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宝石みたいな海だった



すごく好きだった上司の転勤が決まった。

すごく好きだったけど気持ちを伝える勇気はなかった。

すごく好きだったから薄々気付かれてはいたと思う。

だけどどうにかなる様な二人ではなかった。


それでも私の最初で最後のワガママを受け入れてくれたのは

少しぐらい、揺れてくれてたからだと思いたい。


横浜に行こう。

そう決まったのは彼が関東に転勤して3ヶ月後のこと。


海老名のサービスエリアとか中華街だとかみなとみらいだとか。

私が諸用で東京に行くって決まってから、ついでみたいに会える事になったけど。
それでも彼は色々と提案をしてくれた。

会いたいなとは思っていたけど
本当に会えるなんて。
転勤する前は、仕事終わりに何度も食事に行ったりしたけれど
きっとこれは、あんなに願ったあなたとの最初で最後のデート。

嬉しい気持ちはありながら、頭の何処かでそう思っていた。


約束の日、23時。
仕事終わりに新幹線で到着した私を迎えに来た彼がレクサスから降りてくる。
3ヶ月しか経ってないのに、知らない街にいる彼は、なんだか知らない人みたいに見えた。


新幹線の中で、気合い入れすぎて見えないように。でも可愛くは見える程度に。
精一杯おめかしした私を

髪切ったんやな、似合ってるわ、って
すぐに気付いてくれるとこ

好きだったよ。嬉しかったなぁ。

久しぶりやけどそんな気せんわ、ってあなたは言ってくれたけど
私は会いたくて会いたくてたまらなかったから
何ともない顔で、そう?って笑うしか無かった。

会いたかった、そう言えば良かったのにね。

真夜中に別々の部屋で眠りについて、翌朝早くから起きて
二人とも、寝起きが悪くて笑って。
おはように何だか照れあって。

よく晴れた日で良かった。

何度も乗ったあなたの車に、私からのお土産がまだ存在してる事が嬉しくて。
車の中、ずっと笑ってたよね。

私の言うなんて事ない言葉でも
掘り下げては笑ってくれて
突っ込んで笑わせてくれる度

嬉しくて楽しくて夢みたいで。
最後の最後に、大好きばかり募った。


スタバに寄って、一口ずつ分け合って
サービスエリアで名物のパンを食べて


ようやく到着した、横浜。

レンガ倉庫で、絶対いらないペリーのクリアファイルに笑って
マリンタワー、高いとこ苦手なのに無理して登ってくれたよね。

怖いから、って理由でも
手を繋げたことに
いい大人なのにドキドキしてたなぁ。


一番キラキラした思い出は、水上バスからの景色。
もうすぐ陽が落ちる時で、風が気持ちよくて
隣であなたが笑ってて

陳腐だけど、時が止まればいいのにって
あの日の私は心から願ってしまった。

頰に当たる風とか、海の匂い、あなたの肩の温度
ずっとそのままでいたかった。


帰りの時間が近づいて
今度は夜景見れる時間に来ようぜって

何気なく言うあなたに、そうだねって笑ったけど

結局それは叶わなかったね。
でもあの言葉に嘘はなかったよ。



新幹線の駅まで、荷物を当たり前みたいに持ってくれて。あっという間に、お別れの時間。

見送りの改札では振り向かないって決めてた。

そうじゃないと、帰れなくなってしまうから。

じゃあまたね、って全てを振り切る様に歩いて
一秒でも早く座席に座りたかった。


そしたら安心して泣けるから。

新しい環境で、たくさんの人と出逢って
きっと心惹かれる人もいたよね

私だけが、あなただけがいなくなった場所で 
進めずにいることに気付かされてしまった。

何故かはわからない
けど、これで終わりだって事が何となく分かった。


だから、もう、おしまい。


誕生日に貰ったチャームも
財布も、お土産のハンドタオルも

到底捨てれる気はしなかったけど
もう、二人は交わらない。

ただそれだけは分かったから。

最後に思い出をくれてありがとう。




好きだけじゃなかった
嫉妬も執着もあった

だけどあんなに楽しい一日が最後に過ごせたから


あなたに褒められた私を、私も大切にしてあげようと思える。


いつかもしどこかで偶然会う事があったなら

元気にやってるよ、って胸張って言える様に
まだまだ日々を紡いでいこう


焼き付いた思い出を、手放さずに抱きしめて。


あの日の景色


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