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語彙力高めな米津玄師のオススメ本

 もう名前もろくに覚えていないが、高校の国語教師が「先生の趣味ってやっぱり読書なんすか?」と聞かれた時の答えがいまだに忘れられない。

「読書は趣味じゃなくて、息をするのと同じだ」

 そんな記憶が、6月21日2週連続で配信された米津玄師のインスタライブを聴いているときにふと脳裏に去来した。

 2時間近い長丁場だった。前半はいつもの他愛ない話だったが、後半に思わずメモをとった時間があった。

 リスナーからの「その幅広い語彙はどこから来ているのか?」と言う質問に対し、米津が慎重に言葉を選びながらこう答えた。

「ちゃんと意味を誤解のないように伝えたい。自分が考えていることを、そのまま似つかわしい言葉に抽出して変換して表現するって考えるとやっぱりどうしても固い言葉に寄っていってしまう。(略)自分にとっては自然なことで語彙力はそんなに幅広いとは思わない。」
(抜粋)

 六法全書や契約書、公文書などの言葉がガッチガチに固い漢字だらけなのは、まさにこう言う理由からだ。その言葉の持つ意味の範囲が狭ければ狭いほど、想像や解釈によるブレ幅も狭くなる。しかし、読む側にそれなりの知識や教養がなければ逆に意味は伝わらない。

 米津玄師の書く歌詞や文章、話し言葉には、確かに俗に言う”難しい言葉”、”固い表現”が多い。

 例えば、”ゆめうつつ”で宇宙船を形容している「瀟洒」は、何万とある日本語曲でもわずか9曲にしか使われていない。(uta-Netより)「瀟洒」はシックともエレガントとも洗練とも微妙にニュアンスが違う。「瀟洒」は「瀟洒」としか表現できない。それ故、米津にとってはごく自然にこの言葉を当てはめたのだろう。

 それでも人によって思い浮かべる「瀟洒な宇宙船」の映像はそれぞれ違うだろう。ましてや慌てて辞書で調べただけではイメージさえ湧かないかもしれない。

 筆者も米津の歌詞を分析する過程において「隘路」と言う言葉を初めて知った。この言葉を米津は”リビングデッドユース”と”しとど晴天大迷惑”の2曲で使用している。

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さあ 笑われたまま願い疲れた
この隘路をまたどこへ行こう
(リビングデッドユース)

「隘路」と言う言葉をちゃんと理解できていれば、1番目の意味と2番目の意味のダブルミーニングに気づけたはずだ。

 星野源のANN出演時でもインスタライブでも「得心(とくしん)がいく」と言う言葉を使用。会話ではあまり使わない言い回しだ。一般的には「納得がいく」の方が自然だろう。しかし、納得よりも得心の方がより納得度が高い。それを伝えたかったのならまさに得心がいく。

 また、「絵を描くこと」「死神を作ったこと」で”溜飲が下がる”と言う言葉を使っている。この言葉は”気分が良くなる、気が晴れる”と言う意味ではあるが、”不平不満、恨みなどの胸のつかえがある”ことが前提となっている。”溜飲”とはそもそも逆流して胸につかえている胃酸のことだからだ。こんな言葉をセレクトするあたり、笑顔の裏になかなかのストレスが溜まっていたと推測できる。

 話をインスタライブに戻すと、語彙力についての流れでこんなことを言ってた。

「別にそんなわんさか本を読んでるわけじゃねえし」

 この発言の後、「あ、でも、待ち時間、移動中とかもずっと何か読んでるかも」と言い、最近読んで面白かったと言う本を立て続けに4冊紹介した。
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 純文学作品から、上記のようなエッセイやコミック、社会的な哲学分野の著作まで、特に「わんさか本を読んでいる」と言う自覚もなく、それこそ”息をするように”活字に触れているのだろう。

 それは日々代謝する細胞に取り込まれ、彼の毛細血管の隅々にまで行き渡り、吐息のように口をついて出てくる。そこには知性でマウントを取ろうなどと言う考えは微塵もない。

 「子供にもわかるような普遍的なポップソングを作りたい」と切に願いながら、いい大人でも首を捻るような難解な言葉や表現は依然として多い。

 米津に「なんでそんなに語彙力が高いんですか?」ときくことは、きっとアメリカの子供に「なんでそんなに英語いっぱい知ってるの?」と尋ねるようなものなのかもしれない。

 
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*ヘッダー画像は、米津玄師オススメ映画「ベルリン天使の詩」にちなんで、ベルリンで撮影した書棚です。

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