春はまだ〈短編小説〉
.𓈒𓂂𓂃◌𓈒𓐍
「あのさ」
よく分からない数式を唱えた教授
頬杖をつき長い髪で表情が隠れた隣の君
やけに冴え渡った頭でどうにか君が
気を向けてくれないかと考える
「さいきん… 最近、何かいい事あった?」
もっと何かあっただろ
小さく息を吐いたのが聞こえて
君が起きていたことに安堵すると共に
おそらく相手も持ったであろう呆れを
無理やりかき消す
「 はなにかあった?」
「え 僕?」
まさか質問を質問で返されるとは
最近 何かあったか
……昨日 今日
「…暖かくなってきたよね」
だから、もっと何かあっただろ
どうしてこう、会話を広げられるような
「すき?」
、
「え?」
「春。すき?」
「あ、あ うん、すき、だよ」
「そう。私も」
今日やっと見れた君の顔
「私も、はるが好きよ」
大人びた顔が一瞬、綻ぶ
「……春 だよね。」
「そうね」
……だよね。
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