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ル・ボンの「群集心理」を語る

群集心理
著者:ギュスターヴ・ル・ボン
訳者:櫻井成夫
講談社学術文庫
初版:1993/9/10


群集は、もっぱら破壊的な力をもって、あたかも衰弱した肉体や死骸の分解を早めるあの黴菌のように作用する。文明の屋台骨が虫ばまれるとき、群集がそれを倒してしまう。群集の役割が現れてくるのは、そのときである。かくて一時は、多数の盲目的な力が、歴史を動かす唯一の哲理となるのである。

序論 群集の時代より



著者 ギュスターヴ・ル・ボン


1841~1931。フランスの社会心理学者。医学を修めた後、心理学や人類学、物理学など多面的に活動する。


訳者 櫻井成夫

1907年東京生まれ。早稲田大仏文科卒業。


作品について

心理学の視点から群集の心理を解明しようとした。群集の性質はもちろん、その指導者が使う説得手段が解説されている。一説によるとヒトラーが読み込んだ禁断の書物であるとも言われている。


群集の性質

1 衝動的で動揺しやすく昂奮しやすい

群集は思考力を持たず持続可能な意思を持たない。単独の個人なら何も起こさない人でも群集の一員になると多数の与える力を意識して殺人なり掠奪なりの暗示が少しでも与えられると宮殿に火をつけることも店舗を荒らすこともできる。民族などによる差はある。

2 暗示を受けやすく物事を軽々しく信ずる

群集は心象(イマージュ)によって物事を考える。主観と客観を区別できず心中にできた心象が事実と異なっていても、その心象を現実のものとして受け入れる。群集に加わると無学者も学者も観察能力を失う。

3 感情が誇張的で単純

物事を大まかに見て推移の過程を認識しない。群集の感情が単純で誇張的であることが群集に疑惑や不確実の念を抱かせず極端から極端へ走る。誇張し断言し反復すること、推論によって何かを証明しようと決して試みないことが民衆の会合で弁士が用いる。

4 偏狭さと横暴さと保守的傾向

群集は弱い権力には反抗しようとするが強い権力には屈服する。群集は根強い保守的本能を具えていて伝統に対しては拝物教的敬意をいだき現実の生存条件を改めかねない新しい事実を無意識に嫌悪する。

もし群集が、しばしば推理をし、直接の利益を打算するようであったならば、恐らく地球の表面上に、どんな文明も発達しなかったろうし、従って、人類は、歴史というものを持たないであろう。

群集の感情と特性から


群集の思想と推理と想像力

1 群集の思想

群集の思想は極めて単純でむしろ単純でないと受け入れられない。思想が一般に広まるためには徹底的な変貌が必要。

2 群集の推理

群集の用いる論法、群集に影響を及ぼす論法は論理としては極めて程度が低い。類似の点を取り上げて推理と名づけているだけ。

3 群集の想像力

群集は熟考と推理の能力を欠くため真実らしくないことを弁別できない。そして最も真実らしくない事柄が一般に最も人の心を打つ。

群集は、心象によらなければ、物事を考えられないのであるし、また心象によらなければ、心を動かされもしないのである。この心象のみが、群集を恐怖させたり魅惑したりして、行動の動機となる。

群集の思想と推理と想像力から


指導者の行動手段

1 断言

群集の精神にある思想を沁みこませる確実な手段。証拠や論証を伴わず、簡潔なものであればあるほど威力を持つ。

2 反復

断言された事柄を人々の頭の中に固定してあたかも論証ずみの真理のように承認される。反復された主張の発言者が誰であるかも忘れ群集は信じるようになる。

3 感染

ある断言が十分に反復され全体の意見が一致したとき意見の趨勢なるものが形づくられて強力な感染作用が働く。意見だけでなく感じ方も人々を強制する。


感想

一通り読んでみてとても怖い書物だと感じた。一貫して群集は脆くて儚い集団という印象を受ける。
ただ共感する部分はとても多かった。日頃から人は集まるとよくない方向に進みがちでは、と感じている。フェミニストから派生した偽のフェミニストは個人的に「女性第一主義者」のように見える。その集団はとても単純な思想だがル・ボンの言うよに熟考と推理の能力を欠いているように見える。だからこそ集団に浸透している思想には注意が必要だと思う。

ある思想が、群集の水準に達して、群集を動かすという事実だけで、その高級さ、偉大さが、ほとんどすべて失われてしまうのである。

群集の思想と推理と想像力から

今後は人が集まり論理性を欠き、先導されていく現象をル・ボンから引用して「黴菌化」と呼ぶことにした。
現代はSNSにより高度な情報社会となった。それによりポピュリストが断言、反復、感染で力を拡大し群集を先導しやすくなったとも言える。トランプが「不正選挙があった」と訴え支持者が議事堂を襲撃した。

アメリカ合衆国議会議事堂襲撃事件と呼ばれるこの事件はとくに群集心理を表していたと思う。トランプの断言と反復、そしてSNSによる感染は民主主義国家にこれほど影響を及ぼすことは改めて再認識し考えていく必要があると感じる。ヒトラーが読み込んだ本と言われても腑に落ちてしまう。本当に禁断の本だと思う。
だからこそ「教祖になりたい」と言い始めた頭のネジが少し足りてない知人に勧めた。今後は単純化された思想を持つ集団とこの本を読み始めた知人に注目していこうと思う。



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