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米津玄師が夜の淵から贈ってくれるもの

「米津玄師の歌詞を因数分解して分かったこと」<第10章>

*プロローグと第1章〜9章は下記マガジンでご覧ください。

 昼夜逆転どころか朝から夜中まで働き、終電を逃してから夜の街へと繰り出していた日々が懐かしい。あの頃、いつ眠っていたのだろう?
それが、この頃は24時を回るともう眠く朝もグズグズと眠い。なんだか惰眠を貪るだけの夜が長くなり不甲斐ない。

 今夜もきっとこの街のどこかで、夢よりも美しいもの生み出している人がいるだろうに。

米津玄師は完全な夜型人間らしい

”深夜は詞を書くのが捗る”とブログにも綴っている。確かに米津の歌詞は、燦々と日光を浴びながら書いたとは思えない薄闇の帳に覆われている。

 彼曰く、夜に”ダンゴムシ”のように這い出し、隘路を散歩をしたり、ジョギングをしたり、お酒を飲みに行ったりしていると言う。日の光を浴びないことが白い美肌の理由なのかと妙に納得する。どうでもいいことだが。。。

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 1日の中でのタイムゾーンや時刻を表す言葉は、全88曲中50曲で、述べ78回出現するが、そのうち約半数の40語が「夜」の時間帯である。この中には「宵」「夜通し」「今夜」などの表現もチラホラあるが、ほぼダイレクトに「夜」と言う単語を使用していた。

 ただ、「星」「月」と言う夜のモチーフとなる言葉が21回登場しており、夜の風景描写を静かに照らしている。

夕方の表現に語彙力の高さが炸裂

 夜の直前、11回登場する「夕方」の時間帯は、「日暮れ」「夕凪」「夕陽」「夕間」「斜陽」「トワイライト」「夕」「黄昏」「夕暮れ」「夕日」「黄昏混じり」と、11種の違う言葉で表現されている。

 「打ち上げ花火」では、夕方の表現に「夕凪」と「日暮れ」と言う2つの言葉を使っっている。「夕凪」とは「夕方に海風が陸風に替わるときに無風になる状態」を指す。

寄り返す波が 足元をよぎり何かを攫う
夕凪の中 日暮れだけが通り過ぎて行く
パッと光って咲いた 花火を見ていた
きっとまだ 終わらない夏が

曖昧な心を 解かして繋いだ
この夜が 続いて欲しかった


 風の止まった蒸し暑い夕凪の時間帯、素足に寄り返す波の冷たさ。曖昧に揺れ動く気持ちとは裏腹に、日暮れだけが2人の間を通り過ぎ、確実に夜を連れてくる。パッと光って咲いた花火を見ながら、このが続いて欲しいと願った。

「夕凪」「日暮れ」「夜」、刻々と変わりゆく時の流れに渚の情景が重なる。胸の鼓動のような重い花火の音まで聞こえてきそうだ。和の情緒ある曲調に、この言葉選びは「適切」としか言いようがない。

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 同様に、5曲に出てくる「昼」の表現も「正午」「昼間」「真昼」「午後」「真午」とすべて違う言葉を用いている。

「朝」とともに終わっていくもの

 「夜明け」「朝日」「明け方」なども含み「朝」を表現する言葉は17曲で述べ19回使用されている。とはいえ、そのほとんどの曲で「夜」や「夕」と共に出現し「朝」が単独で使われているのはわずか3曲しかない。

 しかも、「明け方」と「朝日」と言う言葉を使いながら、「朝」ではなく「終わりかけの夜」を歌っているのが、先日MV再生回数が2億回を突破した「灰色と青」だ。

袖丈が覚束ない夏の終わり
明け方の電車に揺られて思い出した

朝日が昇る前の欠けた月を
君もどこかで見ているかな
何もないと笑える朝日がきて
始まりは青い色 

 なぜか新しい朝を迎える清々しさよりも、夜が終わる物悲しさを感じる。夜の終わりは米津玄師にとって1日の終わりなのかもしれない。

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 今宵、彼は夜の片隅に何かを探しに行くのだろうか?
そこで見つけたものが、いつの日か美しい音楽となって届くことを願いつつ、今日は早く寝ることにしよう。


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<Appendix>

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