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WIM Journal Vol.2 フェミニズムの歴史と音楽業界 #1

Women in Music Japanが行う女性コミュニティのサポートや、性別にとらわれないで働くことが出来る環境の必要性を呼びかける活動の背景には、男女の雇用・賃金格差といった経済的な不平等や性別にもとづく偏見があります。(ジェンダーバイアスに関する記事は前回の記事をご覧ください)
男女格差の現状を明るみにし、不合理な差別を無くすための方法や思想を「フェミニズム」と呼びますが、この言葉に対する考え方や感じ方は人それぞれです。また、日々の生活でジェンダーギャップを感じている人も居れば、ギャップを意識する機会がほとんどない人も存在します。ミュージシャンという括りの中でさえも異なる経験や環境によって全く違う考え方が生まれ、各々の持つ細やかなズレがフェミニズムという言葉を扱いづらいものにしているとも考えられるでしょう。
WIMJはこういったトピックについて発信することで、少しでも女性を取り巻く現状について気にかける人が増え、フェミニズムの思想が反映された音楽業界になっていくことを願っています。

アメリカのフェミニズムの歴史

ジェンダーギャップの存在する社会では、1つの法律が成立したりムーブメントが起きたからといってからといって女性を取り巻く環境ががらっと変わったり、女性の社会的地位が著しく向上するわけではありません。より多くの人が心地よく過ごせる環境を作るには、社会に潜在する価値観や文化的慣習の認知、現状に対する問題の提議、そして実際に問題を解決するための活動が必要となってきます。男女平等の権利を求める活動は、過去にも様々な形で多様な人々が行ってきました。それらの活動は、大きく分けて第一波から三波と区切られています。
今回はまず、アメリカでのフェミニズムの流れをたどってみましょう。

第一波 (1848 -1920)
19世紀末から20世紀前半はフェミニズム運動が特に勢いを増した時期として「第一波」と呼ばれています。第一波の主な目的は女性の参政権を求めるものでした。今から約170年前、ニューヨーク州の田舎町セネカ・フォールズにて開かれた会議では奴隷制度廃止運動とともに女性への差別問題について訴える人が出てきました。1850年頃、結婚していない女性は父親の物、結婚した女性は旦那の物という考え方があり、離婚時に母親が親権を持つということも許されなかったためです。女性の権利を求めるアクティビストによる活動はその後も数十年続きましたが、1900年代前半に歴史的なムーブメントが起こります。

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1913年、女性の参政権を獲得している州はコロラド州・ワイオミング州・ユタ州・アイダホ州の4州のみでしたが、全米婦人参政権協会のメンバーであるアリス・ポールの提案により全国規模への拡大を試みたのです。そして1913年3月3日、アメリカの首都ワシントンDCにて何千人もの女性がパレードに参加しました。パレードではミュージシャンやビジュアルアーティストが一丸となり、メッセージ性のある展示物や演奏で抗議をよりパワーのあるものにしました。演奏団体の中には女性のマーチングバンドも含まれ、上記の画像のように行進の指揮を取っていたようです。演奏されていた曲の中には、イギリスの作曲家エセル・スマイスによる「The March of the Women(1910)」があります。この曲は女性参政権運動の正式な讃歌にも指定され、海を越えたアメリカでもソロピアノや軍楽隊用のアレンジで人々に勇気を与えました。1・3拍目のアクセントとエンパワリングな歌詞が特徴的で、Vote for Womenという新聞では ”At once a hymn and a call to battle” (讃歌でもあり、挑戦を呼びかける歌でもある)と紹介されました。
大規模な抗議運動を経て1920年8月18日、ようやくアメリカ人女性への参政権が与えられたのでした。活動は一時収束しましたが、現実的にはこの参政権も白人女性に限って許されたものであり、すべての女性が社会的に平等な権利を得たわけではなかったのが事実です。

