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【1万字レポート】セックスワークサミット2020オンライン『新型コロナと夜の世界3 ~風テラス相談員が語る、コロナ禍の相談現場のリアル~』(9月30日)

2020年9月30日(水)、セックスワークサミット2020オンライン『新型コロナと夜の世界3 ~風テラス相談員が語る、コロナ禍の相談現場のリアル~』を開催いたしました。全国各地から、合計67名の方より参加申し込みを頂きました!

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2020年1月から9月まで、風テラスでは2,400名を超える女性の相談を受けてきました。

3月の一斉休校、4月の緊急事態宣言、5月の宣言解除、7月以降の第二波の到来と、刻々と移り変わる情勢の中で、風テラスに寄せられる相談内容も変化していきました。

殺到する相談に対して、どのように対応したか。課題や反省点は何か。そしてこれからも続くコロナ禍の中で、風俗で働く女性たちの抱える悩みや不安に対して、どのように寄り添っていくべきか。風テラスの相談員が一堂に介して、コロナ禍の相談現場のリアルを語り合いました。

◆登壇者紹介◆

<東京風テラス>

弁護士 徳田玲亜さん

弁護士 三上早紀さん

弁護士 坪内清久さん

ソーシャルワーカー 橋本久美子さん

ソーシャルワーカー 佐藤香奈子さん

ソーシャルワーカー 木下大生さん

<名古屋風テラス>

弁護士・社会福祉士 鈴木愛子さん

<新潟風テラス>

ソーシャルワーカー 小田恵さん

風テラス発起人 坂爪真吾

1.【傾向と変化】コロナ禍における相談内容の変遷

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坂爪 緊急事態宣言が出された4月は、1か月で800件を超える相談が風テラスに寄せられました。昨年1年分の相談件数が1か月で一気に来たという状況でした。

三上弁護士&佐藤SW 4月の緊急事態宣言の最中は、「生きるか死ぬか」というレベルの切羽詰まった相談が多く、毎日無我夢中で相談を受け付けていた。最近は件数もそれなりに落ち着き、コロナ前の相談内容=店舗トラブルや借金、ネットの誹謗中傷などに戻っている感はありますが、都内を中心に感染者数が増え続ける中で、コロナの影響はまだまだ続いていると感じています。

Q:切羽詰まった状態で、誰にも相談できない中、勇気を出して相談してくださった方に対する相談対応で、注意していた点は?

佐藤SW 「生きていてほしい」というメッセージを伝えること。まずは「電話してくださってありがとうございました」「つながって良かったです」ということを伝えた上で、「死んでほしくない」「どうにかして、この状況を一緒に乗り越えたいんです」というメッセージを送り続けました。

三上弁護士 涙ボロボロで相談してくる人も多い。そこに寄り添って「あなたにこれからも生きていてほしい」という声掛けを佐藤SWがしてくれました。そこのスキルは、弁護士には足りない。不安で疲れ切った状態で相談してこられる方に対して、「生活保護を申請してください」と答えるだけだと、電話を切った後に、また「これからどうすればいのか」と考えなくてはならなくなる。そうではなくて、こちらでお住まいの区役所を調べて、福祉事務所の連絡先をLINEで伝えて、「ここをタップすれば開くから、この相談が終わったら、すぐそちらに行ってください」と伝える。電話を切った後にすぐ行動できる=ワンステップで次につながるような情報提供を心掛けていました。本当はお互いに顔出しで相談したかったのですが、ビデオ通話には抵抗がある方が多く、通話のみの相談がメインになりました。

Q:殺到する相談に対して、弁護士とソーシャルワーカーとチームで相談を受けたことの意義は?

