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就活女子の暴走

面接官は問う。

「うちの会社を受けてくれたのはどうしてですか?」

就活女子は答える

「御社のスーツの着心地に感動し、ぜひ一緒に携わりたいと思ったからです。」

面接官は問う。

「なるほど、うちのスーツを着てくれていたんですね、もしや、今着ているものも?」

就活女子は答える。

「ええ、その通りです。このスーツと一緒でなければ、私はこの息苦しい就活を乗り越えられなかったでしょう。」

面接官は嬉しそうに頬を緩める。

「なるほど、うちのスーツは通気性に優れているし、オールシーズン着れるのでとても人気なんです。そんな風に言ってくれて嬉しいなあ。具体的に、どんなところが気に入ったんですか?」

就活女子は早口に答える。

「ええ、このスーツは、ピッタリして息苦しいところとか、パンプスが絶妙に靴づれしやすいところが好きです。あと、サービスでついてくるカバンがいかにも就活用で、他に用途がないところも大好きです。囚人が囚人服を着てその環境になれるように、就活する人間は、時代遅れの終わったら捨てる就活のためだけのスーツを身につけ、時代遅れの価値観によって髪を黒く染め、就活用の個性のないメイクをすることで、環境に適応します。そうすることで、企業に求められる真の就活生になることができるのです。そうでもしないと、個性が溢れ出てしまい、この理不尽さに異議を唱えるものが出てきてしまうからです。」

面接官は訝しげな顔で問う。

「就活のスーツと囚人服を一緒にしないでいただきたい。つまり何が言いたいのかね?」

就活女子はきっと目を吊り上げ答える。

「就活スーツでも着ない限り、こんな理不尽に耐えることは困難でしょう。第一志望の会社でもないのに上から目線で、さもうちの会社にこいつは合うだろうか見定めてやる、と言わんばかりの態度で面接しやがる。人格的に自分の方が優秀であるとでも言いたいんでしょうか。勘違い甚だしいですね、インターンだって本選考もあるのに同じくらい大変で、時間も労力も食うなんてよっぽど図々しくなければできませんね、全く。周りの友人はESで話を盛りまくってサークルの副部長が期間限定で大量発生し、志望動機は基本コピペ。Webテストを自分で解かないで人脈で解決する輩もいます。でもいいんです、この就活スーツを着れば、自分も結局は同じ穴の狢だって諦めがつきますから。こんなこと言ったって文句と捉えられるだけ、就活の気持ち悪さを分かってても誰も変えようとしやがらない。いいんです。自分が終わればあとは知らんぷりすればいいから。女性だけ就活パンプスで歩き回って足が痛くなっても、自分の性に違和感を感じていて身を切られるような思いで選択を迫られている人がいても、いいんです。これが文化だから。異議を唱えるような奴は、不真面目で批判好きな文化を理解できていない異端者なんです。いいんです。みんなと同じ服を着て、髪型を整えて、貼り付けたような笑顔の練習をすれば、どうだってよくなります。何も考えなくていいんですから。」

面接官は口をあんぐり開けて、何か言おうとしているがパクパク音がするだけで声がうまく出ない。

就活女子は立ち上がる。

「とにかく、私はお礼を言いにきたんです。このスーツのおかげで、私はうまく就活に馴染むことができたんですもの。本当にありがとうございました。」

就活女子はにこりと張り付いたような笑顔を浮かべ、真っ黒なパンプスをコツコツ鳴らしながら、部屋を後にした。

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