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「industry」な偉業

18世紀後半から始まった産業革命。
時期については諸説あるが、1人の偉業をもってして始まったとする声もある。
それは、ジェームズ・ワットその人である。
単位にまでなった彼は蒸気機関を改良したことで有名だ。

産業革命について軽く触れておく。
産業革命とは、道具から機械へと生産技術が変化し、それに伴う産業・経済・社会の大変革のことである。

持っている資産を売り、機械を購入して工場を建てる職人があった。
彼は雇用主となった。
工場に行けば金が手に入ると、農具を手放しそこへ出向く農民があった。
彼は労働者となった。
工場を建てる者を見て、工場を建てる者があった。工場で働く者を見て、工場で働く者があった。
瞬く間に人は増え、その場所は都市となった。
雇用主は得た金で更なる機械を購入し、やがて莫大な富を得た。
彼は資産家となった。

産業革命とは現在我々が住む都市を形成し、我々が生きる資本主義社会を確立させた。
歴史の大きな転換点であり、現在の礎たる正しく革命である。

そのような時代の転換点にあって、ワットが成した偉業とは如何なるものか。
先に蒸気機関の改良と述べた。
その通りである。
中でも特筆すべき改良点は、ピストンの上下運動を円運動に転換したことであろう。

運動の転換と言うと小難しく聞こえるが、理解は容易い。
魚釣りを思い浮かべるとその一助となる。
手元のリールを回す(円運動)と、釣り糸は上がって(上下運動)くる。
釣竿は円運動を上下運動に転換する道具である。
ワットが成したのは上記の逆であるが。

そう、とても単純なことなのだ。
しかし、単純だからといって簡単だとは限らない。
必要なのは学び、考えるということ。
ワットは並々ならぬ努力と、勤勉さをもって上下運動を円運動に転換するという偉業を成し遂げた。
これにより、蒸気機関の使い道が大きく広がったのである。

唐突ではあるが、時代と場所を移す。
明治時代、日本。
文明開化を迎えたこの国にあって、一つの難事業が行われていた。
翻訳である。
言葉の意味、その本質を理解して訳語をつくらねばならぬ為、大変難儀したようだ。

「industry」の訳を見てみよう。
産業、工業。そして、勤勉とある。
明治の文化人は「industry」の本質を見抜いていた。
工業化した社会にあっては、勤勉こそが重要である、と。
工業と勤勉は切っても切り離せない仲にある、と。
ワットを見れば一目瞭然である。

我々は「industry」な世界の中にある。

(終わり)

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