佐藤SW 弁護士は、制度の法的な裏付けや根拠の解説をズバッと言える。それによって、相談者の方が納得をされる。SWは制度自体の紹介はできるけれども、それがどういう法的な位置づけや根拠があるのかまでは、なかなか言えない。

相談の最中は、「ソーシャルワーカーとしてできることは何なのか」を必死になって考えて対応をしていたのですが、弁護士やソーシャルワーカーという職種の枠を超えて、人間として一緒に相談を受けることが重要だと感じました。SWが抽象的な説明をして、その後に弁護士が具体的な説明をする。SWの視点と弁護士の視点から、一緒にメッセージを送る。二人で相談を受けることで、相談者の方に「生きていてほしい」というメッセージを、二倍増で伝えて、勇気づけたい。自分一人では、コロナ禍の相談が殺到する状況を乗り切れなかった。チームで相談を受けることで、相談者の方だけではなく、自分自身も乗り切ることができたと思います。

三上弁護士 相談の中で、弁護士の目線では全然気づかなかったところをSWが気付いて聞いてくれることがある。それが、本人の主訴ではないのだけれど、実は本当に解決しなければならない根本課題に近いものだったりすることがありました。

弁護士は本人から聞かれたことをそのまま答える、という形になりがちなのですが、SWは「なぜその質問が出てくるのか」というところを掘り下げて、「最近眠れていますか?」「病院、ちゃんと行けてますか?」といった問いかけをしてくださるのがすごく印象的でした。

弁護士は、債務整理の説明はいくらでもするけれど、「ところで、最近眠れていますか?」といった問いかけをすることは、意識しないとなかなか難しい。弁護士からは出にくいような問いかけを、SWと一緒に相談を受けることで補ってもらえるし、逆に私もSWの回答を聞いて、そういう制度もあるんだと勉強になりました。

4月の緊急事態宣言の時の相談は、相談をされる側ももちろん辛いと思うのですが、相談を受ける側も辛い。「死にたいです」「辛いです」という相談を毎日全力で受け止めてしまうと、こちらにも相当の負荷がかかってくる。一人で相談を受けていると、そうした負荷をため込んでしまい、場合によっては精神的に崩れてしまう。二人で受けることで、「さっきの相談、大変だったね」と意見を交換し合うなど、お互いを支え合うことができる。メンタルの保持もできたのかなと思います。

2.【現場で感じたこと】コロナ禍の相談で印象に残っている出来事

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緊急事態宣言以降、風テラスでは生活保護の申請手続きを解説したマンガを制作してツイッターで拡散したり、ホームページでコロナ関連の支援や給付金の情報をまとめて公開したり、YouTubeで情報発信するなど、様々なアクションを行いました。こうしたアクションも含めて、コロナ禍の相談で印象に残っている出来事を、相談員一人一人が語りました。

徳田弁護士 コロナは一つのきっかけにすぎなかったと思います。会社勤めをしている人であれば、一日仕事を休んだとしても、いきなり「食べるものを買うお金がない」という状況になることは、基本的にあり得ない。風俗で働く人たちにとって、仕事の面でもお金の面でも、これまでなんとなくやってきたことが、コロナの影響で全てうまく回らなくなった。現金日払いの風俗の世界で働いている人たちの課題が浮き彫りになったと思います。

一方で、「緊急事態宣言が解除されれば、お店の営業が再開されて、お客さんが戻ってくる」という希望的観測を持っている人も多いと感じました。もちろん現実には、そんなにすぐには戻ってこない。目先のことしか考えられなくなってしまう=視野が短期的になってしまう背景にも、ご本人の抱える問題があるのかなと。コロナをきっかけに、これまでの仕事を見つめ直して、今後の人生を変えていかなければ、と思う方もおられました。

坪内弁護士 風テラスでは、ネットの名誉棄損やプライバシー侵害のご相談に特化して担当しています。お店でコロナが発生して炎上したり、お客さんから罵倒を受けた、コロナ中にも自粛せずに営業していたお店へのバッシング・・・など、コロナに関連する人権侵害も問題になっています。

