壁にあいた小さな穴に指突っ込んだら…
俺、幼稚園児のころ、よくばあちゃんの家に預けられてたんだ。
ばあちゃんは幼稚園が終わる頃、いつも車で迎えに来てくれた。
そんで、ばあちゃんちに着くと俺はお菓子を食べながら、かあちゃんが迎えに来るのを待つんだ。
ある日、ばあちゃんちに着いた俺は、家の中を探検することにした。まずは玄関。
まさか、最初の探検場所から先に進めなくなるとは思ってなかった。
ばあちゃんちは昔ながらの造りで、壁なんかは木材がありのまま活かされてるっていうか、なんか木の模様とかがそのまんまなんだ。上から加工を施してない感じ。
で、俺には玄関の壁の、木の模様が面白かったんで、しばらく眺めてた。
顔に見える模様とかを探したりして。
よく見ると、壁には穴があった。小さいけど、確かに壁に穴があいてる。うちのアパートにはもちろんこんな造りの壁がないから、俺は物珍しくて穴が気になった。
ふと、俺の指なら入るんじゃないか? と思った。
俺は吸い込まれる様に、ゆっくりと右手の人差し指を穴に入れてみた。
ぴったりだ、すごい。
幼稚園児の俺は、なんかよくわからんが
ジャストフィットしたことに喜んでいた。
が、しばらくして抜こうとすると、案の定抜けなくなっていた。
当時の俺はまだ5歳で、圧倒的に引き抜く力が足りていなかった。今なら同じ状況でも、自力で脱出できる気がする。まあ、絶対やんねーけど。
どんなに強く引っぱっても、穴から指は抜けない。
俺はだんだん焦ってきた。
幼稚園児ながら、脳裏にノコギリを持って救出活動をする大人達と、それを騒ぎたてて報道するマスコミの光景が浮かぶ。
きっとテレビの見過ぎだ。
でもその最悪の光景が、脳裏から離れない。
俺の顔はどんどん真っ青になっていった。
しばらく自力脱出を試みていたが、
とうとう諦めた俺はばあちゃんを呼ぶことにした。
「ばあちゃーん! ばあちゃーん!たすけて!」
孫の叫び声に、ばあちゃんはすっ飛んできた。
壁に指を突っ込んで顔面蒼白な俺を見て、
ばあちゃんはすぐに状況を察した。
最初はばあちゃんが俺の指や腕を引っ張ったり、色々と試行錯誤してくれた。
でもばあちゃんの力でも、びくともしない。
「ばあちゃん・・・救急車呼ぶ?」
俺はばあちゃんにたずねた。
ばあちゃんはうんうん唸って、思い悩んでいた。ほんとに救急車を呼びそうな勢いだ。
しばらく唸ったあと、ばあちゃんはリビングの方へ駆けて行った。
「これでもダメなら救急車、呼ぶしかないね」
と言って戻ってきたばあちゃんの手には、大きめの金槌が握られていた。
俺は真っ青な顔が真っ白になった。全身から血の気が引く。
俺の指に自分の手を添えたばあちゃんは、
「絶対動くんじゃないよ」
と念を押した。
5年しか生きてない俺には、ばあちゃんを信じて身を委ねることしかできなかった。死ぬほど怖いけど、絶対動かないと決めた。
ばあちゃんが、
せーのっ!
と金槌を振り下ろした。
俺は身体中がゾァッとなる感じがした。
うまく説明できないけど、あれは体験したやつにしか分からないと思う。
あの時確かに俺は、
死ぬ!!
と思った。
ガン!
という激しい衝撃音とともに、自分の体が後ろに引っ張られるような感覚を覚えた。
ギュッと閉じた目を開けると、俺の指は無事、壁から解放されていた。
金槌の与えた衝撃で、指が抜けたようだ。
あの時ほど死を感じたことはなかったね。
目を閉じる寸前、一瞬だけだったけど、ばあちゃんの振り下ろした金槌が
俺の指の真横を、本当にすれすれのところを打ちつけるのが見えたんだ。
あと1ミリでもズレてたら、俺の指は無事じゃなかったと思う。
オチがなくてホント申し訳ない。でもみんな、壁の穴に指突っ込むなよ、俺みたいに。
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