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読書記録*02:本と出逢う楽しみ

 読む小説を選ぶのは難しい。一冊の本を読もうとすればどうしても時間がかかるので、どれを読もうか悩むのは自然なことである。しかし、なんとなくで選んだ本が予想外の展開を見せてくれることもあり、その意外性は読書体験を彩ってくれる。今回の記録にはそんな本も含まれている。

1.大平信孝『やる気に頼らず「すぐやる人」になる37のコツ』

 たまに読むと楽しい自己啓発本。noteを書き始めたのもそうだが、ここ数ヶ月で新たに始めてみたことがいくつかあるので、それらの一助になればと思い目を通してみた。自分が実践していることが多かったり、なるほど使えそうというものもあったりで、良い暇つぶしにはなった。自己啓発やビジネス系の本は、文学作品とは異なり斜め読みで十分なのでサクサク読めるね。 
 昔はこの手の本もじっくり読んでいたけど、要旨の速読ができるようになっていてうれしいという気持ちもあった。


2.我孫子武丸『殺戮にいたる病』

 1996年発表の、名前はよく聞くミステリー。文字によるグロ描写があるよ、という嫌な情報しか持っていなかったが、折角なので読んでみた。
 名作と名高いせいで期待してしまった感がある。見どころのトリックは好きな部類のものだったのだが、それ故に予想できてしまって感動できなかった自分が悲しい。また、著者自身もあとがきに書いていたように、シンプルなトリックへの意識を削ぐためか、やけにしつこい印象を受ける文章で少し残念だった。全体的に人を選ぶ、お勧めしづらい作品。


3.稲垣栄洋『世界史を大きく動かした植物』

 テーマが面白く、なるほどと思う着眼点や、果たした特別な役割は明確に書かれている。その一方で、細かなところや事実関係について怪しい内容も散見されるのが惜しい。ごく一部、大学生の水増しレポートみたいなところもあって失笑した。厳密な知識というよりは、「へぇ、そうなんだー」くらいの気持ちで読んでおいた方がいい。読みやすさ重視の軽い調子で書かれていることもあり、メジャー植物の歴史トリビア集、といった印象。おすすめはイネとジャガイモ、トウモロコシの章。落ちこぼれのイネによって富がの概念が生まれ、悪魔の植物ジャガイモはアイルランド人をアメリカ大陸に押しやった。そして宇宙植物(?)トウモロコシは謎が多すぎるのである。


4.椹野道流『最後の晩ごはん ふるさととだし巻き卵』

 えり好みしないで読むというのもたまにはしたいと思っているから、読み放題の対象で、評価も良かったので読んでみた。リスクのある読書に敢えてお金を払う気も、期待できないものに時間を費やす気もないので、「読み放題対象」で「好評」というのを求めた。
 タイトルから、ご飯屋さん人情物語といった雰囲気かと思いきや、一体何を読まされたのかよく分からないまま読み終わった。軽く読めることもありどんどん読み進む。 詳細を知らずになんとなく読み始めるのが正解の本。
 シリーズものとして結構続いていて2018年にドラマ化したらしい。主眼にご飯を据えたなら映像化は映えるよなあ。


5.吉岡友治『いい文章には型がある』

 文章を書く際に守るべきルールを説いた本。noteを書くのに役立ちそうな内容である。主張型と命名されている構造が私の書きたいものに適用できそうだったので、記載されたエッセンスを意識して何本かnoteを書いていく予定である。この本が良いものであったかどうかは、実践してみないことには判断がつかないので、評価は保留。


6.ハンス・ペーター・リヒター『あのころはフリードリヒがいた』

 教科書にも載る、ヒトラー政権下のユダヤ人迫害を、ユダヤ人の友人を持つ少年の視点から描いた作品。ユダヤ人迫害をよく描けているとされている。1930年~40年あたりを密に描かれ、迫害が過酷なものとなっていく様には息をのむものがあった。天真爛漫であったフリードリヒ少年が怯えを露わにしていく様もさることながら、彼の父親であるシュナイダーおじさんの変化が最も痛ましかった。初めは良い仕事に就いている裕福で、心に余裕のある人格者という感じだった彼だったが、解雇され、命の危険を感じ、妻を亡くし、精神的にも追い詰められていく。彼らはなにも悪いことをしていないにもかかわらず追い詰められていく。主人公一家は親しい隣人として彼らと良好な関係を保っており、非情さなど微塵もないのだが、晩年には彼らの不幸に手を差し伸べることすら許されなくなってしまう。国家による弾圧が如何に暴力的で抗しがたいものかを感じる。そして救いなく物語は閉じる。
 描かれている差別的扱いについては漫画などの表現として見慣れたものであるように感じたが、それが現実に則して書かれたものであるということを再認識したとき、愕然とする。ウソのようなホントの話、というやつだ。しかも、悪い意味で。楽しい話では全くなかったが、この凄惨さは知っておいた方が良いだろうという意味で、読めてよかったと思う。


7.浅倉秋成『教室が、ひとりになるまで』

 4.『最後の晩ごはん ふるさととだし巻き卵』と同じく、「読み放題」の「高評価」タイトルからテキトーに選んだ。
 学園ミステリーとだけ把握していたが、まさかの(ごく制限された)超常能力ありのファンタジー設定。こういう変わった味付けをされたものをがあるものを特殊設定ミステリーというらしい。存分に生かせれば面白くなりそうだったが、いかんせん調理不足に感じた。能力についても、活かしきれていないというか全く活かす気がない構成である。一人を除いて能力をワンポイントギミックとして採用しているだけで、仰々しいものとする必要はなかったと感じたそれにしても主人公の語りはあまりに間抜けで思い込みが激しく、「おそらく~と考えるはずだ」「きっと~ではないだろう」という際の根拠が弱すぎるように感じた。登場人物たちの思想が青臭すぎるのは、高校2年生ならありうるのかなと思うのでさもありなんという感じで納得だが、個人的にはもう少し青臭さを抑えてもらった方が読みやすい。全体的にプロットが拙いように感じるが、中高生向けだったのだろうか?
 正直好みではないが、この新しいジャンルに出会えたことは大きな収穫である。解説で「特殊設定ミステリー」という言葉を見たとき思い浮かんだ『屍人荘の殺人』が、例として取り上げられているのを読んでにやりとした。もっと洗練された同ジャンル作品を読んでみたいと思う。


8.恒川光太郎『秋の牢獄』

 恒川光太郎のホラー風味ファンタジー短編集。かつて読んだことがあったものを、表題の『秋の牢獄』が読みたくなって再読。同じ一日を繰り返す、11月7日に囚われた人々の話。奇妙なドキドキ感が変わらず楽しめた。特に下の引用部分が印象に残っている。

コクラさんはスポーツカーをレンタルして高速道路をすっ飛ばした。彼の夢は警察とのカーチェイスだった。コクラさんは東名高速道路で大事故を起こして死亡した。次の日の朝には、いつになく興奮気味にレースの様子を語った。
「最高だったよ。死ぬかもなと思ったけれど本当に死ぬとはね」

恒川光太郎『秋の牢獄』

 自分であればどのように過ごすのだろうか。財産の限り豪遊するだけではなく、死の危険を冒したりもあるかもしれない。それとも、不意にループが終わるのを恐れて無茶はしないで過ごすのかな…など考えるのも楽しかった。短く面白い作品なので、ぜひおすすめの作品。


これにてさようなら。

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