見出し画像

第三章 メトロノーム

この記事はこれまでの続きです。
より理解を深めるために、第一章管楽器のチューニングからご覧ください。


発音の大切さ

ここまで、音の出し方を見て来ました。

音をはじめから真っ直ぐ出す理由は、
人は音や言葉を、出だしで判断しているからです。

例えば、「コーヒー」と言う単語を例にすると、
文字では「コーヒー」ですが、母音を表示すると「コォヒィ」になります。

この時、音の出だしが曖昧になると、
子音がつぶれて「*オォ*イィ」になるので、
単語の意味は伝わりません。

楽器の音色も同じで、ホルンの伸ばした音を録音し、
最初の出だしを消して、途中から再生すると、
その音がホルンなのか、トロンボーンなのか、クラリネットなのか、
判別出来ません。

🎺~♪ (・д・)?

同じように、三つ以上同時に鳴った音を「和音」と言いますが、
和音は、同時に鳴った瞬間に、一つの音として認識しているので、
出だしの曖昧な和音を、途中で調整しても和音には聴こえません。

音の出だしに時間差のある和音を、アルペジオ(分散和音)と言い、
同時に鳴る和音と区別しています。

演奏の滑舌 

吹奏楽の演奏は、野外や舞台の上から、
聴衆に向かって音(音楽)を伝える事が目的です。

同じような立場で、司会者やアナウンサー、舞台俳優、漫才師も同様、
聴衆に向かって言葉を伝えなければいけません。

どれほど重要な事を伝えても、深い物語を演じても、面白い話をしても、
言葉が伝わらなければ意味は通じないので、
どのジャンルも、最初は滑舌の訓練から始まります。

演奏も同じように、音楽のストーリーや構造、仕組み、
旋律や和音を伝えるためには、
まずは音の出だしを明確に演奏しなければいけません。

ここまでは、一人で音を明確に発音する方法を見て来ましたが、
ここからは、合奏で明確に発音する方法を見て行きます。

メトロノームの役割①

曲を練習する時は、これまで練習した「音程」に
「テンポ(時間)」が追加されます。

音の出だしを明確に発音する事で、音楽は鮮明になりますが、
合奏の場合、更に全員が一定の同じテンポで演奏する事で、
全ての音が同時に発音され、鮮明な音楽が生まれます。