相談を受けていて感じることは、お金に対するリテラシーが十分でない人が多いということです。月々の収支を管理することができない人も少なくないので、家計管理など、お金に関する知識を学ぶ場が必要だと思います。

ただ弁護士として限界を感じるのは、「どうすればお金をもっと増やせるのか」というご相談には答えることが難しい、ということです。生活保護などの制度の紹介ではなく、ファイナンスの知識が必要になる。一筋縄ではいかないので、アドバイスをしにくいと感じています。

橋本SW コロナでショックだったのは、お店の待機部屋に行っても、女の子がいなかったこと。みんなホテルのロビーなどに行ってしまった。これまでは、待機部屋に行くことが、女の子たちとの唯一のつながりでした。

ただ、オンライン相談によって、相談の幅は広がりました。対面を避ける中で、広がりが生まれたことは確かだと思います。緊急小口資金や住居確保給付金など、彼女たちに対して、「風俗で働いていても、コロナで困っているみんなと一緒に、利用できるんだよ」というメッセージを届けることにつながった。

鈴木弁護士 名古屋では債務整理の相談が圧倒的に多く、受任にもつながっています。元々家計がいびつだったり、収入が乱高下している人が多い。風俗の仕事は、収入が大きい日もあれば、全く稼げないお茶の日もある。

支出に対する感覚が変わっていたり、経費という言い訳で美容にお金をつぎ込んでしまったり・・・という方もいます。「特に何かに使っている記憶はないのだけれども、いつの間にかお金が無くなってしまう」という人に対しては、「でも、何もしていないのにお金が無くなることはないよね」「どういうものを買っていますか?」と、なぜお金が足りなくなるのかを整理しながら、自己破産の申し立ての準備をしています。

風俗の仕事は個人事業主なので、破産の手続きに必要な収入資料がもらえないこともあります。資料があっても、そのままでは、本人に聞かないとどういうふうに見たらいいのか分からないこともあります。そのため、管財人を付けないで済む同時廃止の手続きに乗りにくい。個人事業主の時点で管財事件になってしまう可能性が高いので、その点も含めてお金を貯めて行かないといけない。

破産手続きという強制力のある中で収支のことを考えていくので、この機会にお金の貯め方も一緒に考えていきましょう、と提案します。弁護士費用の分割払いも、最初の話し合いである程度調整するのですが、収入が乱高下していたり、ご本人の性格などもあるので、柔軟に、ちょっとずつ、短いスパンで収入と支出を考えてもらったりしています。

木下SW 今回のコロナ禍の中で、風俗で働いている女性達は、社会的に弱い立場にあると改めて感じました。あくまでも私がコロナ禍の前と後でご相談を受けてきた方に限定しますが、やはり、たくさんの選択肢がある中で風俗の仕事を選んだ、という人はいない。ほとんどの人は、他に選択肢がない状況=やむにやまれぬ事情があり、社会保険や福祉にアプローチできない状況で、この仕事を始めている。入口の時点では躊躇を感じる人が多いが、始めた後に、短時間で高収入を得られるので、「悪い仕事ではなかった」と感じる人も多い。

また税金を納めるメリットを知らない人も多いです。皆さん、「税金を納めるメリットを教わっておきたかった・・・」と口をそろえておっしゃる。今回のコロナ禍で、税金を申告していないと有事に不利になる、ということを痛感した人も多かったと思います。状況が落ち着いたら、税金の申告について、キャストの方向けのセミナーを開くことも有効だと思いました。

また毎月の収支をきちんと把握している人も少ないので、これに関しても、税金と並行して、収支を把握することが生活を守ることにつながる、と伝えていきたい。

コロナ禍の前は、風俗に対する職業差別=行政や福祉が風俗で働く女性を受け付けないケースがかなりあった。生活保護の同行申請でも、「風俗の仕事をしている人は生活保護を受けられません」と平気で言うような役所もあった。

