フィンガー シークレット «chapter 11»
4月、律子は週末に新幹線に乗った。降りたのは、秋田駅。まだ雪が隅に残る駅前のロータリからバスに乗る。向かう先は、星が丘という停留所。
ハルから、その名を聞いた時の記憶は今だ鮮明だ。律子はその美しい響きから、物語の中の地名のように感じた。
「本当にあるのさ。だって俺が育った町だから」
ハルは言った。
星が丘。ハルは、その町で多くの時間を過ごした。楽しいこと、嬉しいこと、苦しいこと、悲しいこと、多くを経験し吸収した。そこにハルの原点がある。律子はいつか行ってみたいと思った。