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夏ピリカグランプリ応募作品(全138作品)

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2022年・夏ピリカグランプリ応募作品マガジンです。 (募集締め切りましたので、作品順序をマガジン収録順へと変更いたしました)
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#ファンタジー

【夏ピリカ】Forget Me Not

「ねぇ、カガミって知ってる?」 チドリの突然の問いかけに、ヒバリは知らないと答える。 「ミラーのことを、昔はカガミって言っていたらしいよ。」 「ああ、古語か。でも俺は耳にしたこともない。チドリは物知りだな。」 「シュウのことに関係するかもしれないから少し調べたの。」 絶句したヒバリの顔をチドリは可笑しそうに眺める。 シュウはヒバリの友人で、チドリの恋人だった男だ。ある日突然姿を消してしまった。元々不思議なところのある男だったから、そのうちひょっこり戻ってくるのではないかと、ヒ

嘘つき鏡【#夏ピリカグランプリ】

蝉しぐれが焼けた肌にジリジリと突き刺さるような夏の日。 お盆を控えた私達はお墓参りのついでに、家主を失った田舎の祖母の家まで来ていた。 半年前、祖母が亡くなった。 祖母の葬儀の後、祖母が一人暮らしていた家を誰が処分するのかということを、親族間で揉めに揉め、半年間放置されていたのだが、とうとううちが引き取ることになり、現在に至る。 家主がいなくなった家は老朽化が早まると聞いていたが、かなりの荒れ果てようで、滴る汗を拭いながら、祖母の遺品や形見分けだけをおこなう。 特殊清

鏡の中のバディ【夏ピリカグランプリ】

 「あー、もっと可愛くなりたいよー。どうすりゃいいのかな」  ひなたは手鏡を片手にソファにごろんと転がった。お風呂上がりのスキンケアもそこそこに、ひなたは鏡の中の自分の顔を見ながら独り言を言った。すると、どこからともなく声が聞こえてきた。  「お前、何言ってんの?自分で自分を可愛いって思わないでどーすんの?」  ひなたは飛び上がって周りを見渡した。だけど、当然ここには自分一人しかいない。怯えるひなたにはお構いなしに、また声が聞こえた。  「ひなた、ここだよ。鏡の中だよ

「護り鏡《まもりがみ》。」/ショートストーリー#夏ピリカ

「白崎奈津子様から鏡の修復を依頼されております。」 祖母の一周忌の夜にかかってきた声はわたしにそう告げた。 亡くなった祖母はわたしを可愛がってくれた。 他にいる孫の誰よりも。 祖母は言ったことがある。 「あなたは私に似ているわ。」 短髪で男の子と間違われる振る舞いのわたしのどこが、たおやかな祖母と似ていると思ったのか。 今思い出しても年下の従妹の方が何十倍も祖母に近しい。 その祖母の形見にと、もらったのが鏡。 不思議な文様と綺麗な石がいくつか嵌め込まれていて、わたしがい

鏡の中のわたし

生活はとにかく荒んでいた。 仕事で精神は疲れ果て、一人で暮らす間借りは酒缶で足の踏み場さえなかった。 何のために生まれ、何のために金を得て、何のために金を使うのだろう。 自分を守るため?今更そんなことしたって、傷つけるものなんて存在しないのに。 「だって、社会の欠陥品なんだもん」 省かれて当然だ。 当たり前のことができない自分に、生きている価値なんてあるわけがない。自分で自分の値打ちを定めるとしたら当然の如くゼロを付ける。値段すら付けられない、どうしようもない欠陥品。自