ただ今回のコロナ禍では、風俗の仕事をしていることを隠さなくても、かなりの人が福祉的支援を受けられている。私の持っているケースの母数が少ないだけかもしれませんが、今回のコロナ禍で、風俗で働いている人たちにも権利が認められるような流れが広まっているのでは、と感じています。

3.【専門職の視点から】相談対応の課題と反省、今後の目標

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三上弁護士 制度を紹介すると、10人中9人から、「それって、風俗で働いているということを言っても大丈夫ですか?」と尋ねられる。

普段の法律相談で、会社員の方から「今の仕事のことを言ってもいいですか?」と聞かれることはまずない。こういう質問が出てくるということは、「風俗で働いていることを言ったら、制度を利用できないのでは」「自分は差別される側の人間だ」という思いを持っておられるということ。差別の内面化が原因です。

今後の課題は、そうした不安にいかに寄り添えるか、という点にあると思います。あとは税金。持続化給付金の申請をできるとお伝えしても、確定申告をしていない場合は、申請ができない。税金については、何も言われてこなかったし、誰も教えてくれなかった。意図的に脱税をして収入を隠しているような人はほとんどいなくて、本当に学ぶ機会がなく、なんとなくで今まで来てしまった・・・という方が多い。その結果、公的支援を迅速に受けられない。確定申告の制度や税金の仕組みを学べる場所をどこかで作っていきたい。

佐藤SW ご相談の窓口につながったことが、まず重要。「まずつながりたい」というメッセージを、こちらがどれだけ発信できるか。なかなかつながれない方に対して、「どんなことでもいいから、まずはつながってほしい」というメッセージをどれだけ送れるか。つながったことで、ご自身の課題に興味を持ってもらうきっかけになる。潜在化している生活課題がある中、お話を聞いていく中で、ご本人の本当のニーズが見えることもありますが、継続してご相談を受けて行かないと、なかなかそこまでたどり着かない。

相談を受けた後にどうなったのか、を知りたい。欲張りかもしれないけれども、つながるだけではなくて、継続してご相談をお受けすることができればと思います。

問題解決の糸口は見えた。でも見えたからといって、すぐに取り掛かるわけではない。時間をおいてから、というケースもある。問題に向き合うのはしんどかったけど、やっと向き合えた。そのタイミングで「今から一緒に取り組みませんか」というメッセージを送れるような支援者になりたいです。

坂爪 LINE相談はドタキャンが多い。ドタキャンの理由として、「相談するのが怖い」と語る人がいる。問題に囲まれて生活することが普通になってしまって、そこから変わること=問題のない世界に移行することが怖い、という思いがあるのでは。

そうした人に支援を届けるためにも、まずつながり続けることは重要。相談者の方からメールやLINEで報告やお礼が来ることもあるので、そこから薄く、細くでもつながりを作れればと思います。

徳田弁護士 この半年を振り返っての反省点としては、緊急小口資金をたくさんの方に案内してきたけれど、本当にそれで良かったのか・・・という思いがあります。緊急小口資金については、申請方法が分からない人や、そもそも自分が申請できるのか不安な方が多かったので、風テラスとして、申請方法についての情報発信を行いました。

ただ、緊急小口資金は借金です。適切な言い方ではないかもしれませんが、私たちは借金を勧めたことになるわけです。本当に生活を再建できるのかどうかが見えない中で借金を勧めて、結果自己破産することになりました、と言われた時に、本当にあれでよかったのかな・・・と。

私が後悔することではないのかもしれません。あの時期に、生活に困っている人を少しでも助けられる手段として、できる限りのことをしたつもりではあるのですが、もっと先を見据えて相談に乗らなければいけないのでは、とも感じました。

また税金や確定申告の問題については、風テラスの相談を5年間受けてきて、たくさん耳にする機会があったのだけれども、ご本人がそこで悩んでいないので、あえて掘り下げなかった。

でも、風テラスとして働く人たちを支える上で、「税金の申告はきちんとしていくべきですよ」と声をかけていれば、こういう事態になった時に、その人たちも胸を張って役所に行けたはず、と考えると、悔しいなと思います。

