【第3回】献血の不安を解消!初めての献血へ行こう!
こんにちは!医学生スイマーのウィリアムです。
前回の記事では「採血が苦手…」「貧血にならないの?」という不安・疑問に対してお答えしました!
その中で、赤血球に含まれる、酸素を運ぶタンパク質であるヘモグロビンの濃度を献血前に測定するという話がありました。今回もヘモグロビン濃度についての話が出てきます!
今回はこちらの2つ!
「薬を飲んでいても献血できる?」「スポーツに支障はでない?」
という疑問にお答えしていきたいと思います!
薬を飲んでいても献血できる?
薬の種類や飲んでいた期間などによって献血できるかどうかが変わってきます。最終的には献血の前に医師の問診を受けるので、そこで確認をする必要がありますが、代表的なものについてここで紹介します。
風邪薬、解熱剤、痛み止め
(アスピリン、バファリン、ロキソニン、PL顆粒など)
献血の前日までであればOKです(血小板成分献血の場合は3日前まで)。献血当日に飲んだ場合は献血ができません。体調が悪い時には献血をしない方が良いので、無理をしないようにしましょう。
花粉症・アレルギーの薬
(アレグラ、アレロック、ジルテックなど)
市販の薬であれば献血当日に飲んでいても大丈夫です(セレスタミンは除く)。医療機関で処方されている薬がある場合、献血の前に医師に伝えて判断してもらいましょう。
ただし喘息の薬は最後に使ってから3日以上経っている必要があります。献血の前に医師に確認しましょう。
胃腸薬
献血の時に症状が無ければ、当日薬を飲んでいても大丈夫です。体調が悪い時は無理をしないようにしましょう。
低容量ピル(女性ホルモン)
献血当日に飲んでいても大丈夫です。生理中や生理後すぐはいつもよりも体の中のヘモグロビンが減っていますが、献血前の検査でヘモグロビン濃度を調べて献血が安全にできるかどうか判断するので、安心してください。
サプリメント(ビタミン剤やミネラル剤など)、漢方薬
サプリメントは、貧血の治療のために鉄剤を飲んでいる、などでなければ、基本的に当日飲んでいても大丈夫です。漢方薬は風邪・喘息・肝臓の病気に対して飲んでいる場合を除いて、当日飲んでいても大丈夫です。
以上、代表的なものを紹介しましたが、飲んだ薬によっては献血できない場合があります。3日以内に何か薬を飲んだ・使った場合は、必ず検査前に受付や医師に伝えるようにしましょう。
まとめ:
1. 風邪薬、解熱剤、痛み止め→前日までならOK
2. 花粉症・アレルギーの薬、胃腸薬、低容量ピル、サプリメント・漢方薬→当日飲んでいてもOK(例外あり)
3. 3日以内に何か薬を飲んだ・使った場合は必ず申告しよう!
スポーツに支障はでない?
医学生スイマーとしても、将来スポーツドクターを目指す者としても、とても気になるところです。日本赤十字社のWebサイトにもスポーツに関しては記載がないため、世界中で行われている研究結果も調べながらまとめました。以下、医学生なりに研究結果を解釈して記載しています。
先に結論をまとめておきます。
スポーツ愛好家の場合:
1. 献血当日は激しい運動を控えましょう
2. 翌日からは特に大きな問題なく活動できると思います
大会で記録を狙うアスリートの場合:
1. 400mL全血献血後は男性3ヶ月、女性4ヶ月、成分献血後は男女とも2ヶ月は大事な大会や練習期間を避けるのが安心
2. 献血当日は激しい運動を控えましょう
3. 少しきつい程度の運動であれば翌日から問題なし
4. 400mL全血献血後は最大酸素摂取量が低下し、男性は約2〜3週間、女性は約4週間で元の状態に戻る
5. 成分献血後2日間は持久力が低下する
6. 指導者やかかりつけのスポーツドクターにまずは相談しよう!
