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宝物を見てしまったから、忘れられなかった

年始、電車でとっても良いものを見た。

その日、私は年が明けて初めて友達とご飯を食べに行く予定で、いつもよりちょっとだけ気合を入れたオメカシをして電車に乗った。少しだけ混んでいて、私はご婦人の前の立ってつり革に掴まる。「〇〇分着だ!」と友達にメッセージを送ったあとでスマホから顔をあげると、車内の大きな窓に私の顔が反射して映った。うん、いい感じ。新しく下ろしたアウターがカバンと合っていていい。

そう、自分の世界にひったひたでいると、目の前に座っていたご婦人が隣のご友人と話している声が聞こえた。

「それ、とってもいいですね~」

と、ご婦人のリュックの肩紐についていたそれ、1つの缶バッチを指さした。なんだ? と思ってよく見ると(こっそりね)、3歳ぐらいの女の子がピースして、目が溶けたようになっている写真が缶バッチになっていた。


お孫缶バッチ……!!


初めて見た。私は赤ちゃんやお子様の成長記録が見れるSNSアカウントが大好きでよく見ているのだけど、そうするとAIから「あなた、これが好きでしょ?」と言わんばかりに広告が、無添加離乳食や可愛いスタイ、哺乳瓶を洗う便利グッズ、そして子どもの成長をグッズにしよう系ばかりになる。子ども成長をグッズにしよう系とは、わかりやすいのだと毎月写真を開くればアルバムにしてくれるサービスだとか、最近だとアクリルスタンド、写真を送ってマグカップやTシャツに印刷、カレンダーになるサービスもあって。

そのなかの1つに、お子様を缶バッチにしてプレゼントしようという広告も見かけた。それを見たときに、「アルバムやマグカップ、カレンダーはまだわかるけど缶バッチはなかなか使いどころが難しいな……」と思った。

それが今、目の前に。

むっちゃいい使いどころとして見参した。


はああああ~~~!! と声に出せない悶絶。素敵すぎる。素晴らしすぎる。あのサービスはこのためにあった。ありがとうございます。


そういえば私は、年始に見たこの光景をずっと覚えていて、最近人に話したこともあって「どうしてこんなに覚えているんだろうや?」と考えてみた。

それはきっと、人の宝物を見たからだと思う。

私もそうだけど、人は宝物こそ大事に大事に、人目にさらさず隠して守っておく。クローゼットの奥の奥のカンカンの中とか、タンスの引き出しの底の底とか。

宝物、という名前でよぶのにそれらはいつも暗闇に沈んでいる。

だけど、このご婦人の宝物は彼女の一番近くにある。恐らくいつも使っているであろうリュックの、自分も見れて触れて、そして人目にもつくところに宝物をおいておく。その心意気を含めた宝物への扱いを見たことが衝撃で、美しくて、衝撃だったのだ。

”終わりよければすべてよし” になれましたか?もし、そうだったら嬉しいなあ。あなたの1日を彩れたサポートは、私の1日を鮮やかにできるよう、大好きな本に使わせていただければと思います。