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レンタカー試乗記 : 004 トヨタ アクア 1.5 G (NHP10)

プリウスの技術をコンパクトカーにつぎ込んだ

ご覧いただきましてありがとうございます。

時は2010年。
30系プリウス発売から1年が経ち、プリウスは日本のハイブリッドカーの代名詞と言っても過言ではなくなった。
しかし、幅が3ナンバーサイズ&全長が微妙に長いので、コンパクトカーを求める層にはなかなか売り出しづらい現状があった。

そこで、ホンダはその層を見逃さなかった。
2010年10月、当時の2代目フィットに同社のハイブリッドカーであるインサイトのハイブリッドシステムを載せた"フィットハイブリッド"を発売した。
低燃費低燃費と騒がれていた時代、関心が高まらないはずがない。
初期受注は約15000台と、順調な滑り出しを迎えた。

さあ、トヨタが黙っているはずはない。
時は2011年12月、プリウスの技術を載せた新型車"アクア"が解き放たれた!

今回は2014年1月登録の初期型(同年12月に中期型が出ているので、初期型としては最後のほう)に乗ることができた。
なお今回は短時間での試乗だったため、各インプレッションの要素は薄め。
どちらかというと筆者自身の感想のほうが多くなりそうだがお許し下さい。



外観、内装、デザイン

プリウスを前後方向に少し縮めて、ヘッドライトを大きくして、後ろをスパッと切ったようなデザイン。
好みかどうかはともかくとして、一目でトヨタ車と分かるデザインである。
なんというか、形のないデザインの統一性は凄いなと思う。

当時のアクアのグレードは下から"L"・"S"・"G"・"Gブラックソフトレザーセレクション"・"G G's"の5種類。
この個体のグレードは上級の"G"グレード。そして当時のお値段は187万円。
現行アクアの一番下のグレードが199万円なのを考えると、割とお値打ちだったのでは。当時の先進技術が載っかっているわけだし。
というかこの世の中、車両価格もだいぶ上がったなと。

ちなみにこの個体、前後バンパーの先端に黒い丸形のものが付いていて、コーナーセンサーなのかなと思いつつ調べてみたらなんと踏み間違い加速抑制システムのセンサーだった。
後付けのキットで設定があるみたい。世の中知らないことばかりですね。

後ろから見るとプリウス感はあまりないというか、独自路線感がある。
ちなみに前期のみテールランプ(今点灯してる赤いライト)が電球。
中期、後期からはLEDになる。ブレーキランプはモデルライフ通してLED。

リアバンパーが張り出しているので謎のどっしり感がある。
ちなみに手前側のリアバンパーに擦った跡があるが、これは借りる前からあったのであしからず (出発前にコールセンターに連絡済)

内装。最上級グレードの"G"なので、ステアリングは革巻き、シート表皮も高級感あるものになっている。

メーター部分は微妙に30プリウスに似ているものの、ナビ部分やエアコンパネルの部分はアクア独自の形状といった感じ。

そして何より、プリウスと違って旧来のゲート式シフトを採用している。
プリウスの電制シフトノブは賛否両論あるものの、やっぱり分かりやすさだけで言えばこのスタイルのシフトレバーでしょう。
しかしなぜプリウスとアクアでシフトレバーの方式を変えたのかは疑問。

こちらは30プリウス (後期)
似ているのはメーター部分とハンドルくらい?

ちなみに個人的意見として、電制シフトノブの動かし方が分からないだの今どのポジションに入ってるか分からないだのBレンジが"ブレーキ"に見えるだの…という意見に対して、自分としては「クルマに乗る前にそのクルマについて下調べしてきたらどうですか」というスタンスなので否定派である。
クルマは一歩間違えば人を殺める道具になりうる。だから、クルマの構造を理解しようともしない人間が乗っていいものではない。乗ってはいけない。

