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ピリカ☆ルーキー賞 応募作品

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ピリカ☆グランプリのルーキー賞部門投稿作品です。 ルーキー賞については、https://note.com/saori0717/n/n6c3720a9d0ac をご参照ください。
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記事一覧

【ショートショート】桃源郷

「これ、だれの曲?」 「ああ、EGO-WRAPPIN'のfingerだよ。サクちゃんが好きだったよ、この曲。」 悪くないね、と僕は言う。目の前で、マスターが淹れてくれるコーヒーのサイフォンが、こぽこぽと音を立てて沸騰し、コーヒーの薫りが広がる。 僕はこの喫茶店から聴こえる音、におい、宿るもの全てが大好きだ。 サクちゃんが戻橋の上で亡くなって、一年経つ。あれから、毎晩、僕は眠れなくなった。そして、普通に生活するということの全てが分からなくなった。 普通が一切なくなった僕にマス

雪の降る前に

ふぉ〜。ふぉ〜。 あたたかいものが吹きつけてくる。 ん?風? ぼくは前足の間に突っ込んでいた顔を上げ、目をこすりながら周りを見た。 風が近い。 寝ぼけながら風の来る方を見ると、何かがぼくをのぞき込んでいた。 目が合う。 ん?だれかなぁ。 でも眠い。もうちょっと寝たい。 知らん顔して寝ようとすると、 ゴロン お腹の横を何かで押されて転がった。 「なにすんだよー。」 怒ったふりだけしてみた。だって眠いから。 「これから雪が降るからここで寝ちゃダメだ。」 「え

【ショートショート】寡黙な車中

私には特技がある。 それは、車の中で、すぐに眠れること。 どんなに短い距離でも、すぐに眠りにつくことができる。 これを、特技だと言ってくれたのは、私の父だ。 でも、父から特技だと褒められなくなったのは、私が中学校へ入学する頃だった。 家から中学校へ通うのに、バスや電車などの公共交通機関がなかった。父の会社から中学校が近かったため、近所の子供たちと相乗りで、父が送迎をすることになったのだ。 そして、私が中学校へ入学する日に、父は言った。 「もう、車の中で寝てはいけな

明晰夢:夢を夢だと認識し、その内容を操れること【ショートショート】

何もかも上手くいかない そう思い私は六畳一間、自分の部屋に火をつけた 叶えたい、夢があった 熱と煙で頭がクラクラする 私はベッドでうずくまり、心の中で念じた 「「 覚めろ!!」」 ハッと目が覚めた。急いで辺りを見回す。 ここはアリーナの控え室だ。時間は午後一時。 どうやら昼寝をしてしまっていたらしい。 「だから昼寝は睡眠の質が悪くなるからやめなって」 メンバーの由香が私の肩を叩いた。 私は由香と二人でアイドルユニット「One More Dream」として芸能活動をして

【ショートショート】寝過ぎた?

「んー、何時やろ?ちょっと寝過ぎたかな。もうちょっと寝てもいいかな。今日はかなり時間あるし。」 俺はトラックの運転手だ。今日はいつもよりかなり仮眠できた。寝過ぎたくらいだ。久しぶりに同じ会社の友達とサービスエリアでちゃんとした物食べれたし、なかなか順調。 俺たちのようなトラックの運転手は、家を朝出てくる訳でもなく夜にちゃんと帰れる仕事でもない。今回は珍しく月曜日の朝に家を出れたが、荷物を取りに行きそれから高速道路でひたすら関東を目指す。高速に乗ってしまえば休憩したり、ご飯

癒し屋、始めました【ショートショート】

ーもう疲れたなぁ... 会社のベランダで、一服。 きつい仕事。深夜の帰宅。家族との会話もなし。 俺は何のために、つらい思いで働いてるんだろう。 ーここから落ちたら、楽になるだろうか。 「癒し屋始めました!今ならオープンセールにつき、1回500円」 いつもの帰り道。 こんな店あったかな。 深夜だというのに、灯りがついていた。 「いらっしゃいませ」 出迎えた女性は、黒いシャツに白ズボン。エプロンをつけ、猫耳と猫のしっぽをつけていた。まずい、やっぱりそういう店なのか。

ショートショート「4畳半の天気」

まえがき 「コロナ、菅野 M1グランプリ」 インスタで3個のお題をもらい1週間を目処に仕上げる事を試みました。 そのままぶち込むのはなんか嫌だったので2つは適当にしれっとでも1つは大胆に入れました。ご愛読お願いします。 四畳半の天気 晴れ 連載中の漫画が打ち切りだなんて、好きだったのに 恋人に振られたなんて、好きだったのに、 仕事はコロナのせいでクビ、これは嫌いだったからいいけど。 外は自粛の嵐、悪いのはコロナなのに、 相次ぐ閉店、悪いのはコロナなのに、 首相の辞職

