見出し画像

マネジメント強化のための360度フィードバックの進め方

 企業組織を活性化していく上で一番重要なポジションはどこか?と聞かれれば、「管理職」と答える方も多いのではないでしょうか。しかしこの管理職。育成という観点で言えば、昇格後に実施する管理職研修が最初で最後という企業も多く、在任中に育成機会を定期的に提供する企業は稀かと思われます。プレイヤーの時とは全く違う「筋肉」を使い、組織の中で重要なポジションの一つである管理職に対して育成を継続していくことは、さらなる成長を目指す企業にとって重要なテーマと言えるでしょう。そして、その育成のための有効な手段として360度フィードバックがあり、今回はその進め方について詳説していきたいと思います。


360度フィードバックとは?

 360度フィードバックとは、その対象者の行動が周囲の関係者にどのように理解されているかについて定量的・定性的な情報を集め、本人にフィードバックするというものです。日頃、管理職は部下にリーダーシップを発揮していますが、その良し悪しについては上司よりも、リーダーシップの受け手である部下の方がよく把握しています。そして、他部署との折衝については、同僚の方が良く観察しているかもしれません。したがって、管理職自身が自分の行動を適切に把握するためには、上司からのフィードバックだけでなく様々な関係者からの情報が必要で、360度フィードバックはその重要な役目を果たしてくれます。

目的は「育成支援」か「人事評価」か

 ツールとしてはどちらにも使えます。しかし私は360度フィードバックはあくまで「育成支援」で使うべきと考えています。「人事評価」は、評価者訓練を受けた評価権限者の上司のみが責任を持って評価するべきです。もし、昇格や報酬に繋がる「人事評価」に部下評価や同僚評価を入れてしまうと、忖度や意図的な操作が入る可能性があり、結果が信頼できないものになってしまうかもしれません。360度の目的を管理職の「育成支援」とし、ひいては職場全体の活性化に繋げる手段と位置づけ、そのことを回答者にしっかりとアナウンスすれば、より正確な情報が得られ360度を効果的に運用できると考えます。

360度で何を測るのか?

 人の特徴を見る際、目に見え易い順に並べれば、行動⇒スキル⇒知識⇒価値観⇒性格となります。360度で測定するのはあくまで一番見え易い「行動」です。管理職は、他者からのフィードバックにより特定の行動について発揮できているかどうかを確認し、自身の行動開発に役立てます。仮に、スキルや価値観を測定対象とし、ある項目が”保持していそう”に見え点数が高かったとしても、それが行動として出ていなかったら何の意味もありません。

オリジナルの質問項目

 360度運営会社が提供してくれる質問項目を使っても構いませんが、できれば自社オリジナルの質問項目を作ると良いでしょう。その質問項目を360度の対象者や回答者が見ることで「会社が管理職に求めている行動」を認識することになります。つまり、質問項目を自社オリジナルにすることで”管理職にはこういった行動をしてほしい”というメッセージを会社全体に発信することができます。
 では質問項目をどのように設計すれば良いのか?主要なポイントを整理します。

1)経営ビジョンを実現するための求める管理職像を定義する。
2)そして、カテゴリーを4つ程度作り、各カテゴリー内で5問~8問程度の質問を作成。(全部で30問前後が適当かと)
⇒カテゴリーは、管理職であれば、例えば、リーダーシップ/対人コミュニケーション/戦略策定/計画策定といった4つを設定。
⇒各カテゴリーの具体的な質問は行動ベースで表記。
例)【戦略策定】組織の問題点を的確に把握している。
3)できた案をMECE(もれなくダブりなく)になっているか確認し、”この項目を管理職が行動開発することで会社の活性化や成長につながるか”という観点で検証を重ねる。

 上記はあくまで例ですので、こちらを参考に会社に合った進め方を決めていただければと思います。

評価基準は細かく設定

 これまでの経験から、評価基準は10点満点とし下記のような基準にすると良いと思います。
・非常によく発揮している(10点)
・よく発揮している(8点)
・どちらかというと発揮している(6点)
・どちらかというと発揮していない(4点)
・あまり発揮していない(2点)
・全く発揮していない(0点)
人の行動は、場面によって発揮していたりしなかったり、また時期によっても変動する場合もあり白黒付け難いものです。その曖昧さをできる限り反映させられるよう基準を細かく設定しておく必要があります。上記のような基準を設定し、例えば、ある行動が、”非常によく発揮している(10点)”と”良く発揮している(8点)”の間だと思われる時に9点を選べるようにするという具合です。また、回答者の立場によっては対象者のその行動を観察できていない場合があり、
・その行動は観察できない
といった選択肢も用意しておくことも大切です。

