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組織の一体感を高めることの「光と影」

   「リリリーン・リリリーン・リリリーン」ある夜けたたましくサイレンが鳴り、目を覚ましました。どうやらマンションの警報器が鳴っているようです。パジャマのまま部屋を出て1階の管理室に行くと、火災警報器が誤動作し鳴り続けていました。驚いて出てきた同じマンションの住人の人たちと、業者用のマニュアルをあれこれ解読しながらなんとか止めることができました。

  その後、協力して警報器を止めたことで住人の間になにやら一体感が生まれたようで、普段はごくごく軽い挨拶しかしなかった関係が、今はエレベータや共有スペースで会うと、笑顔で挨拶し少し世間話をする間柄になっています。

   社会学には社会関係資本という言葉があります。社会関係資本とは人と人の関係性を資本と捉える考え方で、社会関係資本が高いと、地域社会を維持しようとする力が強まり、困っている人がいたら進んで助けたり、地域で問題があったときに一致団結して解決しようとする力に繋がります。

   私のマンションでも、警報器の一件以来、この社会関係資本が少し高まったようです。この社会関係資本は地域社会ではとても大切な資産となります。実際に、大災害が起きたとき、同じ被災状況でも社会関係資本が高い地域では相対的に生存者が多いことが報告されています。

   職場でもこの社会関係資本が高いところ、つまり社員間の一体感の強いところでは、社員のエンゲージメントが向上し、離職意思が低くなると言われています。これは、いわゆる組織開発が目指している領域の一つとも言えます。

   一方で、組織の一体感が高まると、様々な弊害も出てきます。密接な人間関係が築かれることで、どうしても個人の自由が制限されます。終業後の飲み会や社内の非公式なイベントなどに参加を強く促されることがその代表例と言えるでしょう。また、そういったイベントに参加しなかったり、組織の価値観にそぐわないような人を排除する力も発生し、時にそういうメンバーを「部外者」扱いし、パワハラに発展するケースもあります。

   その「部外者」を出さないように、今度はメンバーの多様性を受け入れていこうとする「ダイバーシティ&インクルージョン」(以下D&I)が求めらるようになってきました。多くの管理職は会社から、組織の一体感を高めることと、その過程で発生しうるであろう「部外者」を出さない取り組み(D&I)の両方を課せられています。現実問題この両方を上手く両立できている管理職がどの程度いるか甚だ疑問です。

   経営や管理職は、まず、前述で説明したような、組織の凝集性を高めようとすればするほど個人が尊重され難くなるという組織のメカニズムをよく理解する必要があります。その上で、両方の命題を同時に取り組むのではなく、個々の組織の一体性がどのフェーズにあるかを見極め、状況にあった対応をしていくことが大切になってくるでしょう。

   うちのマンションの場合は、頻発する災害リスクなどに連携して備えていけるようにもう少し関係性を深めていく必要があるかもしれません。