200mL全血献血は医療現場での需要が少ないため、400mL全血献血しか受け付けていない場合が多いこと、また200mL全血献血とスポーツに関する研究がなかったことから、今回は400mL全血献血と成分献血についてお話しします。
上記はあくまで僕が研究結果などを解釈して記載しているものであり、日本赤十字社やその他スポーツ組織の公式見解ではありません。またパフォーマンス低下の程度や期間には個人差があります。
僕がこのように考える根拠や、研究結果をもっと詳しく知りたいという方は、次の見出しへ読み進めてください。難しい話も出てきますが、なるべくわかりやすく解説します。
スポーツ愛好家の場合
日本赤十字社のWebサイトでは献血後に赤血球の数が元通りになるまでに約2〜3週間かかるとされていますが、世界中の様々な研究をまとめた報告(文献1)では、運動によって心拍数が毎分180回に達するまでの時間には、献血後も変化がなかったと報告されています。
心拍数が毎分180回というのは、結構きついと感じる運動強度だと思いますので、大会などには出場しないけれど、日常的にスポーツを楽しんでいるというスポーツ愛好家の方は、献血当日は激しい運動を控えた方が良いですが、次の日からは特に大きな問題はないと思います。
ただし、疲れやすさには個人差がありますし、献血後しばらくは赤血球の数が減っているのは事実ですから、献血後に運動をする時にはいつも以上に注意しましょう。
アスリートの場合
献血によって赤血球が減ると、ヘモグロビン濃度が低下し、発揮できる最大のパフォーマンスにも影響を与えるため、注意が必要です。
400mL全血献血または成分献血をしてから、次の400mL全血献血が安全にできるまでに
400mL全血献血では男性12週間(3ヶ月)、女性16週間(4ヶ月)、成分献血では男女ともに8週間(2ヶ月)
の期間をあけなければならないと定められています。これは献血によって失われた血液が十分に回復するまでの時間と考えられます(詳細は日本赤十字社のWebページ参照)。
この期間中でもトレーニングは普通にできます(「スポーツ愛好家の場合」を参照)が、大事な大会や練習期間は避けるのが安心です。
アスリートの方々は、シーズンオフでトレーニングがそれほどきつくなく、パフォーマンスをあまり気にしなくても良い時期に献血をすると良いと思います。
しかし、「こんな長い期間はあけられない…」「この期間中ずっとパフォーマンスが低下するの?」と心配する声も聞こえてきそうです。
先ほど紹介した期間というのは、献血ができる16歳から69歳までの人全てが安全に献血できるために日本で定められた、非常に厳しい基準です。
そこで次に、海外の献血とスポーツに関する研究結果なども紹介しながらさらに詳しく解説します。
スポーツと献血に関する研究の紹介
400mL全血献血について
世界中の様々な研究をまとめた報告(文献1)では、40歳以下の人が400〜500mLの献血をした後、24〜48時間は最大酸素摂取量が献血前より7%低下したと報告されています。
最大酸素摂取量=耐えられる最大の運動強度、と考えてください。
また、45歳以下の人では献血後に最大酸素摂取量が献血前の水準に戻るまでに男性で2〜3週間(文献2, 3)、女性で4週間(文献4)かかったという報告があります。
日本赤十字社のWebサイトでも、赤血球の数が元通りになるのは約2〜3週間後とされていますから、男性で約2〜3週間、女性で約4週間はパフォーマンスに影響がでるのではないかと考えられます。
一方で、献血で失われたヘモグロビンを作る元となる、鉄を含むサプリメントの摂取によって、最大酸素摂取量の回復が早まると考えられます。
成分献血について
成分献血であればパフォーマンスへの影響は少ないです。血液の中でも血漿と呼ばれる成分や、血小板という血を止める細胞だけを取り出し、赤血球は体に戻すからです。
血漿成分を取り出す血漿成分献血においては、最大酸素摂取量は変化しないものの、2日間は持久力が低下すると報告されています(文献5)。
血液の中の血漿成分は献血後約2日で元に戻るとされているので、血漿成分献血の場合は2日間はパフォーマンスに影響があると考えるのが良いと思います。
血小板成分献血と運動に関する研究は見つかりませんでした。血小板の数は約4〜5日で回復するとされていますが、血小板の数はパフォーマンスには影響しないと考えられるため、血漿成分献血と同様に2日間と考えておいて良いと思います。
アスリートは献血後から大事な時期までどのくらいあけるべきか?
アスリートが献血後に大事な時期までどのくらいあければ良いかという質問に対しては、明確な答えは出せませんでしたが、日本で定められている献血の間隔である
400mL全血献血後は男性3ヶ月、女性4ヶ月、成分献血後は男女とも2ヶ月
は大事な大会や練習期間を避けるのが安心と言えます。少なくとも、
400mL全血献血後は男性で約2〜3週間、女性で約4週間、成分献血後は男女ともに2日間
はパフォーマンスに影響が出ると考えられるので、これらの期間も考慮して、指導者やかかりつけのスポーツドクターと相談しながら献血するかどうか決めるのが良いと思います。
次回予告
長くなりましたが、今回は以上です。スポーツに支障がでないのか?というのは部活動やサークル活動をしている高校生・大学生が特に心配するところではないでしょうか?
今後の大会・練習の予定や、指導者・スポーツドクターと相談しながら献血してみてくださいね!
【第4回】は最後の記事になります。献血前のチェックポイントや準備、当日の持ち物や流れについて解説していきたいと思います!
参考文献・Webサイト
本文中で取り上げた、スポーツと献血に関する研究の論文を記載します。
(1) Van Remoortel, H. et al (2017), The effect of a standard whole blood donation on oxygen uptake and exercise capacity: a systematic review and meta‐analysis. Transfusion, 57: 451-462. https://doi.org/10.1111/trf.13893
(2) Ziegler, A.K. et al (2015), Time course for the recovery of physical performance, blood hemoglobin, and ferritin content after blood donation. Transfusion, 55: 898-905. https://doi.org/10.1111/trf.12926
(3) Judd, Tyler B. et al (2011), Time Course for Recovery of Peak Aerobic Power After Blood Donation. Journal of Strength and Conditioning Research, 25(11): 3035-3038. https://journals.lww.com/nsca-jscr/Fulltext/2011/11000/Time_Course_for_Recovery_of_Peak_Aerobic_Power.14.aspx
(4) Stangerup, I. et al (2017), Temporary impact of blood donation on physical performance and hematologic variables in women. Transfusion, 57: 1905-1911. https://doi.org/10.1111/trf.14121
(5) HillDavid W. et al (2013). Effect of plasma donation and blood donation on aerobic and anaerobic responses in exhaustive, severe-intensity exercise. Applied Physiology, Nutrition, and Metabolism. 38(5): 551-557. https://doi.org/10.1139/apnm-2012-0361
日本では標準の献血量が400mLですが、海外では450〜500mLなどとなっています。献血量が異なるため、これらの研究結果をそのまま日本人に当てはめることはできませんが、日本人の体格なども考慮すると、一定程度参考になるのではないかと考えています。
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