そのために必要な事は、メトロノームを使った練習です。

現実的にメトロノームを使った練習は、あまり普及していません。

部活など、大人数の中で使うのが難しい事情もありますが、
目的や方法がわからないまま繰り返し練習する中で、
中々上手く出来ず、諦めてしまう事も原因の一つです。

一定のテンポ


一定のテンポは、機械的な冷たい演奏にはなりません。
ポップス、ジャズなどポピュラー音楽だけでなく、
プロオーケストラは一定のテンポで演奏しています。

オーケストラの音楽は、テンポが揺れるイメージがありますが、
楽譜に指定が無い限り、一定のテンポで演奏しなければいけません。

それがルールだからと言うだけでなく、
全員が一定でなければ、同時に発音出来ないからです。

国内外のプロオケの演奏を聴きながらメトロノームを鳴らすと、
職人技の正確さに驚くはずです。

また「12個の音」と、「一定のテンポ」と言うシンプルな仕組みが、
西洋音楽が世界に広まった理由でもあります。

このシンプルな仕組みにより、演奏相手が初対面の外国人であっても、
その場で演奏を楽しむ事が出来ます。

メトロノームの役割②

メトロノームの役割は、一定のテンポを刻むためですが、
一定のテンポで演奏するためには、
全ての音符を楽譜通りに演奏しなければいけません。

曖昧な音符や、雰囲気だけで演奏している音符があると、
拍と音符の数が合わなくなるからです。

つまりメトロノームは、自分に出来る事、出来ない事を
教えてくれる役割もあるのです。

リズム感

メトロノームの経験が無いと、
誰もが自分のテンポは正しいと感じてしまいます。

そのため、パート練習など少人数で練習した時、
「あなたのテンポはズレている。」と指摘し合う場面を
良く見かけますが、

メトロノームを使わない限り、全員がズレているのです。

元々人間には、12音階の音感も、一定のテンポを刻む感覚も、
備わっていません。

なぜなら音階も、一定のテンポも、人間が作ったものなので、
訓練によって身に着けるものだからです。

プロ奏者の才能

プロ奏者ほど、自分の感覚がズレないように、
日々基礎練習を取り入れています。

プロのような才能のある人は、
努力をしなくても生まれつき音感やリズム感が良く、
そこから自然に豊かな表現や表情が生まれる。

と言う認識は間違いです。

この認識があると、自分に才能があると思う人ほど、
基礎練習を軽視すると同時に、

基礎練習が上手く出来なかった時、自分の才能を疑い、
演奏する資格が無いような孤独感を覚えるようになります。

このように、
●才能があれば基礎練習はいらない。
●才能が無ければ演奏する資格が無い。

と言った、極端な二元論で物事を捉えてしまうのは、
どうして良いのかわからないからです。

上達の意味

上達は、自分に何が出来て、何が出来ていないかを明確にして、
出来ない事を一つずつクリアして行く事です。

出来ない事はダメな事ではありません。
出来ない事がわからなければ、上達は出来ないからです。

メトロノームが難しい理由

合奏では吹けていても、一人でメトロノームに向き合えば、
思った以上に出来ていない事に気づき、
初心者に戻ったように感じるかもしれません。例えば、


例1 合奏で演奏すると最後まで演奏出来るが、
   一人でメトロノームに合わせて吹くと、疲れて最後まで吹けない。

原因 合奏では他の音も鳴っているので、無意識に休息を取っている。

例2 曲のテンポで演奏出来るが、それ以外のテンポでは演奏出来ない。

原因 曲を楽譜ではなく、ノリや雰囲気で捉えている。

例3 音符が音階的に上(下)に進めば速く(遅く)なり、
   クレッシェンド(dim)で速く(遅く)なり、
   細かい音符は慌てて速くなり、わからない所は遅くなる。

原因 自分の感覚を優先している。


これはメトロノームを使わなければ、誰にでも起こる自然な事で、
悪い事ではありません。
それを一定のテンポにする事は、逆に言えば不自然な事です。

これをマラソンで考えると、人間は自然な状態であれば、
走るのは疲れるので、歩くのが普通です。

スポーツ全般も、何もしない方が自然で楽ですが、
何もしなければ、スポーツは成り立ちません。

演奏も同じです。
不自然であっても一定のテンポを刻まない限り、
そこに音楽は生まれないのです。

メトロノームの誤った使用法

メトロノームを使う時、
クリック音を聴きながら演奏すると、

「聴く → 反応 → 判断 → 発音」 

と言う流れになるので、何回繰り返しても同時に発音は出来ません。

指揮棒をメトロノーム代わりに演奏したり、
周囲の音を聴きながら演奏するのも、仕組みは同じです。

チューニングも合奏もメトロノームも、
「周囲の音を良く聴きなさい。 」”ヽ(・ω`・o)
と指導しても合わないのは、

聴いていないからではなく、聴いているからなのです。

🎷♩?(՞ਊ ՞ )三( ՞ਊ ՞)?🎺~♪?(՞ਊ ՞ )三( ՞ਊ ՞)♩?🎸

メトロノームの正しい使用方法

正しい方法は、クリック音に合わせるのではなく、
メトロノームのテンポを記憶し、自分でテンポをキープする事です。

つまりテンポを刻むのは、メトロノームではなく自分自身なのです。

♩♩(。-∀-)♩♩

それにより、メトロノームのクリック音は、自分の音と同時に鳴り、
音が重なりクリック音は聴こえなくなります。

これがメトロノームと一致した状態で、
合奏で同時に音を鳴らす感覚につながります。

テンポも内聴

テンポも音程同様、内聴します。

テンポは「2拍」で記憶します。
クリック音を聴き続けるのではなく、3拍目から自分でテンポを刻みます。

テンポをキープ出来たら、音階や童謡など簡単な曲を頭の中で歌います。
慣れて来たら、色々なテンポで試します。

この練習を通じて、音程もテンポも同時に内聴出来る事が
理解出来るはずです。

テンポの取り方

速い曲の場合、1拍が4分音符なら、4分音符2拍でテンポを記憶します。
遅い曲の場合、1拍が4分音符なら、8分音符4つでテンポを記憶します。

●     = クリック音

●       ●   速いテンポ
●     〇 ● 〇 遅いテンポ

慣れて来たら、速いテンポで裏拍〇(後打ち)だけを、
手拍子または、吹きやすい音を楽器で演奏します。
この時、どんなテンポでも後打ちが出来れば完成です。

練習方法①

最初は1小節だけ、確実に演奏出来るテンポで練習します。
3日間続けてください。
目的は、メトロノームを使った練習に慣れるためです。
4日目に感覚に変化が現れます。

最初の段階で大きな目標を掲げると、壁の高さに圧倒されてしまいます。
慣れるまで、確実に出来る小節を増やして行きます。
この間に、拍と音符の関係が理解出来るようになるはずです。

