「仏教をもっと身近に」実家のお寺から始まった創作への道
「名刺やカードには、人となりや想いが詰まっているはず」その考えのもと、whooのご注文の中から気になった方のお仕事や考え方について、インタビューしてみることにしました。小さな紙の中にも宿る想いや美学は誰かのクリエイティビティを刺激してくれるかもしれません。今回は僧侶兼イラストレーターの小林 要子さんです。
小林 要子|浄土真宗大谷派僧侶・イラストレーター。15年から東本願寺真宗会館から発行されるフリーペーパー『サンガ』の編集員として加わる。個人の創作活動として18年秋からInstagramで主に実体験に基づくエッセイ漫画を投稿。現在は遅まきながらプロ漫画家を目指して試行錯誤を繰り返す日々。
初めての名刺は「お寺」を感じさせないデザインに
―名刺を作ったきっかけは?
私が編集員をしている仏教についての広報誌『サンガ』がリニューアルすることになり、新しいデザイナーさんを探す担当になりました。それまでは名刺を持っていなかったので、なるべく親しげのあるような、且つデザインが凝っているものを探していたところwhooに辿りつきました。
実際にたくさんのデザイナーさんに配ったのですが、見た瞬間に「かわいい」とか、「どこで作ったんですか?」と言っていただきます。
「ザ・お寺」という感じではないところが逆に新鮮だとも言っていただき、作ってよかったなと思います。
―『サンガ』について教えてください
「仏教が身近になるマガジン」がコンセプトのフリーマガジンで、奇数月に発行されています。専門用語をなるべく使わずに、仏教を親しみやすく感じてもらえるような表現を意識して制作しています。
私は4年程前から編集として関わっていて、今年の3月号は編集後記、7月号はメインページ「お寺の掲示板」を書かせて頂きました。
ライフスタイル誌のようなオシャレなフリーマガジン。
出版元は、浄土真宗の「真宗大谷派東本願寺真宗会館」となります。本山は京都の東本願寺です。真宗会館は東京の出張所みたいなものですね。浄土真宗は京都に東本願寺、西本願寺とあります。東、西に分かれた理由は歴史をかなり遡る必要がありますが、教えは殆ど同じです。
個人的にお西さん(西本願寺の愛称)の方が多少柔軟なので羨ましく見えることも(笑)。でも「柔らかさ、硬さ」どちらもあるのはいいなぁと思います。
メインページ「お寺の掲示板」。名前がいいですね。
―どこに置いてあるんですか?
首都圏だとミニストップとか、駅に置いてあるところもありますね。例えば練馬駅には大々的に置かせていただいています。
―有名な方も多く出られていますね
インタビューさせていただく方に特に決まりはないんですけど、なるべく思想的に深い方や、社会に問題提起をしている方にお願いしています。あとどちらかというと男性よりも女性で活躍している方が多いですね。読者は30〜40代の子育て世代の女性が多いということもあって。
―なぜその世代の女性が多いのでしょうか?
社会で活躍する女性は勿論、子育てや介護など女性が直面する問題を多く取り上げるようにしています。本来、問題は社会全体で考えなくてはなりません。また、その方々が少しでも心が朗らかになったり元気になったりしてくれたらという願いもあって、各コーナーの連載寄稿を医師やジャーナリストの方々にもお願いしています。
始まりは実家のお寺の広報誌
浅草近くの住宅街にある願龍寺。駅近なので通いやすいと評判だそう。
―お寺が実家ということで特別なことはありますか?
生まれた時からこの環境なのであまり意識したことはなく、特別感もなかったです。仏教についても、どちらかというとお寺の人ではなく外の友達から教えてもらうことが、すごく仏教的だなと感じることが多かったりもしますね。
最近だと、友達から私が知らなかった福祉の世界の話を教えてもらって、そのような話が『サンガ』の編集にも活かされています。お寺の人だけでは、やはり隔たりや偏りも生じます。外の人から刺激をもらうことによって、仏教についてもより深められるというか。それがすごくありがたいなと思います。
―ご実家のお寺のお仕事もされているのでしょうか?
