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ノクチル・福丸小糸はとびはねる 公園うさぎがうさぎになるまで【シャニマス/W.I.N.G.感想】

 幼なじみで構成されるアイドルユニット「ノクチル」メンバーの福丸小糸は、何か大きな志をもってアイドルになった訳ではありません。「“特別な”幼なじみたちとの時間を少しでも長く共有したい」。そうした思いからアイドル活動を始めました。この記事では「W.I.N.G.(※)」出場とその過程を通じて、小糸のアイドルを続ける理由が変化したのを、【ポシェットの中には】福丸小糸のシナリオから読み解いて行きます。

※【ポシェットの中には】福丸小糸の「W.I.N.G.」プロデュースシナリオを読んだレビュー記事(オタクの感想)です。「天塵」から「W.I.N.G.」シナリオという順番で読み進めて見えたことにスポットを当てています。2000字程度に抑えようと思っていたらシナリオが良すぎて想いが溢れすぎました。読みにくいですが、どうぞお付き合いください。

真面目な努力家で、勉強が得意

 ノクチルはこれまで『シャニマス 』で登場してきたユニットとは異なり、あらかじめ関係性が構築されています。そして彼女たちは、アイドルとしての大きな目標や大義を持つわけではありません。メンバーの全員が「幼なじみと一緒にいられる時間が楽しいからアイドルを続ける」という理由で、283プロダクションに所属しています。


 「“特別な”幼なじみたちとの時間を少しでも長く共有したい」。小糸もそそんな思いを抱き、283プロダクションの門戸を叩きました。アイドル志望の面接では、自分自身への質問ははっきりとした答えを返せないものの、幼なじみの話題になると饒舌。まるで好きな話題をふられたときのオタクのように語り出す。それだけ幼なじみという関係性は、小糸にとって非常に重要で“特別な”意味を持ちます。

 そんな彼女は公式サイトのキャラクター概要欄で

内弁慶な小動物系の女の子。真面目な努力家で、勉強が得意。騙されやすく、幼なじみによくからかわれている。高校1年生。
出典:https://shinycolors.idolmaster.jp/idol/noctchill/koito.html


 と紹介されています。真面目な努力家で、勉強が得意だというが、それは小糸のコンプレックスが生み出した賜物(たまもの)と言えるでしょう。

自分の居場所だと信じ、努力する少女

 ノクチルの関係性は幼稚園、そして小学生のころに遡(さかのぼ)り、シナリオの中では

「……昔からそうでした
 みんな、なんでもできて……きっと特別なんです」

と、当時を振り返っています。このときから小糸は、幼なじみたちが“特別”で、ほかの人よりも優れていると理解していたのでしょう。

 そんな幼なじみたちに対して強い憧れを抱いている。それを端的に表しているのが次のセリフです。

「わたしもそうなりたくて…………
 いつも…………」

 「みんな、なんでもできて……きっと特別なんです」に続く言葉ですが、憧れと同時に彼女のコンプレックスが見え隠れしています。「幼なじみはなんでもできるけど、私にはなにもできない」。まるでそんなセリフが続きそうです。

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 コンプレックスを助長させたのは家庭環境でしょうか。放課後は勉強漬けの毎日を送っていたという小糸は、親がそれなりに厳しいか、そこそこの家庭に生まれたのでしょう。努力は当たり前のものと考えられ、努力を努力として認めてもらえず、年を重ねるにつれて、自己肯定感が削られていったことも推察できます。

 そうした影響から、小糸は自分自身に対して、ほかの人より劣っているというコンプレックスを抱いています。だから幼なじみたちと過ごしていても劣等感を抱いてしまうのです。しかし小糸にとって皆が憧れの存在であることに変わりはありません。

 そうした相反する感情を抱え、“特別”な幼なじみと一緒にいることこそが、自分の居場所だと信じて小糸は努力を続けています。努力を継続することが才能だと気がつかずに。真面目な努力家で、勉強が得意。その端的な紹介文の裏には、複雑な感情を抱えながらも努力する一人の少女の姿を垣間見えました。

それでも公園うさぎはとびはねる

 雑誌や新聞、WEB媒体など各種メディアでは、文章に一定の規則性があります。例えば「映画をみる」という文章ですが、ある雑誌では「観る」が使われています。

 さて、なにが言いたいのかというと、漢字が常用漢字にされていたり、ひらがなに修正されている場合、なにかしら意図があるということをお伝えしたいのです。

 それを踏まえて小糸のシナリオ、4番目のタイトルに注目して下さい。「公園うさぎはとべない」と書かれているのが分かるでしょうか。うさぎとかけているなら「跳ぶ」という漢字が使われるはずですが、これにはなんらかの意図があるように思えます。

 「とぶ」には「飛ぶ」「跳ぶ」「翔ぶ」の3種類あります。「飛ぶ」は主に空中を持続的に移動するのを表し、「跳ぶ」は跳躍という漢字から分かるように地面を足で蹴って跳ねる、主に短時間の空中移動です。「翔ぶ」は常用漢字ではありませんが、「飛ぶ」とだいたい同じ意味を表します。司馬遼太郎氏の歴史小説『翔ぶが如く』のように、主に書籍のタイトルや文章中の表現で用いられています。

 私がシナリオタイトルにある「とべない」の漢字を開いた理由は、例に挙げた3種類の漢字の意味を掛け合わせているのではないかと考えるからです。

 シナリオで登場したうさぎの遊具は、地面とうさぎ(本体)がバネで繋がれ、自らとびはねる手段を持ちません。誰かを乗せて初めて本物のうさぎのようにとびはねることができます。

 それを小糸に当てはめてみるとどうでしょうか。自己肯定感が低いという鎖で、自らの努力を肯定できず、自分は他人よりも劣っていると自覚しながらも、幼なじみとの時間を共有することで自分の存在意義を見出しています。私のこじつけかもしれませんが、なんとなく公園の遊具(公園うさぎ)と小糸は似ていないでしょうか。

 誰かがいないと跳ぶことも、飛ぶ(翔ぶ)こともできない。そうした理由から筆者は公園のうさぎの遊具が小糸を表しているように思えて仕方がありません。そしてアイドルとして長時間はおろか短い間すら空高く「とぶ」(=活躍する)ことができない。そんな暗喩的な表現を感じてならないのです。​

 しかし、それはWINGに出場する前までの小糸だと私は考えます。なぜなら「W.I.N.G.」シナリオを経た小糸は、アイドルを続ける理由を自ら見つけたからです。

小糸のこれまでを肯定する物語

 小糸の「W.I.N.G.」シナリオは彼女のこれまで、そしてこれからを肯定する物語です。なぜなら「W.I.N.G.」の選考過程を通して自己肯定感のなかった彼女が、自信を持ち、自分がアイドルをする理由をも見つけ出すからです。

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 学校で勉強ができなかったり、友人関係が上手くいかなかったりした経験はきっと誰もがあるはず。社会に出れば自分の仕事能力に対し、悩みを抱えてしまうこともあるでしょう。その問題が大なり小なり、人それぞれで悩みを抱えているはずです。そうした中で孤独に苛まれることもあるでしょう。


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 小糸はそうした人たちのために、「居場所のない人の居場所になれたら」と願います。だから、幼なじみと一緒にいることで存在意義を見出していた公園のうさぎは、自らが居場所のない人の居場所になるため、きょうもとびはねる(努力する)のです。

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