僕の物語|一般的なこども

 一般的なこどもはさ、寝るのがもったいないと思っちゃうんだ。早く寝なさいって、言われるとつまんない気持ちになるし、遅くまで起きていてもいい日は、嬉しくてワクワクする。はしゃいじゃうんだよね。1日が終わっちゃうのがもったいないと思うのかも。損をしたくないんだよ。早く寝たら、1日が短くなっちゃうでしょ?  あ、僕のことってわけじゃないよ。一般的なこどもの話だから。  あと、一般的なこどもはね、布団の中でじっとしていると、ヒマでヒマで嫌になっちゃうんだ。こどもは大抵、ヒマが嫌いだ

ベッド  【企画参加】

私のベッドはふかふかでもふもふしてて枕の高さも程よい それなのに私はベッド以外の場所でよく寝てしまう ある時は、お日様の光がサンサンと降りそそぐ窓辺で その窓辺にはカーペットが敷いてあって気持ちが良い 最初は窓の外の景色を眺めているんだけど 気が付くと眠っている またある時は、和室のど真ん中で 和室にはキルティングのラグが敷いてあって そこでゴロンとしてしばらくストレッチをしていても またいつの間にか眠っている どうしてこんなに寝てしまうのだろう? なんて事を深く考え

世界で一番よく眠れる場所、あります【ショートショート】

「世界で一番よく眠れる場所、あります」 帰り道、見覚えのない看板に思わず足を止める。 多忙ではないけれど、疲れの抜けきらない日々を送る私には看板の謳い文句がひどく魅力的に感じた。 好奇心に誘われて扉を開けると、バーのような造りの店内から女性の声が聞こえる。 「いらっしゃいませ」 真っ黒な髪を静かに揺らしながら店員がやってきた。 「表の看板を見たのですが」 遠慮がちに尋ねると、彼女は笑顔でうなずいた。 「お待ちしておりました。こちらへどうぞ」 どうやらよく眠れ

[創作ショート] 畑野さんのジョージ

あーーー、頭おっもい。 身体をベッドから無理やり引き剥がす。 朝だというのに空気はよどんでるし、工事の音がうるさい。 不眠三日目、とにかく身体がだるい。 こんな日はあいつが来てしまう。 『わいやねん。ジョージやねん。』 いや、誰? 『自分、呼び出しておいてそれは酷ない?』 ベッドの下から黒い霧の塊が現れる。 本当はわかってる。 寝不足になると現れるのが、自称ジョージ。 うさんくさい関西弁を話す黒い塊だ。 ジョージは寝不足により生み出された、わたしの幻覚、妄想だ

長い夜。【ショートショート】

カーテンの向こうがほんのり明るくなってきた。 私はスマホを置いて目を閉じる。 夜が通り過ぎてようやく眠気が襲う。 ⁡ 朝はひどい眩暈と頭痛に襲われる。 夜になってもだるくて起き上がれない日々。 ⁡ ー学校にいかなくなって、どれくらい経つだろう? ⁡ 親も先生もしきりに「がんばれ」っていう。 学校に行かなくちゃいけない。 そんなのわかってる。 でも体が動かないんだ。 つらくて。苦しい。 ーこんな体、もういらない。 ⁡ 夜になると不安で押しつぶされそうになる。涙があふれ

夢の中のわたし

いつからだろう。 生きるのがつらくなったのは‥。 今年で29歳。 恋人と呼べる人とは三年前に別れ それ以来心華やぐようなことはなにもない。 会社では誰よりも早く出社し仕事を始める。 昼は手作りした弁当を一人で食べる。同僚とは必要な会話のみ。 笑うことなど一切なくきっと誰からもつまらない人間だと思われているに違いない。 このままではコミュニケーションを取る力も考える思考が低下するのも分かっていた。 でもそれでもぃぃと思ってた。 定時ぴったりに会社を後にし駅に向かう。満員

この罪は許されるものなのか

右腕の白い長袖Tシャツに血が滲む またやってしまった 証拠が残ってしまう なんとかしなくては 何度同じことを繰り返してしまうんだ ぼくはまた罪を犯してしまった 殺めてしまった そうせざるを得なかった 初めてではない 長年同じことを繰り返してきた いくつの命を奪ってきてしまったのだろう 殺めてしまった後は血を拭い 後悔の念でいつもと同じように処理をする 血で滲んだティッシュを人目に触れぬようゴミ袋に詰める しばらくゴミ袋を眺めながら 自分がゴミ袋の