僧籍を持っているので、法務に行ったり、行事に出たりとお寺の仕事をしていて、今もしています。職業としては僧侶になります。
―女性はあまりいないイメージでした
今は結構増えていて、女性の住職さんもいらっしゃいますね。装束や袈裟も着ます。
―その環境で、編集やデザインの勉強はされていたのでしょうか?
実はほとんど独学です。絵を描くことはもともと好きだったので、実家のお寺、願龍寺の広報誌『願龍寺通信』を作っていました。これを見た方にお声がけいただいて、『サンガ』にも加わるようになりました。
デザインクオリティが高い『願龍寺通信』。まるでアート誌のよう。最近は副住職である弟さんも制作しているとか。
―『願龍寺通信』はどのような内容なのでしょうか?
『サンガ』と同じく仏教を身近に感じられるような内容にしています。文章は住職の父が書いたりとか、読者の方の質問にお答えしたり、映画紹介など色々試行錯誤してやっています。これは願龍寺にだけに置いているので、お寺に来られるご門徒さん(檀家さん)中心に配っています。
言葉遊びやラップが好きな弟さんが名付けた「どうYOほうGO」→「どうよ?法語」と掛けているそう。
※法語:色々な問題を切り口として仏教の教えを手掛かりに捉えなおす問題提起の言葉。
―この辺はお寺が多いですよね
そうですね。近所のお寺同士で集まる会があったり、若住職とか坊守(ぼうもり)と言われるお寺の奥様方の集まりなんかもありますね。ちなみに『サンガ』の編集会議も近所のお寺で行なっています。
漫画家への夢にも挑戦
―Instagramでは漫画を描かれていますね
イラストや漫画は個人的な趣味です(笑)
時々お寺関係で頼まれてイラストを描いたりすることもありますね。もともと漫画家に憧れていて、実は遅まきながらプロの漫画家に挑戦してみようかなと思っていまして。
―それはすごいですね!どのような漫画を描きたいと考えているのでしょうか?
仏教漫画も描いてみようかなとも思ったのですが、仏教を伝えるとなると責任がすごく大きくなってしまうので…だったら身近にある出来事に少し仏教要素を入れた漫画にしてみようかなと考えています。
実際に漫画家さんに、ストーリーよりもコミックエッセイの方が向いてるんじゃないかなというアドバイスをいただいたこともあり、その方面でやりたいなと。
―どのように描いているのですか?
ipad proで描いているので、すべてデジタルですね。
実話と創作が混在していて、例えばこのあがり症のお坊さんの話は、実体験が入っています。初めての法務で人数が多いと緊張するんですよ(笑)
私自身、漫画で育ったとも言えるくらいの漫画好きで、少女漫画、少年漫画、青年誌、なんでも大好きです。最近の一押しはコナリミサトさんの「凪のお暇」と、山田参助さんの「あれよ星屑」です!
漫画の一部は印刷して丁寧にファイリングされていました。
懐が深い仏教の思想とは
―最後に、仏教ってどんな思想なのでしょうか?
仏教は、「あるがままでいいよ」という教えかなと思っています。泣きたいときは泣く、笑いたいときは笑う。私たちが不安でも、その不安ごと阿弥陀様は受け止めてくれて、「不安のまま安心してね」と絶えず阿弥陀様が私たちを案じ願って下さっているのだと思います。
漫画家の井上雄彦氏が描いた親鸞聖人の水墨画。これはミニチュアですが京都には本物の巨大な作品があるそうです。
まとめ
小林さんは私が想像していた「お寺の人」のイメージから程遠い、かなりのオープンマインドな方でした。編集されているマガジンも同様で、特に『願龍寺通信』のクオリティには驚きました。仏教をネタにした面白さのツボを捉えていながらも、内容はしっかり読ませ、考えさせられるものでした。願龍寺にしか置いていないなんてもったいない!弟さんのラップも聴いてみたいです。
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