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映画みたいにはいかないあたしの人生

アパートへ帰る途中、楓人に会った。

コンビニで缶チューハイとつまみを買っていると、後ろから声をかけてきた。

「麗美っ、お疲れ〜」

「あれ? バイトは?」

「早く上がったから、リモートじゃなくて直で会って飲みたいなって。6限終わりでその後飲みってなったら、麗美なら絶対ここのコンビニ寄るなと思ってさ。ビンゴだった」

楓人は、最近できた私の彼氏だ。同じ大学のゼミで知り合った。

今夜は6限終わりの私と、バイト終わりの楓人とでリモート飲みの予定だった。

楓人は実家暮らしで、彼女ができたことはまだ家族に言っていないのだ。

私に会いに来てくれたのかと嬉しくなった。

しかし手に下げたレジ袋からは、酒や菓子と一緒にさりげなくゴムも入っているのが見えた。きちんとつけてくれるのは嬉しいが、一人暮らしの彼女のアパートに上がり込んで、性欲を発散したいだけなんじゃないかという疑いも持ってしまう。

昨日もうちでしたばっかりだ。まぁ、満更でもないけど。


二人でアパートまでの道を歩いていると、楓人が言った。

「昨日の映画さ、結末どんなだったっけ」

「冒頭で主人公のOLがアパート前で殺人鬼に襲われかけて、そこに同じアパートのイケメンな会社員がベストタイミングで現れて間一髪! てとこしか知らない」

「全然覚えてねえじゃん」

「だって楓人が・・・」

そこまで言って私は顔を赤らめた。

「てか、観たいって言ったの楓人じゃん」

まぁ映画なんて口実だ、お互い。


と、後ろから足音が聞こえた。走っているような。

私が後ろを振り返ると、こちらへ突進してくる男の顔が目に飛び込んできた。


えっ?



男は大きく振りかぶると、手にしていた包丁を私に振りかざした。


あっ、


と思った時には、私は首から胸にかけて派手に刺され、その場に倒れていた。

血ってブシャアアアってよく表現されるけど、本人からしたら

どくどく、どくどくって感じだ。こんなにも止めどなく流れるものなんだ。

通り魔ってやつは、本当にいるんだとその時知った。

楓人はベストなタイミングで助けてくれるはずもなく、情けない声をあげて怯えた顔をこわばらせている。そのまま2秒くらい動けずにいたみたいだが、状況を理解したようだ。私に目もくれず、全力で走って逃げていった。

通り魔は私を一瞥すると、人気のない住宅街の隙間に逃げていった。

一人残された私は、アスファルトの硬い地面に横たわるように倒れている。


あぁ、映画みたいにはいかないんだなぁ・・・。

とか、

あれ、死ぬまでって意外と時間かかるんだな・・・。

とか、

楓人のやつ、絶対ヤることしか考えてなかっただろうな・・・。ムカつく・・・。

なんて、

そんなことをぼんやり考えながら、私の視界は閉じた。

助けが来るとか、実は生き返るとか、1つくらい、映画みたいにうまくいってもいいじゃん神様。

と、最期に胸のうちでぼやきながら。








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