マガジンのカバー画像

フィンガー シークレット

13
連続小説です。
運営しているクリエイター

#39

フィンガー シークレット «chapter 10»

「お父さん、お母さん」 響子の爆弾投下が始まる。 父と母は、響子を見た。響子は躊躇なく続ける。 「私、結婚することにしたわ。お相手は、会社の人。歳はお姉ちゃんと同じで、今年29歳。名前は、近藤繁。そう、お父さんの会社の常務さんの息子よ」 父の「えっ」という声。 「近藤さんのところは、男3人兄弟でね、繁は歳の離れた三男で、家に縛られる必要は全くないの。だから、うちの婿養子になっても全然かまわないそうよ。あちらのお父さんも、栗原君のところなら問題ないって仰ってたし。別にこ

フィンガー シークレット «chapter 11»

4月、律子は週末に新幹線に乗った。降りたのは、秋田駅。まだ雪が隅に残る駅前のロータリからバスに乗る。向かう先は、星が丘という停留所。 ハルから、その名を聞いた時の記憶は今だ鮮明だ。律子はその美しい響きから、物語の中の地名のように感じた。 「本当にあるのさ。だって俺が育った町だから」 ハルは言った。 星が丘。ハルは、その町で多くの時間を過ごした。楽しいこと、嬉しいこと、苦しいこと、悲しいこと、多くを経験し吸収した。そこにハルの原点がある。律子はいつか行ってみたいと思った。

フィンガー シークレット «Last・chapter 12»

ハル。 あなたのいない春の季節を幾度か繰り返し、ようやく私は、この街に来ることができました。 随分と時間がかかってしまいましたね。 今、私が吸っているこの空気は、あなたが今吸っている空気ときっと一緒。 そう確信できます。 あの公園の緑を遠くに見た瞬間、遠い記憶の中にいたあなたが、すぐ近くに蘇りました。 そして、あなたの手の温もりも。 あの頃、あの木々の間を、あなたは私と歩いてくれると言った。 私を守って、ともに歩んでいこうと言ってくれた。 あなたの覚悟は本気だった。 で