コロナ禍で、風俗で働く女性の相談を受けた窓口は、数で言えば風テラスが一番多かったと思います。私たちはその立場を自覚して、これからの相談体制を築いていかないといけないなと思いました。

坂爪 短期的に見てベストなアドバイスが、長期的に見るとベストではない、ということは多い。緊急事態宣言中に相談が殺到した際、自分も各地域の生活困窮者自立支援窓口を紹介したが、生困は地域によって対応がかなりバラバラなので、一概に紹介しづらい。でも、紹介するしかない。

そもそも風俗で働いている人たちは、何らかの理由で行政や福祉と繋がらなかった・繋がれなかった人たちであることが多い。繋がりたくない・繋がりづらい人たちに対して、とにかくもう一度繋がれ、というのも乱暴な話だな・・・と、調整しながらチクチク感じていました。長いスパンで支援をしていけるような体制が必要だと思います。

坪内弁護士 コロナの影響でオンライン相談が増えた一方、対面でしか分からないものがある。顔が見えない中で、それらをとりこぼさないようにするためにはどうすればいいか。相談を受ける弁護士も変わらざるを得ないと思います。

コロナによって、風俗で働く人たちが元々抱えていた問題が顕在化したのであれば、そこにアプローチしていかなければいけない。解決手段を伝えるだけでなく、ティーチングではなくコーチング、本人に解決する力を身につけてもらうための試みが必要になってくるのではと思います。

橋本SW 大切なのは、つながりとエンパワーメント。風テラスはデリヘルの待機部屋に行くアウトリーチが特徴だったので、早くお顔が見たいな、待機部屋に行きたいな、と思っています。

私はSWとして長年女性支援に関わっていますが、最初は相談すること自体が怖いと感じている女性も多い。それでも「相談することで、一歩踏み出せた」「人と関わっている、という感覚が得られた」「誰かに聞いてもらえると、乗り切れる」と言ってくれる女性もいる。

風俗で働く女性たちが行政や福祉の制度を利用することは、彼女たちの存在や、彼女たちの抱える課題を表に出すことにつながります。同じように生活に困窮している人はたくさんいるのに、風俗で働く人たちだけが権利を侵害されるようなことはあってはならない。

坂爪 LINEやツイッターの文章だけでは伝わらない人、そもそも文章が満足に読めない・理解できない人もいる。そうした人たちのためにも、対面相談を早く再開したい。

鈴木弁護士 名古屋の風テラスでは、名古屋市の生活困窮者自立支援事業と連携していまして、事務所に同センターのカードを置いてあります。窓口に相談することに抵抗を感じている人に対して、「市から委託を受けている団体の人が大丈夫だよと言っているので、大丈夫です」「私も会ったことのある方だから、大丈夫ですよ」と伝えると、相談へのハードルを下げる効果がある。

地域でネットワークを作れば、相談者の方が複数の窓口で同じことを何度も話さなくても、事前に伝えてもらえるようになる。そういう連携を拡げていきたい。『福祉的アプローチで取り組む弁護士実務―依頼者のための債務整理と生活再建―』(第一法規) にも書いたのですが、弁護士は債務整理をするだけならばできるが、家計管理ができない原因のケアまですることができる人はまだまだ少ない。ただ債務整理をするだけでは、結果的にその人の人生の課題は解決できないこともある。福祉的アプローチについては、自分ももっと早く知っておきたかった、と感じている。対応できる弁護士を増やしていきたい。

坂爪 風テラスの相談で実感することは、法律相談に来られる人の悩みや課題は、法律相談だけでは解決しない、ということ。ソーシャルワーカーマインドを持った弁護士が増えてほしい。

小田SW コロナによって今まであった課題や困窮予備軍の方が浮き彫りになった一方で、良い変化もある。今回のサミットも、皆さんご自宅から参加できるようになったり、行政もオンライン化が進んだと思います。窓口に行くことが難しい人にとっては、相談のハードルが下がった。

