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ピアノカバーが啓示する 米津玄師「海の幽霊」の凄み

 「海の幽霊」は、漫画「海獣の子供」の映画化にあたり、米津玄師自らが映画制作サイドにアプローチし、主題歌として書き下ろした2019年の作品である。

 デジタルクワイアに坂東祐大が手掛けるオーケストラアレンジが加わった、幻想的で壮大な楽曲だ。

この曲を初めて聞いた時、これはもうJ-POPの領域ではないなと感じた。ハチ〜米津玄師というサブカルミュージシャンが、サンタマリアを経てLemonでメジャーアーティストになり、「海の幽霊」で大物音楽家になったという印象である。

 当然の如くこの曲に感銘を受けた多くの人たちが、プロアマ問わずカバーをネットにアップした。玉石混交とはよく言ったものだが、本家を超えるものはおろか、肩を並べるものにさえ早々に出会えるものではない。

しかし、米津のオリジナル音源の持つ繊細さと畏怖さえ覚えるようなスケール感を、たった1台のピアノで表現している映像を発見した。

 もちろん、そこに米津の声はない。クジラの鳴き声も3層構造の重厚な伴奏もなければ流麗なストリングスの響きもない。

 たった1台の「スタインウェイ B-211 ニューヨーク」が鳴っているだけである。にもかかわらず、身体の芯が震えるような感覚を覚える。米津玄師の声にピアノが共鳴しているように聞こえる。

そして、改めて海の幽霊の「音楽」としての凄みを持った底力にひれ伏すしかなかった。

何はともあれ聴いて欲しい。
クリアな音質のヘッドホンかイヤホンで。

 演奏しているのは、クラシックのプロピアニスト角野隼斗である。
国内最高レベルのコンクール「ピティナ」で特級グランプリ受賞し、世界3大コンクールである「ショパン国際ピアノコンクール」への出場が決まっている実力の持ち主だ。(5年に1度開催、2020年はコロナのため延期)。

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最新アルバム Hayatosm(初回限定盤)

 彼は音大を出ていない。最終学歴はは東京大学大学院である。さらにYouTuberとしてクラシックのみならず国内外のポップソングやクラシックの独自アレンジなどを投稿している。中学生の頃はニコ動にボカロも投稿してたらしい。

 私は幸運なことに、昨年12月にサントリーホールで開催された彼のソロリサイタルを生で聴くことができた。驚くほど華奢な身体からは、想像もできないエネルギーが迸る圧巻のステージだった。「ショパンとリストに憧れた21世紀の愚かな若者の挑戦」と自らが言う、彼のチャレンジングな活動には否が応でも期待が膨らむ。

海の幽霊に導かれて出会った美しい才能に感謝したい。

「これ米津玄師が弾いてるんじゃない?」

 米津玄師ファンにとっては、細く長い指と喉仏、長い前髪に「え??」と空目するような、この映像も垂涎モノかもしれない。演奏されている曲はクラシックではなくゲームミュージックである。

 ポップソングとクラシックのジャンルを超えた融合は、古くはプロコルハルムの「青い影」やELPの「展覧会の絵」などの名曲が多々ある。最近では常田大希の新しいアプローチである「2992」も話題となったばかりだ。

 音楽はジャンルを超え、時代を超え、名曲が名カバーを生み、無限に広がっていく。ますます楽しみだ。 

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