第二波 (1960 -1990)
フェミニズム第二波は、1960年代に始まり1990年代まで続きます。60年代後半には社会問題として公民権運動やヴェトナム反戦運動、そして学生運動の動きが盛んであったことも重なり、フェミニストも政治的な権力の片寄りに関心を寄せました。具体的には「ラディカルフェミニスト」と呼ばれる人々が誕生し、年上の男性が完全に支配権を持つシステムを「家父長制」と名づけ、その権力システムを破壊するための活動を始めたのです。ラディカルフェミニズムの思想を取り入れたアーティストは、支配的文化に対抗するカウンター・カルチャーを生み出し、その傾向はロックの作品でよく見られました。
多くの政治的な問題提議により、中流階級・西洋・白人の女性がフェミニズムの主導を握っていた第一波とは異なって、黄色人種・国の発展や結束に力が注がれた時代と言えるでしょう。

多様なフェミニズム運動の影響で音楽業界にもアクティビストが誕生し、1960年前後には抗議のメッセージを含む歌や、「自由」を主張するスピリチュアルソングなどが歌われるようになります。歴史上最も偉大な100人のシンガーにも選ばれ、フェミニスト/アクティビストのアイコンとしても知られるジャニス・ジョプリンは、自身の歌を通して若い世代の女性にメッセージを伝えてきました。
1967年にリリースされた「Women is Losers」という曲は、題名だけに注目するとエンパワメントとは逆の意味に思えますが、歌詞が訴えるのは「女性はなぜ男性優位の社会に疑問を抱かないのか」「女性も1人の人間として、対等な生き方を求めよう」というメッセージです。彼女は、フェミニストである以前に人権アクティビストとして性にとらわれず自由に生きることを望みました。
1970年代の音楽業界では、ミュージシャン以外にもアクティビストとして活動する人が出てきました。音楽評論家であるエレン・ウィリスが、

“Rock is, among other things, a potent means of expressing the active emotions–anger, aggression, lust, the joy of physical exertion–that feed all freedom movements, and it is no accident that women musicians have been denied access to this powerful musical language.” (ロックとは、怒り・攻撃的な態度・欲望などの感情を自由に表現することができる言語であり、女性ミュージシャンがその強いメッセージ性のある音楽を演奏できないという現状は決して偶然の出来事ではない。)
- Ellen Willis

という声明を出したのです。彼女が主張するように、70年代のロックは作曲からパフォーマンスまでが当然のごとく男性によって行われていました。女性がロック業界で起用されることがあっても、名前が公に公開されることは稀だったのです。エレン・ウィリスの声明によって音楽業界でも女性の立場を問題視する動きが少しは見られたものの、歴史的に見ても男性中心の音楽の現場では女性への差別視が続くこととなります。

第三波 (1990- )
1990年代中期になると音楽を含めたポップカルチャーがフェミニストの活動に使われるようになりました。若い世代のフェミニスト達によって女性のファッションなども自由度が高まり、男性によって抑制されていた状況に立ち向かう姿勢を示します。

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1990年代の女性アーティストは、それまで押し付けられてきた女性のステレオタイプに音楽を通して対抗し「女性であること」の再定義を呼びかけました。ロックシシンガーであるグウェン・ステファニーが1995年にリリースした「Just A Girl」は、この時代のフェミニズムの代表曲とも言えます。「女性は無力で男性から守られるような立場にあると同時に、あらゆる権利も失っている」という主張を歌に込め、”Oh, I’ve had it up to here." (あぁ、もう限界よ)という歌詞と共に新しい価値観へとオーディエンスを誘導します。1990年代のフェミニズムに関する曲は、女性がそれまでのステレオタイプを拒否し、自分の性のあり方を自身でコントロールするという選択肢を与えました。

フェミニズム第四波とされる現在の音楽業界

現代ではSNSの使用が一般化され#MeToo#KuToo#フラワーデモ などのハッシュタグを使ったムーブメントが広がりました。

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より多くのオーディエンスへ発信が可能である今の時代は「フェミニズム第四波」であるとも言われています。個人の声を世の中に届けるのが難しかった一昔前と比べ、SNS上でハッシュタグを使うことにより匿名でも思っていることを発信できる時代になりました。
日本の音楽業界でフェミニストを名乗りながら活動しているアーティストは、まだ多くはありません。しかし、その中でも歌を通してフェミニズムの発信をしているシンガーソングライターを紹介します。

