲」をお届けいたします。

本投稿を読めば、第5回定期演奏会をもっと楽しんでいただけること間違いなし!

担当は原田さんです。
それでは本文をどうぞ!



第2交響曲とは

第2交響曲は、1977年夏に作曲を着手し、1978年3月27日に完成。1978年5月6日にケニス・G・ブルームクェスト指揮、ミシガン大学シンフォニックバンドの演奏で初演されました。

「第2」と銘打っていますが、「第1」と呼ばれるものは1952年夏に完成した『金管楽器と打楽器のための交響曲』であり、これはリードが商業音楽に携わっていたキャリア初期の作品です。即ち、この「第2交響曲」は本格的な吹奏楽編成のための初めての交響曲であり、50代という作曲家のキャリアとして円熟した時期に書かれたがゆえに、音列操作や二重フーガ[1]などの作曲上の技法及び各楽器の特徴を生かしつつ効果的に響き渡るオーケストレーション、リード特有の豊かで美しく息の長いメロディを20分という時間の中に意欲的なまでに盛り込んだ、1970年代のリードの作曲家としてのある意味総決算ともいうべき作品となっています(その後リードは1979年に名作「第2組曲」などを残していますが…)。リード自身も思い入れのある作品になったようで、「自作の中で特に好きなものがあるか」と訊かれた際には、「それは『交響曲第二番』(原文ママ)です。私の現在もっているものをすべてこの曲によって表現した、と自分では思っています。単に長い曲であるということでなく、たぶん『アルメニアン・ダンス』のほうが長い曲だと思いますが、私のもっている音楽的アイディア、技法、音色、メロディ、和声などすべてを『交響曲第二番』に集め得たと思っていますから。」[2]と述べています。

本作は単一楽章で構成されていますが、「Lento ( ma ritmico )」と書かれた重厚な第1部、「Allegro con fuoco」と指定された快速で激しい第2部、叙情的ながらも壮大なエンディングへと向かう「Molto moderato e sostenuto」の第3部からなり、これらは切れ目なく演奏されます。第1部の冒頭でバスクラリネットとファゴットによって奏されるメロディは「B♭-F-E-A♭-G-D-D♭-C-C♭-G♭-E♭-A」の12音からなる音列[3]となっており、これが第1部から第3部まで自由に展開されることで有機的な統一感を実現しています。


木金管セクション練習風景

各楽章の解説

第1部:Lento ( ma ritmico ) =遅く(しかしリズミカルに)

 冒頭のバスクラリネットとファゴットによる音列を主旋律とするパッサカリアとなっています。パッサカリアはシャコンヌと同一視されることもある音楽形式のひとつで、元々は舞曲に起源を持ちますが、18世紀以降は器楽曲の形式としてJ.S.バッハなど様々な作曲家によってつくられてきました。バッソ・オスティナート(固執低音)と呼ばれる4~8小節の短い旋律を核として、その上に様々な変奏が施される、一般的には3拍子による楽曲のことを指します。リードは『第2交響曲』作曲以前に、40の変奏からなる長大な『パッサカリア』(1968年にアラバマ全州バンドによって初演)を作曲しており、彼にとっては馴染みのある形式といえるでしょう。冒頭ではその主題の上に、イングリッシュ・ホルンとアルトサックスによる対旋律が奏され、これらが絡み合いながら自由に展開していきます。

 

第2部:Allegro con fuoco =速く、いきいきと

 第2部はクラリネットによって第1主題が提示され、その後イングリッシュ・ホルンとアルトサックスによって第2主題が提示されます。この第2主題は第1部の対旋律が変形したものとなっており、この二つの主題を二重フーガとして展開するという、作曲技法上かなり手の込んだつくりとなっています。力強いマーチの雰囲気を持ちながらも、8分の6拍子と8分の9拍子が入り乱れる激しい音楽であり、タランテラ[4]のような舞曲の趣をも感じさせます。リードはトラディショナルの編曲として『タランテラ』を残しているほか、『第4交響曲』の終曲にもタランテラを用いており、彼にとっては馴染みの深い舞曲だったのかもしれません。そしてこの二重フーガが発展していく中で、低音楽器により第1部で登場した12音からなる音列を変形させた旋律も登場し、それらの旋律は熱狂的な対位法[5]の渦に飲み込まれていくことになりますが、これはパウル・ヒンデミット[6]の傑作『交響曲 変ロ調』を思わせる展開でもあり、対位法処理の中で聴かれる無調的な響きも相まって、ヒンデミットの影響をも思わせる音楽となっています。熱狂が最高潮に達した後、しだいにテンポを緩めて第3部に入ります。