コメント欄の工夫

 点数で回答してもらう他に、カテゴリー毎にコメント欄を作り、点数の裏付けとなる具体的な行動を記入してもらいましょう。管理職が今後具体的に何をすべきかを考える際に役立ちます。ただし、対象者が期待通りのパフォーマンスを発揮できていないと、回答者がネガティブなことばかり書いてしまうので、ポジティブな内容(強み)の欄と今後に向けた課題の欄の二つ用意をしておくと良いでしょう。

回答者の選定

 その対象者と接点があり評価可能かどうかという観点で回答者を選びます。主な回答者カテゴリーは、本人に加え、上司、同僚、部下となるかと思いますが、誰が評価したかがわからなくなるよう各カテゴリー複数人選定する必要があります。もし、カテゴリー内人数が1人になってしまうようでしたら、すべてのカテゴリーを”他者”として統合しても良いかと思います。また、最近では対象者が回答者が選ぶやり方も増えてきていますが、そうしてしまうと対象者が自分に好ましい回答をしそうな者ばかり選定してしまい、本当の姿が見えなくなってしまうことも考えられます。まずは組織図をベースに人事部が選定し、対象者の意見を聞きながら回答者を調整していくと良いでしょう。

回答者への説明

 意外とこの部分を軽視してしまう人事担当者が多いように思います。可能であれば、回答者を全員集めて説明会を開くことが理想ですが、難しい場合は、動画を作ったり説明資料を充実させるなどし、目的や進め方を良く理解してもらうようにしましょう。「何のためにやるのか」「どのように回答するのか」「匿名は守られるのか」「実施した後どのような流れになるのか」等を説明していくと良いと思われます。

質問表の配信~収集

 ひと昔前は、紙での実施だったのでとても工数がかかるプロセスでした。昨今のHRテックの進化によって、ここの領域は非常に効率化されています。数々あるサービスの中で株式会社Fusic様の360(さんろくまる)は、準備から結果公開まで一つのプラットフォームで完結でき、個人シート等結果データも見やすく、コストも安く抑えられてお勧めです。

対象者に結果をどのように伝えるべきか?

 360度フィードバックの結果は、人事が思っている以上に対象者にとってインパクトが大きくセンシティブな情報です。一番やってはいけないのは、結果をメール配信するだけで、その後の行動開発は本人任せにしてしまうというパターン。これですと対象者によっては数値結果やコメントを見てネガティブな感情を持ってしまい、それを職場に向けてしまうことも考えられ、折角実施した360度が逆効果になってしまうかもしれません。必要なことは、悪い結果や納得いかない結果であっても本人がそのデータと真摯に向き合い、結果を受け止めてもらった上で次のアクションに繋げてもらうことです。そのためには結果と対象者の間に「媒介者」を入れる必要があります。それは我々のようなコンサルタントでも良いし、社内の人事担当者やキャリアコンサルタントが担っても良いでしょう。そういった客観的な視点を持つ「媒介者」と1対1の機会を設け、一緒に結果を咀嚼していくプロセスが必要です。具体的にはこんな例が考えられます。

●360度フィードバック結果共有セッション
・時間:1時間程度
・参加:対象者となる管理職、コンサルタント(媒介者)
・プロセス:
 1)目的説明
 2)いまの役割、仕事での課題確認
 3)結果を見た率直な感想や印象のヒアリング
 4)カテゴリー毎に対象者の認識を聞きながら読み解く
  ※)良い所7割、課題3割といった割合で確認していく
 5)今後のアクションプランを一緒に作る

組織開発のPDCAサイクルを回す

 360度フィードバックを効果的に運用している企業はしっかりと仕組み化してPDCAサイクルを回しています。
例えば、こんな進め方です。
【管理職向け】
・360度フィードバック(1回目)を実施
・結果共有セッションを実施⇒アクションプランの作成
・上司との1on1面談で進捗を確認
・360度フィードバック二回目を実施
・結果共有セッションを実施⇒前回との比較
【経営向け】
・全体傾向分析を行い、管理職層全体の課題抽出
・管理職全体に向けた施策の実施
・二回目の360度の結果を見て効果検証

まとめ

 360度フィードバックは、効果的に実施すれば、管理職に大きな気づきを与えることのできる強力ツールですが、やり方を間違えると逆効果になります。これまでご説明してきた内容を御理解いただき、プロセスを丁寧に設計していくことをお勧めいたします。

ご質問・お問合せ

 当社は360度フィードバックを軸とした組織開発コンサルティングも展開しております。進め方についてのご相談がありましたらお気軽にお問い合わせください。
お問合せはこちらよりどうぞ。

下図は実際の事例となります。


【関連コラム】