練習方法②

速いテンポで吹けない小節は、遅いテンポでも吹けません。
吹けない理由は、思い込みで楽譜を読んでいる場合が多いからです。

解決方法は、まずは楽器を置いて、
苦手なフレーズのリズムだけを、手拍子やタンギングだけで刻みます。

次に音階練習の要領で、音程を確認します。
最後にリズムと音程を合わせて完成です。

音符に書いてあるのは、音の高さ(Y軸)と、音の長さ(x軸)だけです。
どれだけ難しい楽譜も、音符にはそれしか書いていません。

メトロノームの感覚が理解出来ても、それで完成ではありません。
週1回は使用し、自分の感覚を調整してください。

苦手なリズム克服法

次のリズムは、苦手に感じる人が多いです。

このリズムを倍の長さで見てみましょう。
音符の長さを倍にしたので、テンポも倍にします。
この音符をテンポ通り演奏すると、同じリズムになります。

更に倍にします。

ここまで倍になると、理解しやすくなると思います。
音符をテンポ通り演奏すると、同じリズムになります。

別の方法は、最小単位に分解し、アクセントを付けます。

慣れて来たら、アクセントだけを刻んでみましょう。
このように難しい音符は、わからないまま繰り返すのではなく、
伸ばしたり、切ったりする事で、楽譜への理解が深まります。

苦手なフレーズ克服法

次は16音符ですが、16音符は「とにかく速い」と言う
印象を持つ人が多いです。

これも音符の長さを倍にします。
すると、どれだけ細かい音符にも、音程がある事が理解出来ると思います。

音符をテンポ通り演奏すれば、同じフレーズになります。
このフレーズは音階練習の延長ですが、曲は基礎練習の延長で
出来ています。

根性論と解決法

苦手な箇所は、100回練習すると良いと言いますが、
これは昭和時代の精神論・根性論です。

この指導によって、生徒は指導者に従うようになりますが、
自分で考える力が奪われるので、注意しましょう。

練習方法② で触れましたが、
「まずは楽器を置いて下さい。」と書いたのは、
楽器が演奏してくれる訳では無いからです。

楽器をコントロールするのは自分なので、
自分が音符を理解していない限り、100回以上繰り返しても、
楽器から正しい音は出て来ません。

上達は、従う事ではなく  (他人軸)(受動的)
理解から始まります。   (自分軸)(能動的)

もちろん最初から全てを、自分だけで解決する事は出来ませんが、
わからない事を指導者に質問した時、
「100回繰り返せばいい。」と言われたなら、

その指導者は100回やっていないか、
100回やっても理解出来なかったはずです。

なぜなら理解出来たなら、そこで得た解決方法を伝えるのが、
指導者の役目だからです。

演奏のまとめ

ここまで見てみると、音楽は音で出来ている事が理解出来ると思います。
美しい旋律も、難解なフレーズも、元を正せば音で出来ているのです。

第二章でも書きましたように、音階ドレミファソラシドを早口で歌えば、
誰でも簡単に歌えますが、一つ一つの音を確かめて歌ってみると、
歌える人は多くありません。

旋律もフレーズも、早口で演奏すれば、出来た気分になりますが、
音階と同じように、一つ一つの音を確かめてみると、
実は出来ていない事が多いのです。

美しい旋律

プロの演奏する美しい旋律は、
心のこもった表情豊かな演奏に聴こえますが、

表情を付けるから美しいのではなく、
正しい音で演奏した結果、そこに美しい旋律が浮かび上がるのです。
これは、和音も音楽全体も同じです。

しかし、表情や表現など、見た目だけに注目してしまうと、
音程もリズムも意識しないまま、表情だけを求めてしまうので、
思うような旋律が浮かび上がって来ないのです。

これはどう言う仕組みなのか、次の章では、
「心を音で表現する方法」をわかりやすく解説します。

あとがき

この記事は、教則本として書いていますが、
教則本とは不思議なもので、
入門書は、必ずしも初心者が購入する訳ではありません。

と言うのも、入門書に書いてある内容は、
楽器未経験者には理解出来ないからです。

入門書が理解出来るのは、入門書に書いてある内容を
自分が出来るようになった後です。

元々楽器に付属している場合は別として、
入門書を買う人は、実は指導者が多いのです。

そしてこの記事も、ここまで読まれた方は、
この内容をすでに理解している方のはずです。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

さて、ここまでは基本的な内容でしたが、
ここから先の第四章は、音楽の分野に留まる事なく、
広い視野から核心に迫って行きます。

内容は難しくありませんが、「心と音」をテーマに、
これまで吹奏楽の世界が中々進歩しなかった理由と、
視点を整理する方法が書かれています。

ただ、この情報は私にとって、
これまで積み重ねた貴重なノウハウなので、
本当に興味のある方だけに、読んでいただきたいと思います。
そこで有料とさせていただきます。

もし、ご興味持っていただければ、
是非ご購入よろしくお願いいたします。

本日も最後まで読んでいただき、
ありがとうございます。

河合和貴 2024年2月

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?