マガジンのカバー画像

夏ピリカグランプリ応募作品(全138作品)

121
2022年・夏ピリカグランプリ応募作品マガジンです。 (募集締め切りましたので、作品順序をマガジン収録順へと変更いたしました)
運営しているクリエイター

#物語

【夏ピリカ】Forget Me Not

「ねぇ、カガミって知ってる?」 チドリの突然の問いかけに、ヒバリは知らないと答える。 「ミラーのことを、昔はカガミって言っていたらしいよ。」 「ああ、古語か。でも俺は耳にしたこともない。チドリは物知りだな。」 「シュウのことに関係するかもしれないから少し調べたの。」 絶句したヒバリの顔をチドリは可笑しそうに眺める。 シュウはヒバリの友人で、チドリの恋人だった男だ。ある日突然姿を消してしまった。元々不思議なところのある男だったから、そのうちひょっこり戻ってくるのではないかと、ヒ

『アンティーク』(夏ピリカ)

私は大学を卒業後、憧れの英国に留学する事を決めていた。 中学の時、兄が聴いていたビートルズの曲に衝撃を受けてから、音楽だけではなく英国に関する映画や本、そして古城に興味を持ち、時間をかけて訪れたいと思っていたのだ。 ✴︎✴︎✴︎ ロンドンに来て一ヶ月が過ぎた頃、蚤の市を見に行った。日本では殆ど見かけないアンティークな人形やオルゴール、陶器などもあって、見て歩くだけでも楽しかった。 歩いていると、老婆と目があった。 何か言いたげな感じだったので、「ハロー」と声をかけると、

鏡の中のボレロ 【物語】

 踊り部の夏合宿に部員でもない僕が駆り出された理由はよくわからんが、親友の渡が熱心に誘ってきたので参加している。 「おまえ、自覚ないのか?」 「何のことだ?」 「おまえはな、片足に重心かけているだけで絵になる男なんだよ!」  パンパンッと部長である彼が手を叩くと、爪先立ちでスススと男子部員五名が集まってきた。 「踊り部の精鋭達よ! この鏡館は圧巻だろう」 「まさに、我々の求めていた環境です」  渡が「うむ」と満足げに頷く。 「踊り部が目指す美しいポージングを極めるの

『家族写真』

お母さん、今までありがとう。 あらためてこんなこと言うの、少し恥ずかしいな。 でも、やっぱり、ありがとう。 お母さんの口ぐせは、 「身だしなみは大丈夫?」 だったね。 私が子供の頃から、お母さんは言ってた。 小学校に通うようになってからは、毎朝、言ってたよ。 そして、あわてて出かけようとする私を引き止めて、髪の乱れや、帽子の傾きなんかをなおしてくれた。 ハンカチも毎日取り替えてくれた。 お父さんが家族の写真を撮る時にも、「少し待って」って言って私の身だしなみを整えてくれ

ボクは鏡に映らない【ショートショート・1184字】

「あっちへお行き、鏡に映らない子」  今日もママが、ボクに触れることはなかった。ボクはママに嫌われている。美しい兄さまや姉さまたちと違ってボクが、鏡に映らない子だから。城中の鏡という鏡はすべて覗いた。ボクはどこにもいない。夜が明ければ違うかも、と毎朝いちばんに手鏡を見る。やっぱりボクはいないけど、それでもママに毎日会いに行く。もしかしたら、と思うから。  ボクはただ、ママに頭を撫でてもらいたかった。一度だけでいいから。手鏡を見つめながら、ボクはポロポロと涙をこぼす。涙が、鏡に