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キラキラ

「あいうえおnote」の「き」は「キラキラ」。

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「ヨーコって、いっつもキラキラしてるよね」

大学2年のある日の午後、語学授業の教室に入ったとたん
水泳部のミチコに、私はこう言われた。

ギョッとした。
この私が?
しかも、ミチコに?

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ミチコは、肩上ギリギリに綺麗に切りそろえられた
ワンレンの自然な栗毛色をした髪の毛をもつ、
とてもお洒落な女の子だった。
本人は自分の身長の低さを嫌っていたけれど、
私からすれば、それはミチコにとても似合った身長で、
当時流行っていたトラッド系のシンプルな服装に
いい感じの小物を合わせたその姿は、とてもチャーミングで、
私の密かなるお手本でもあった。

午前の部活を終えた後だったろうミチコは、
まだ濡れた髪の毛をしたまま、机の上にぐたりと突っ伏し
私が彼女の机の横を過ぎ去るときに、目だけを上げて、
気だるそうに言ったのだ。

「ヨーコって、ホントいつも元気でキラキラだよね。
 楽しいことばっかなんだね、きっと」

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そうね、確かに私は大学が楽しかった。

私の通った大学では、法学部や経済学部の同級生たちは、
適当に講義をサボりつつ、
ヤッホ~自由だぜ、のバラ色大学生活を男女ともに満喫していた。

そんな中、私の属していた学部、学科は、
必修科目は高校のひとクラスに満たない程度の人数で、
毎回出席を取る授業。
それ以外の、選択授業も
いくつかの興味皆無、単位取るだけの授業以外には、
私はほぼいつも出席していた。

そんな、普通だったら、面白くもないだろう毎日でも
私は楽しかった。

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そんなに勉強好きだったの?
いや、それほどでは。
毎日、毎日、授業ばっかりでいやにならなかったの?
ううん、楽しかった。
めちゃ、楽しかった。

朝、校門くぐって、体育館の脇を通って、
テニスコートの横を歩くころには背筋が伸びて、
歩くステップだって軽くなって、
学食を通りこして、目的の校舎を目指すときには、
あ~~、ここが私の場所だぁ~って溌剌としたよ。

卒業するまで、
4年間、目いっぱい授業のコマ取って、教職もとったよ。
卒論なんて、持てる全ての力を果たすために、
学部の図書室に閉じこもっていたよ。
それほど大学にいるのがよかったよ。

いや、そんなこと言ったら、
幼稚園も、小学校も、中学校も、高校も。

小学生時代、結構キワドクいじめられたこともあったけれど、
それでもちっともへこたれなかった。
学校行きたくない、なんて、全く思わなかった。

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ごめん、ここまでキー打ったら
不覚にも、目に汗かいてきちゃったよ。

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私ね、家から出て、正々堂々と、公明正大に、何のお咎めもなく、
外の世界にいられるのは、学校だけだったの。

家にいるよりは、どんなに苦しいことが学校であったとしても、
ずっとずっと楽。

私は、ながいながいながい間「鳥かごのなかの鳥」だったから、
かごの扉を開けてもらえるのは、
学校に行くときだけだったから、
ただそれだけで、嬉しくて仕方なかったのよ。

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反抗?
しようとしたよ、時々は。
でもさ、しても何の効果もないし、何も変わらない。
ただ、私が背負い込む負担が倍増するだけなんだ。

だから、自分を守るために、尖らないことにした。
早々に諦めた。
中学に上がる前に。

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残念ながら、高校1年の夏には、体調崩しちゃったんだ。
殆ど、食べられなくなった。
だから、大好きだった運動も、思い通りにはできなくなった。
家に帰りたくないけれど、帰宅部でね。
最終授業の終わりの鐘が鳴ると、
みんな、一目散にそれぞれの属する世界に飛んでいくのよ。
気が付くと、教室には数名しか残ってなくて。
その子たちも、いつの間にかいなくなって。

私は、少しでも長く学校にいたくて、
帰宅時間を気にしつつも、ギリギリまで、
誰もいない廊下から、校庭で硬式テニスをしている同級生を見下ろしてた。
ただ、それだけの光景だけれども、目に焼き付いているよ。

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そんなだった私が、大学で、ミチコに
「キラキラしてる」って言われたときは、それはそれは驚いた。
「え? まさか~」
なんてテレ隠しした。

でもね、今ならわかる。
きっと、私は本当に「キラキラ」輝いていたんだ。

大学に来られること。
授業を受けられること。
学食でランチできること。
クラスで級友とともにいられること。
それが嬉しくて、教室入ったとたん、ニコニコmaxだったんだ。

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あれから、たぶん38年。
「鳥かごのなかの鳥」が本当に飛び立てたのは5年前。

私が心から信頼しているカウンセリングの先生が仰ったとおり、
私は、恐らく強すぎた。
最後の最後まで、頑張りすぎて、崩れた。
でも先生は、こうも仰った。
「あなたは、本当の愛が何かを知っている」とも。

やっと、ようやく、今、それに自分でも気づけたよ。
本当の愛を知ったよ。わかったよ。

だから、あなたと一緒にいる今の私は、
本当の「キラキラ」だよ。

もし今ミチコに会ったら、彼女はきっと言うよ。
「ヨーコ、あの頃より、もっとキラキラしてるね!」って。

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これは私から、夫への love letter です。
失礼いたしました。てへっ。

     ・・・・・ end ・・・・・

タイトル画像:夫が見たいと言った、箱根戦場ヶ原のススキと太陽

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