分かりやすいのは確かに旧来の操作方式のシフトだけれど、だからといってそれは電制シフトの操作をミスして事故を起こしていい理由にはならない。


乗ってみての感想とか

見た目以上に大きく感じる、というのが第一印象。
着座位置がデフォルトで低く、ダッシュボードの高さがけっこう高いので、結果的に座席が埋もれこんでいる感じになる。そうすると目線が低くなるのでその分車体も大きく感じる…というような感じ。
この辺の傾向は30系のプリウスと似ている。
前部分の見切りは良くないので、狭い道の曲がり角とかは苦労しそう。

動力性能は"あくまでちょうど良い、流れにも乗れるけど基本的にはエコ運転を追求しようとなる速さ…要は踏んでもそこまで速くない"といった感じ。
30プリウスは1.8Lのエンジンとモーターだったが、アクアは1.5Lエンジンとモーターの組み合わせ。若干エンジンの排気量が下げられている。

一応4気筒のエンジンが載ってはいるけれど、回して楽しいエンジンではない。かっ飛ばして走ろうとは考えないほうが良い。

ハンドルの感覚はかなり自然な感じ。革巻きで触り心地が良かった。
パワステは軽くも重くもなく…といった感じで扱いやすかったのだが、別の機会で後期のアクアに乗った時に「ハンドル重い!」と感じたので、登場時期の差なのか個体差なのかでハンドルの重さは変わってくる可能性がある。


いいところ

トヨタのハイブリッドの革新的技術が、このサイズのコンパクトカーで味わえるようになった事。
ヴィッツやファンカーゴ、ラクティスやその他メーカーのコンパクトカーからの買い替えにはちょうど良いサイズ感だったと思う。
寸法だけで言えばラクティスとほぼ同サイズ(ヴィッツよりは少々大きい)なので、車庫にも収まるサイズで燃費も良いから買い替える、といった層は少なくなかったはず。

並みのコンパクトカーと遜色ない動力性能、ハンドリング性能。
圧倒的な速さこそないが、ちょうどいい使い切れるパワー感。
峠道のコーナリングでも破綻せず安定していて(おそらく床下のバッテリーが良い重しになっている)常に落ち着いた走りができる車だった。


わるいところ、微妙なところ

絶対的なサイズこそそれなりに小さいものの、運転しやすいかと言われると首を縦には振れない。
自分が下手なだけかもしれないが、サイズ以上に大きく感じるのだ。
それは勿論、空気抵抗を減らすためにフロントウィンドウを寝かせて着座位置を下げて…とした結果ではあると思うし、実際それで燃費は良いのだから間違ってはいないのだが。
運転に独特の慣れが必要なタイプのクルマだと思う。

そして、坂道でのエンジンブレーキが思ったより効かない。
この子とは別個体だが、峠道の下り道でちょっと速度域上がってきたな~と思いながら、AT車のLレンジ感覚でBレンジに入れたのだが、回転数が上がるだけで全然減速しなくて焦った。
ハイブリッド車はブレーキを踏むと発電する仕組みがあるので、理論上はブレーキ踏んで減速して発電する…といった流れが正しいっちゃ正しいのだが、あまりにもエンジンブレーキで減速しないのでブレーキが焼けないか少し心配になってしまった。

あと気になるとしたら、上級グレードでさえハロゲンの電球類だろうか。
ハイブリッドの革新的技術をアピールした車なのだから、ヘッドライトぐらい標準でLEDなりHIDなり載せていても良かったのでは。


ハイブリッドは、ミーハーであり一種のブーム

先日ネットの海をさまよっていたら、本田技研工業(ホンダ)が全国の20歳代~60歳代の運転免許保有者男女1000人を対象に「クルマの専門用語、どれだけ知ってる?理解してる?」という内容のアンケートをとった結果が公表されている記事を見つけた。

調査結果によると、免許保有者の84.9%がクルマの専門用語で「よくわからないものがある」と回答。さらに、自家用車を所有する人の58.3%が「機能やスペックを理解しないままクルマを購入した経験がある」と答えた

出典:https://response.jp/article/2024/03/21/380461.html

専門用語の理解については、知ってはいるが内容や意味が説明できない用語を答えてもらうと、「ハイブリッド車」が29.5%でトップ。「トランスミッション」が27.2%、「排気量」が26.4%と続く。また、パーツや部位で説明が難しいとされたのは「サスペンション」が22.8%、「クラッチ」が19.2%、「ステアリング」が17.0%だった。

