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私が「夜の世界で孤立している女性・1万人に支援を届けるプロジェクト」を始めた理由①~「論争の時代」から「支援の時代」へ~(坂爪真吾)

2020年7月より、新型コロナウイルス感染症の影響で生活に困っている性風俗の世界で働く女性を支援するために、GAPと風テラス、二つの支援団体が共同して、一万人の女性に支援を届けることを目指すクラウドファンディングへの挑戦を開始しました。

10月5日までに、600万円のご支援を集めることを目標にしております。

⇒詳細はこちら https://readyfor.jp/projects/38162

なぜ今、性風俗の世界で働く女性への支援が必要になっているか。

そして、なぜ二つの支援団体が一緒にクラウドファンディングを行うのか。

その理由は、プロジェクトのページに記載しております。「フレフレ風俗!コロナに負けるなプロジェクト」のインタビュー記事でも、GAP広報の柳田さんが答えてくださっていますので、ぜひご覧ください。

このnote記事では、上記のプロジェクトのページには書き切れなかった個人的な思いを、つらつらと書きたいと思います。

コロナ禍のSNSで、性風俗やセックスワークをめぐる炎上が起こる理由

新型コロナの影響が強まって以降、ツイッターなどのSNS上では、性風俗やセックスワークをめぐる論争や炎上が頻繁に起こるようになっています。

「風俗に対する差別的な発言が許せない」、もしくは「風俗産業そのものが許せない」、はたまた「許せないと怒る人たちが許せない」、あるいは「許せないと怒る人たちが許せないと怒る人たちが許せない」・・・云々。

拙著新刊のタイトル通り、まさに『「許せない」がやめられない』状態です。

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私自身は、20年近く前の学生時代から風俗業界に関わっており、全国各地で数千人以上の当事者(働く女性・店長・オーナー・スタッフの皆様)と接し、風俗に関する書籍も多数刊行している身なので、SNS上で熱心に性風俗やセックスワークを論じている人たち全員を秒で論破できるだけの知識と経験はあるつもりです。

おそらく、そういった論争や炎上に積極的に参加した方が、たくさんのRTや「いいね!」、そして多くのフォロワーやPVを集められるのでしょう。自己承認欲求や自己顕示欲も満たされるのかもしれません。

しかし、私はSNS上の論争には、基本的に参加しません。

なぜならば、「ネット上でいくら論争を繰り返しても、現場で働いている人たちの権利擁護や安心・安全の確保には、一切つながらない」からです。

かれこれ20年近く、性風俗やセックスワークに関する論争を見てきましたが、こうした論争によって、生産的な何かが生まれたり、何らかの現場の課題が解決した例は、私の知る限り存在しません。

論争の中で傷つき、あるいは傷つけられ、心を病んでしまう。戦わなくてもいい相手と必死に戦ってしまい、人間関係を壊してしまう。SNSで相手から批判されたことで頭がいっぱいになってしまい、寝ても覚めても怒りが消えなくなる。そうした不幸な人が増えるだけです。

それでは、なぜこうした傷つけ合いやレッテル張り、ワラ人形叩き(=自分の頭の中だけで作り上げた存在しない敵を叩くこと)に基づく不毛な論争や罵倒合戦が延々と繰り返されるのか。

その答えは、「他にできることがなかったから」です。

ネットで誰かを叩く以外に、できることがなかった?

私が学生だった2000年代前半には、風俗で働く女性を支援する団体は、全く存在しませんでした。

・現場で働く女性に、具体的な支援を届ける。

・弁護士やソーシャルワーカーなどの専門職と連携して、待機部屋で相談会を開催する。

・現場の声やデータを集めて、白書や書籍を発行する。

・署名キャンペーンやロビイングなどのソーシャルアクションを行い、現場の声を国に届ける。

2000年代前半には、こうしたことを実践できる団体もなければ、そうした団体の活動を支える社会的なインフラもありませんでした。

誰もが当事者や業界との接点をほとんど持っていない中で、「自分は性産業の当事者(被害者)を知っている」「自分には当事者(被害者)を代弁する権利がある」と称する一部の活動家や研究者らによって、実際の現場からかけ離れた論争が延々と行われているだけ、という状態でした。

そして当時、福祉やNPOの世界においても、風俗で働く女性は、そもそも支援対象として認識されていませんでした。

「楽して稼げる仕事」「個人の自己責任」として放置される一方、リベラルやフェミニズムの世界では、「自己決定に基づき、自らの職業に誇りを持って働いているセックスワーカー」あるいは「性的搾取の被害者」という偏ったイメージだけが喧伝されて、大多数を占める「お金のため、生活のため、家族のために働いている女性たち」に焦点が当たることは、ほとんどありませんでした。