大門弥生さんは自らを「JAPANESE FEMINIST(日本人フェミニスト)」だと公式インスタグラムで公言し、作詞作曲やトラックメイク、振付までもセルフプロデュースしています。フェミニストとしては、女性アーティストの向上を目指した「GIRL’S POWER」というイベントを行い、客席を沸かせる圧巻のパフォーマンスで世界中の女性から支持を受けています。また、2019年に「KETSUFURE(ケツフレ)」という曲をリリースしたことでも話題となりました。トゥワークという、足を開いた状態で腰を落としお尻を激しく振るヒップホップダンスを連想させる歌のタイトルとなっています。大門さんはフェミニストの1人として、少し挑発的でありながらも男性が中心のHipHop・レゲエのシーンに居る女性に対して「ここまで振り切って生きて良いんだ」という勇気を与え、自分の生き様を魅せていきたいと語っています。

音楽業界では他にもリナ・サワヤマさんというポップシンガーによる、人種やセクシャリティに対する活動が注目されています。サワヤマさんは日本で生まれ、4歳の時にロンドンへ移住しました。欧米で生活する日本人女性として自身が戦ってきた差別に対する想いをのせ、メタルとポップを融合した音楽を発信する彼女は2019年に「STFU!」という曲をリリースしました。この曲はまさに”悪意のない小さな差別的な言動や行動” (マイクロアグレッション) に対する怒りを解き放つための作品であり、ジェンダーバイアスから生まれる女性の様々な葛藤を代弁しています。

あらゆる気持ちを込め人々に語りかけることができる音楽を通して、フェミニズムに関する発信をするアーティストは、日本でも増えていくでしょう。

まとめ

今回はアメリカのフェミニズムの歴史をご紹介しましたが、第一波の誕生から約160年が経過した現代の女性を取り巻く環境はどうでしょうか。昨今の日本でも政治の世界をはじめ、スポーツ業界やあらゆる職場での女性差別がニュースに取り上げられています。それは社会全体での性別差が未だ存在することを示し、第一波から問われてきている問題が今もなお根強く残っているということです。今まで語られてこなかった差別についての話題が徐々にオープンになってきたフェミニズム第四波を生きる私達が、どのように波を大きくし社会にうねりを加えていくことができるでしょうか。そのヒントを探るべく、今後も音楽業界におけるムーブメントや女性を取り巻く環境について紹介をしていきます。

(文=米澤晴香)


【参考文献】
Feminism and 1960-1970s Popular Music
Feminism in India “A Brief Summary Of The First Wave Of Feminism”
Girl Power: Feminist Music of the 1990s
HOW FEMALE JAPANESE RAPPERS ARE DISCUSSING FEMINISM
How 1960s Pop Songs Helped Young Women Find Their Own Voices in a Time of Social Change
“LET US SING AS WE GO”: THE ROLE OF MUSIC IN THE UNITED STATES SUFFRAGE MOVEMENT by Roslyn Leigh Brandes
Michelle Mehrtens|TED-Ed The historic Women's Suffrage March on Washington
National Endowment for the Humanities “Betty Friedan: The Three Waves of Feminism”
Pacific University Oregon “Four Waves of Feminism”
Rina Sawayama Wants Her Success To Make Space For Asian Women In Pop Music
Race and Gender in Popular Music of the early 1960s
RVA News “The History of Women and Gender Roles in Music”
The contribution of Janis Joplin to the cause of feminism and sexual liberation in Popular Music
The New York Times “Riot Grrrl United Feminism and Punk. Here’s an Essential Listening Guide”
WOMEN'S HISTORY MONTH SPOTLIGHT- JANIS JOPLIN
Yayoi Daimon
6 Asian Women Around The World Changing The Face Of Music
[ラディカル・フェミニズムとは] 背景・特徴・運動をわかりやすく解説
Rina Sawayama最新作「STFU!」、イギリスの人気レーベル”Dirty Hit”より発売!
Rina Sawayama、生き方で名を刻む正真正銘の表現者 Rina Sawayama
Images
Missouri Ladies Military Band from Maryville marches in Washington, D.C. on March 3, 1913
The punk/riot grrrl band Bratmobile at The Charlotte in Leicester, England in 1994.
A Representation of the American Me Too Movement.

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