ただ、生活保護をネットから申請する、ということはまだできません。窓口に行かなければいけない手続きに関しては、いくら相談員がオンラインで情報提供しても、ご本人が窓口までたどり着けるかが問題。こちらでもご希望があれば窓口まで同行しますが、情報提供だけをした方が、実際に窓口まで行けたかどうか・・・は疑問。たどり着けていない可能性が高い。

制度のハードルが下がったことで、多くの人が住居確保給付金などの対象になりましたが、本来であればハードルの高い制度です。納税を含めて、行政のサービスが受けられるように、どれだけ風俗の世界で働く女性たちが制度に近づいていけるか。私たちの方でも、働く女性のために、一歩踏み込んだ情報提供や研修ができればと思います。

4.【現場からの提言】夜の世界で働く人たち、そして社会に対する提言

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三上弁護士 風テラスの相談は、「明確な問いを持った人たちに対して、回答を与える仕事」と思い込んでいたのですが、コロナ禍の相談を受けてみて、自分でも混乱しすぎて、何が解決するために必要なのか、何が課題なのかそもそも分からない、苦しい、という方が多かったです。

そうした中で、なんとか風テラスにつながり、苦しい気持ちを聴いてほしい、という相談がいくつかあった。そうした相談に対しては、私も従前はどうしたらいいんだろう、本人も何が聞きたいのか分からないし、こちらも何を回答したらいいのか分からない・・・と思っていました。

一緒に相談を受けているSWの姿勢を見て学んだのですが、本人の中でも、話すことによって、誰かに聞いてもらうことで解決していく部分がある。それが明確な問いではなくても、顔が見えなくても、声だけでも、話し合ったことで、なんとなく明日もまた生きていく気力が得られた、ということをおっしゃってくださる方もおられました。

明確な問いや知りたいことがなくても、辛いと思ったら、その気持ちをぶつけてもらえるだけでも、お互いがつながって、明日を生きる力になるんだなぁと思いました。そういった形で、フラットかつ気軽に相談してもらえればと。「相談」という言葉が重いかもしれませんが。

自己責任で生きづらい社会かもしれませんが、風テラスは、確実に安全で、何を言っても怒られず、受け入れてもらえるという場所であり続けたいなと思っています。

坂爪 コロナ禍においては、相談は無力だなと思う時もあれば、相談の持っている力の凄さを感じる時もありました。相談の力を信じていきたいですね。

橋本SW 風俗で働いている子は、当たり前だけど、生身の人間。長年女性支援をしてきた私のような人間にとっては、風俗で働く女性に会うことは珍しくもないし、言われても驚かないけれど、彼女たちにとって「風俗をしている」ということと「稼げなくなった」ということを誰かに話すことは、すごく勇気のいることだと思います。話すことが怖い。でも、風俗の仕事をしていることを隠さずに話せるのが風テラス。

オンラインというツールで続けることができたのは良かった。こうした形で、相談現場の状況を皆さんにシェアすることができた。彼女たちの生活課題や、もっと深いところに踏み込めないもどかしさなどを語ることのできる土壌ができたのも、風テラスがあったからだと思います。

坪内弁護士 コロナ禍で時間の空いている時に、『龍が如く7』をやった。テーマに社会問題も入っており、グレーゾーンを排除しようとする敵と闘うという設定。グレ―ゾーンだろうと何だろうと、そこで働く人もいれば、そこでしか暮らせない理由のある人もいる。風俗だからこそ受け皿になれているところもある。本人が望む・望まないは置いておいて、居場所として必要があるのであれば、支援の担い手として頑張っていきたい。ただ働く人がトラブルに巻き込まれやすいのは事実なので、未然に防ぐためにも、チャンネルは開き続けて、日々の相談に応じながら、共存や融和の方法を考えていくべきだと思います。

