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音楽の年齢制限

 一流飲食店や宿泊施設では「お子様不可」としているところが少なくない。お子様どころか30歳を超えないとその敷居を跨げない名店さえある。

ベッラ・ヴィスタ 13歳以上
トゥールダルジャン東京 16歳以上
オールドインペリアルバー 20歳以上
銀座 鮨かねさか本店 30歳以上
星のや京都 13歳以上
グランデスタイル沖縄 16歳以上

エンターテイメントはどうだろう?

 新国立劇場/ブルーノート東京/セルリアンタワー能楽堂などは「未就学児不可」だし、クラシックでは公演内容によっては13歳以上と、より厳しい制限を設けることもある。

ポップミュージックのライブでは、会場や時間にもよるが、未就学児不可が多い。大規模な会場では18歳以上という制限もあった。また、映画にはR指定が細かく設定されている。

 飲食店であれ、興行であれ「お子ちゃまお断り」は多々あれど「大人お断り」はない。

「大人の分別」への信頼があるからこそ年齢の上限を廃しているのだろう。


ネットに蔓延する年齢差別と分断

 ところが、ネット上のJ-POPやアイドル界隈では逆に”大人”に対する目に見えない年齢制限、年齢差別がモワッと充満しているような気がする。

 特に顕著なのは中高年女性に対するエイジズムだ。若いことに価値があるとされる女性は「おばさん」よりも侮蔑的な「BBA(ババア)」と揶揄されることも多々ある。

 アメリカの心理学者スーザン・フィスケによると、若者が中高年層に期待する典型的な行動パターンは以下の3つだという。出典元にはもっと品のいい言葉で掲載されていたが、おそらく本音に近いネガティブな言葉で要約すればこういうことだ。

年配者は…
・いつまでも居座らず、とっとと去れ
・資源は限られているのだから若者を優先すべき
・年相応の言動・格好をしろ

https://ideasforgood.jp/glossary/ageism/

 しかし、イマドキの中高年は若者が怯むほど元気だ。楽しむことに貪欲で、パワフルに人生を謳歌している人も多い。年相応に懐メロ歌手でも追っかけてろってわけにはいかない。

そもそも年相応の音楽なんてもんがあるのか?


大人の音楽と子供の音楽

YouTubeチャンネル登録者数216万人と、世界で注目されている日本人ギタリストのIchikaは、最初に影響を受けたミュージシャンを問われ、ビル・エヴァンスだと答えている。なんと3歳くらいにこの曲を聴いてのめり込んだと言う。

 子供が好きな音楽と言えば童謡やアニメ主題歌くらいと言う思い込みから、ド渋いジャズピアニストと3歳児が結びつかない。これもある種の偏見でありエイジズムかもしれない。”子供らしさ”に囚われているのだろう。

 ならば、中高年が親子ほど歳の離れたミュージシャンにハマっても不思議ではないはずだ。確かに一部ではリテラシーの低さ故にやらかすことも、厚顔無恥な言動や母親ヅラのマウントが顰蹙を買うことはあるが、好きな音楽や推し活を”年齢”で制限される筋合いはない。

老いも若きもポップミュージックが好き

 アメリカで年代別に好きな音楽ジャンルを調査したデータがある。(実査2018年)

 35歳以上を中高年と定義すると、ヒップホップやオルタナロックは若者比率が高く、クラシックロック*、カントリーウェスタン、ロックンロールは中高年層が多い。だが、ポップミュージックでは中高年と若者の比率にほとんど差がない

*おそらく60's- 80'sくらいのロックと推測される。

https://www.statista.com/statistics/253915/favorite-music-genres-in-the-us/


 日本でも同じような傾向で、和洋問わずみんなポップミュージックが大好きだ。特に全年齢層でJ-POPの人気が突出している。(*40代以上を中高年とした場合)

2019年日本デコード協会データより


悪意とのタッチポイントは限られている

 つまり、ポップミュージック=若者の音楽ではない。ところが、中高年が若いアーティストの領域に足を踏み入れると「推しのライブにBBAが増えてツライ」とか「○○のリプ欄、加齢臭すごい…」など悪しきエイジズムが湧き出てくる。

 若者だけならまだわかる。ヘタをすると同世代からも白い目で見られることも少なくない。「いい年をしてみっともない」とかなんとか…。

 さて、今これを読んでいるあなたが中高年で若いアーティストのファンだった場合、排他的な言葉で傷付いたり、年齢差別に腹を立てたことがあるだろうか?

 もし、あったとしてもせいぜいネット上だけだと思う。しかも、直接ではなく、TwitterのパブサやYouTubeコメ欄、5ちゃんねるなどを通じて間接的にではないか?

おばさんファンはキモい?ウザい?イタい?

 これらを目にして愉快な気分になる人はいないだろう。だが、それらは自ら見に行かない限り、そうそう出くわすものではないと思う。

 例えば、ユーザー数が世界2位のTwitter大国日本でも、ほとんどの人が見ているだけで、実際に投稿しているのはわずか17.3%*しかいない。
*2021年 NTTドコモモバイル社会研究所調べ

 しかも40代以上の女性の投稿率は極めて低い。

40代 12.6%
50代   8.2%
60代   4.5%
70代   3.9%

2021年 NTTドコモモバイル社会研究所調べ

 ごく少数の人の、ごく少数のキモ投稿や場違いタグなどが、ごく少数の悪意にぶち当たってスパークしてしまうのはある種の事故だ。お互いが不運だったと諦めてスルーするなりミュート、ブロックすればいいだけのことだ。

 水面下では膨大な嫌悪や嘲笑や義憤が渦巻いているかもしれないが….。

年齢意識からの解放

 SNSのプロフィール欄では「かなりの大人ですが」「おばさんなので失礼があったら」など、わざわざ自虐的なエクスキューズを添える人も少なくない。年齢で気後れを感じる奥ゆかしい人たちなのだろうが、今すぐ削除したほうがいい。

 同年代の人だけと繋がりたいならともかく、年齢が関係ない趣味アカウントであれば、歳で遠慮する必要など全くない。堂々としていればいいのだ。おばさん構文もガチ恋リプも、自らの美意識が許せばコスプレ画像投稿でもなんでも自由にやればいい。

 それを微笑ましく感じるか、共感するか、気持ち悪いと目を背けるかもまた自由だ。

 マナー違反や迷惑行為は、”年齢に関係なく” やる人はやるし、やらない人はやらない。

 どんなジャンルの音楽だろうと、いや、エンタメ/カルチャー/スポーツなんでもいいが、共通の趣味嗜好を持つ見知らぬ老若男女が、一期一会の楽しみを共有できる世界は豊かだ。

 人生は短い。楽しもう。

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