心にすりこまれていた「N・P」吉本ばなな著

 このお話は、アメリカで高瀬皿男という小説家が48歳で自殺、最後に英語で書いた97話の短編集「N・P」をめぐって、日本語訳をした後に自殺してしまった庄司とその恋人風美、小説家の二卵性双生児の娘と息子、知らずに高瀬と関係をもってしまった腹違いのもうひとりの娘をめぐる濃密な期間のことである。主人公は、訳者の恋人の風美。

 私は、この小説の登場人物たちに無意識のなかで大きく影響されていた。
 20歳代前半、初めてこの小説を読んだ。
 実年齢よりすこしませている主人公や、この小説家の忘れ形見の、三人の子供たち。みんなふわふわとしているようで、あか抜けていて、芯がつよい。ブレない淡々とした日常がある。
 翻訳という職業を知り、憧れをもったのも、この小説を読んだからだ。だけど、私は一介の主婦、私なりに心が揺さぶられるものを書いていく。
 最近になり50歳を前にふとした時間ができるようになり、あらためて読んだ。
 20年以上前に私のこころの基盤のひとつを形成している、ふだん頭のすみにいた私の記憶の友だちはこの人たちだったんだ、と気づいた。
 当時の生き生きとした日々の感情に同窓会をしたような読後感だった。
 ありがとう。あの日をおもいださせてくれて。


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