出典:https://response.jp/article/2024/03/21/380461.html

国内初のハイブリッド車の登場は1997年。初代プリウスである。
そんな初代プリウスの登場から約27年。
"ハイブリッド車"という名前は世の中に浸透したが、内容や意味、機構は浸透しきってはいなかったようだ。

この記事を見る限り、免許持ってる人を10人呼んだらそのうち3人は「ハイブリッド車?知ってるけどどういうのかは分からない、燃費がいいんでしょ?」と言うのが今の世の中だという。
では、なぜそんな世の中でハイブリッド車は売れているのか。

燃費が良くて、流行りものだから。
特に、アクアが発売された2011年は東日本大震災があった年でもあり、ガソリン価格は上昇の一途を辿っていた。(今のほうが高い気がするのだが)
人々は、燃費の良さを求めた。その結果、プリウスとアクアが山のように売れ、街中で見ない日は無くなった。勿論フィットハイブリッドも売れた。
"ハイブリッド車"という機構を理解する人が7割台のまま。
もしかしたら、当時はもっと少なかったかもしれない。

ハイブリッド車の燃費の良さを知ってしまうと、従来のガソリン車には戻れないだろう。燃費の良さを重視するユーザーは特に。
従来のガソリン車ユーザーも、ハイブリッド車の燃費の良さに惹かれて次々とハイブリッド車に買い替えていく。ホンダのフィットハイブリッドも新型が出て、日産はノートe-POWERを出し、各社燃費戦争が始まった。
"ハイブリッド車"という機構を理解する人が7割台のまま。

すると、どういう事が起きるか。
ホンダが新開発したハイブリッドシステム、i-DCDの話をしたいと思う。

このシステムは変速機が無段変速ではなくDCT(超変速が速いMTみたいなもの)なので、ハイブリッドらしからぬ走りが魅力的だったのだが、発進時にクラッチ的なものを内部で繋ぐので、坂道発進が続くと半クラッチ状態が長くなってしまい、冷却不足でミッション自体が高温になって最悪の場合走行不能になる。

ホンダ車はスペース効率がいい。だからより消費者にも魅力的に映る。
だから、よく分からないけど今までより燃費もいいんだったら買おう!!となったユーザーが、結果的にハイブリッドシステムのミッションであるDCTの構造を理解していなかったせいでみんないろは坂で立ち往生するのだ。

…これは極論。ホンダのハイブリッド(i-DCD採用車)に限った話ではあるが。

2022年10月末に紅葉が見ごろを迎えた栃木・日光の「いろは坂」で、ホンダ製の車ばかりが立ち往生していたという投稿がネットで話題となっていました。
(中略)投稿された画像を確認すると、立ち往生していたのはホンダ車のなかでも、旧世代のハイブリッドシステム「SPORT HYBRID i-DCD」を搭載したハイブリッド車両のようです。このシステムにはどのような問題があり、なぜ渋滞中のいろは坂での立ち往生が発生したのか、ホンダ広報部への取材結果を交えて分析します。

出典:https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/2211/09/news131.html

無論、これは構造上仕方のないことなのである。
でもそれを知らない人には"坂道で止まる欠陥"としか映らない。
結果的にホンダのハイブリッドシステムは、この次の世代からトヨタのハイブリッドシステムと同じ方式のシステムになっていくのだが…(制御は違うが)

メカメカしているハイブリッドシステムは個人的には大好きだったのだが、世間は"乗るために知識を必要とするハイブリッドシステム"より、
"適当に乗っても壊れないし燃費もいいハイブリッドシステム"を選んだ。

2024年現在、大通りの歩道に立って走っていく車を眺めると、7割くらいはトヨタのハイブリッドのエンブレムが貼ってある気がする。

ハイブリッドは、ミーハーであり一種のブームなのだ。



今回も好き勝手に書きました。
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最後までご覧いただきありがとうございました。

※2024/04/20 記事内容を一部変更しました

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