鈴木弁護士 改めて思ったのは、風俗で働くことを肯定も否定もしない、変な持ち上げ方もしないことの大切さ。客観的な事実としての大変な部分の問題解決に焦点を当てて、収入の乱高下も含めて、フラットに困りごとを相談できるようにしなければいけない。

性に関しては、自分自身の感情を意識して横に置かないと、相談者の方に伝わってしまう。性が絡むと、自分の性愛の価値観をむき出しにしてしまう福祉関係者も少なくない。性に関するテーマになると、スイッチが入って暴走してしまう人も。気持ちは分かるけれど、そこをきちんと自覚していかないと、その支援者の価値観に合う人しか相談に行かなくなってしまい、問題の解決は遠くなる。

性愛に関する自分の価値観をいったん脇に置いて、ソーシャルワークの言葉を使えば「統制された情緒的関与」を基にして支援する必要がある。

佐藤SW 風俗で働いている方々は、一日を紡いで生活をなさっていて、生きることを諦めないで、どうにか生活しようと必死になっている。そうした人たちが国内で一定数いらっしゃるということを、私たちはきちんと受け止めないといけないと思います。

ご相談の中では、一歩踏み外すと生死に関わるギリギリの状態で、ご相談に来られる方もおられます。誰にも相談できず、死のうと思ったけど、その前に相談しました、という方もおられました。

そういった中で、風テラスの窓口がいかに大切かを改めて実感しました。この風テラスの相談会を、1日でも、1回でも多く開催できるような仕組みづくりを、坂爪さん、検討して頂ければと思います!

徳田弁護士 令和は個の時代と言われていますが、意識的に孤立化しないことが大事だと思います。コロナの影響もあり、今後は売れる人と売れない人がさらに分かれていくと思います。指名客がしっかりついている方は、売上も回復されている。一方で、そうではない人もいる。

今は、ネット上で良くも悪くも人と繋がることができるようになった時代です。一つの風俗店に所属していれば、他の女性はライバルだし、女の子同士で話すことはない。ただ、地方の風俗嬢同士がつながることはありえるし、自分と同じ悩みを持っている人同士で悩みを共有できることもある。

コロナ禍の中で、私たち相談員もパンクしていた状態で、全ての相談は受けきれなかった。そうした中で、相談には来れないけれども、風テラスのツイッターを見て頂ければ、最低限の情報は得られる、という形になったらいいなと思って、情報発信のチラシを作って、ツイッターでアップするということも行いました。

でもその前段階では、私たち相談員も、日々変わっていく行政の給付金情報に翻弄されていた。風俗で働く一人一人の女性が正確な情報をつかめるか、と言えば難しい。

風テラスという存在を知っていれば、必要な情報は得られる、という形にしていきたい。自分から意識的に同業の人と繋がっておく、相談先を普段から知っておくという姿勢が、今後すごく生きてくると思います。

坂爪 同業の女性とほぼ会ったことがない、という人は少なくない。そこで孤立や情報遮断が生まれてしまう。そういった女性が、緩い感じでつながることのできるネットワークやコミュニティがあれば、相談につながるし、必要な情報も届く。アフターコロナの世界では、風テラスでもそうしたネットワークやコミュニティを作っていきたいと考えています。

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あっという間の120分間でした。ご参加くださった皆様、相談員の皆様、ありがとうございました!

クラウドファンディング「夜の世界で孤立している女性・1万人に支援を届けるプロジェクト」、挑戦期間も残り僅かになりました(10月5日23時まで)。

本記事を読んで「風テラスの活動を応援したい」「プロジェクトの仲間に加わりたい」と思われた方は、ぜひご支援を頂けると嬉しいです!貴方の温かいご支援、お待ちしております。

今回のイベントを含め、2020年の風テラスの活動は、『性風俗サバイバル 夜の世界の緊急事態』(ちくま新書)に掲載しております。ぜひご覧ください!

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