そうした現実のマジョリティに焦点を当てようとすると、一部の活動家から「セックスワーカーへのスティグマを助長する!」「セックスワーカーへの差別だ!」「印象操作だ!」と攻撃される、という状況が続いていました。

そのため、ネット上で不毛な議論やワラ人形叩きを繰り返すことだけが、当事者への「支援」「配慮」であり、セックスワーカーの権利擁護のための「ソーシャルアクション」である、と考えられていたのです。

一言で言えば、「暗黒時代」だったと思います。

2010年代以降、ようやく「支援の時代」へ

そんな中、2010年代以降になって、ようやく法人格を持った支援団体が出てきました。

私の知る限りでは、日本で最初の支援団体は、今回のプロジェクトでもご一緒させて頂いているGAPさん(一般社団法人GrowAsPeople)です。

創業者の角間惇一郎さんがGAPを立ち上げた時、私は「おおっ、やっと現場で動く支援団体が出てきた!」と非常に感動したことを覚えています。

特定のイデオロギーの中にしか存在しない「セックスワーカー」ではなく、現場で働いている「キャストさん」を支援する。

風俗店側と敵対するのではなく、お互いにメリットのある関係性を作る。

「セックスワーカーへのスティグマの解消」という抽象的な課題ではなく、現場で働くキャストさんが一番困っている「風俗を卒業した後のセカンドキャリア」という具体的な課題に焦点を当て、その解決に取り組む。

大切なのは、イデオロギー闘争ではなく、課題解決の仕組みをデザインすること。

「必要なのは、ネット上での観念的な論争や当事者の代弁合戦ではなく、現場で働く人たちに対する具体的な支援(課題解決の仕組みの構築)である」とずっと考えていた私は、GAPさんの登場に衝撃と感銘を受けました。

現場で働いている女性は、そもそも「スティグマ」や「セックスワーカー」といった言葉自体を知らない人がほとんどです。

支援団体の仕事は、「現場の当事者が使っていない言葉を使って当事者を代弁し、自分たちの政治闘争の道具にすること」ではなく、「現場で当事者が使っている言葉を使って、当事者のニーズに寄り添った支援を行うこと」です。

大げさな表現かもしれませんが、暗黒時代に一条の光明が差した瞬間だったと思います。

GAPさんの活動に触発されて、私も2015年に風テラスを立ち上げました。

過去の暗黒時代に戻らないために

かつての障害者運動・女性運動・LGBT運動がそうであったように、社会的に光があたりづらく、支援団体にもお金が回りづらいマイノリティの領域は、偏ったイデオロギーに支配された左翼活動家の巣窟になりがちです。

最近のツイッターを見ればお分かりの通り、当事者を恣意的に代弁して、自分たちの政治闘争(左翼活動家同士の内ゲバ)の道具に使うといった振る舞いが跋扈してしまう。

性風俗の世界も、この10年間で、ようやく暗黒時代=「論争の時代」が終わり、「支援の時代」になってきました。

コロナ禍の中で、現場の声を署名キャンペーンやロビイングを通して国に届けたり、多くの女性に福祉的・法律的支援や食糧支援を届けることができたのも、(手前味噌ですが)私たち支援団体の存在があったからです。

支援団体が現場の声を国に届け、政策を動かすことができれば、業界の労働環境の改善や、働く人たちの権利擁護に寄与することができる。

2020年現在、性風俗業界には、政策提言のできる業界団体や当事者団体が存在しません。

当事者が声を上げても過度のリスクに晒されない環境になれば、性風俗業界にも業界団体や当事者団体が作られるようになり、第3のステージ=「当事者の時代」へと進むことができる。それによって、夜の世界が社会と適切な形でつながることができるようになるはずです。

ただ、「支援の時代」に入ったとはいえ、まだまだ各団体の組織体制や財政基盤は不十分です。

一歩間違えると、また以前の暗黒時代=現場での具体的な支援やソーシャルアクションを何もせずに、ネット上の誹謗中傷や罵倒合戦に終始するだけの「論争の時代」に戻ってしまうリスクは、依然として残っています。

実際の現場ではなく、SNS上で不毛な論争や罵倒合戦を繰り返すことが、セックスワーカーの権利を守るための「ソーシャルアクション」であり、「支援」であり、「正義」でもある、という見当違いの考えを持った人が量産されてしまいます。

「論争の時代」を終わらせ、「支援の時代」へと完全に移行するため、そしてその先の「当事者の時代」を実現するために、支援団体にきちんとお金が回る仕組みを作りたい。

そのための第一歩として、今回のプロジェクトを成功させたい、と考えています。

次回に続きます。


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