 

第3部:Molto moderato e sostenuto =非常に中庸な速さで、しかし音を十分に保って

 第3部はまず、クラリネットによってテーマが奏され、その後しばらくするとホルンによってサブテーマが奏されます。リードはこれらの旋律についてプログラムノートにおいて「上記の音列に由来する2つの長く叙情的な主題に基づいて書かれている」と述べていますが、一聴してもこれらの旋律が音列に基づいているかの判別は難しいほど自由に変形されています。第1部同様にテンポの速くない場面ですが、より明るい響きが増え、リードのメロディの美しさが際立ちます。時折、第2部の主題要素を回想しながらクライマックスを形成していき、その頂点で第1部の音列に基づく主旋律がフォルティッシモで壮大に再提示されます。それが終わると各楽器が少しずつ去っていき、この曲の始まりを暗示する低音楽器の温かい響きだけが残ると、最後はその上に鍵盤打楽器による音列が鐘のように響き渡りながら回想され、本作がアーチ構造であることを訴えながら静かに終わります。




※注釈
[1] 通常のフーガはひとつの主題(テーマ)を反復しながら発展していく楽曲ですが、二重フーガの場合は2つの主題を取り扱い、それらがぶつかり合わないように留意しつつ反復・発展していく楽曲です。同時に複数の主題を扱うので楽曲は複雑なものになりやすく、作曲技法上の難易度は高くなります。

[2] アルフレッド・リード、前沢文敬、三浦徹:「ロマンチックで19世紀的な作風」,『バンド・ジャーナル』1981年6月号より

[3] ただし、この音列は厳密な12音技法によるものではなく、兼田敏『シンフォニックバンドの為のパッサカリア』同様、調性を持った音列といえるでしょう。

[4] タランテラは南イタリアを起源に持つ舞曲。タラントという街の名前に由来するとされていますが、毒蜘蛛のタランチュラから来ているともいわれており、8分の3、もしくは8分の6拍子からなる激しい曲調が特徴です。

[5] 複数の旋律を、それぞれの独立性を保ちながら重ね合わせる作曲技法のひとつ。

[6] パウル・ヒンデミット(1895-1963)は20世紀ドイツを代表する作曲家の一人で、『画家マティス』や様々な楽器のソナタを作曲したことで知られています。『交響曲 変ロ調』は1951年(リードが『金管楽器と打楽器のための交響曲』を作曲した1年前)に初演された作品で、対位法の名手として知られたヒンデミットの作曲技法が如何なく発揮された傑作として現在でも演奏されています。


以上、第2交響曲の解説でした!



★次回演奏会情報★

<ウインドオーケストラオリジン 第5回定期演奏会>

日程:2024年2月10日(土) 13:15開場 14:00開演

場所:江戸川区総合文化センター大ホール


【オールリードプログラム】

曲目:アルフレッド・リード作曲/

アルメニアン・ダンス パート1
アルメニアン・ダンス パート2
オセロ
第2交響曲

指揮:高野義博
入場無料(未就学児入場不可)

当団の記念すべき第5回定期演奏会では、名曲プログラムとして吹奏楽界の巨匠、アルフレッド・リードの作品を取り上げます!

曲目は、日本で最も有名なリード氏の作品と言っても過言ではない「アルメニアン・ダンス」、シェイクスピアを題材にした作品群でも人気の高い「オセロ」、リード氏の初の吹奏楽編成の交響曲である「第2交響曲」を演奏します。いずれも1970年代に作曲、初演された作品です。

挑戦的なプログラムではありますが、当団の記念すべき第5回演奏会に是非ご期待ください。

団員一同、皆様のご来場を心よりお待ちしております。


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