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ひらがなエッセイ #44 【わ】

    夏祭りなのか何なのか、近所では太鼓の音と少年少女の「やあっ。」と言う掛け声がよく聞こえる。夜型人間の私の睡眠時間に丁度重なるその音のおかげさまで、夢の中はお祭り気分である。ありがとう、少年少女。笛も吹いてこましたれ。

    祭りと言えば、市中は物のにほひや夏の月、なんて句を思い出す。生活臭も涼しげな夏の月と対比してみれば、また一興だ、みたいな句だ。人混みが苦手な私でさえ、人混みってのも良いものだな、と思わせてくれる名句である。人がおるんよねぇ、そこに人が、おるんよねぇ。

    射的や金魚すくい、型抜きやくじ引きなど色んな遊戯がある中で私が好きだったのは【輪投げ】であった。まぁ、1番簡単だったからである。その中でも、欲しいものを狙って何も貰えない位ならばと、すぐに取れそうな、あまり欲しくない訳の分からないお菓子などを狙った。やったねー、僕ちゃん、と言う、言葉欲しさに少しずつ貯めたお小遣いを払っていたのだ。ただただ、自己顕示欲を満たしたかった、そんな少年時代であった。

    大人になって、お祭りに出かける事が少なくなった。出かけたとしても、喧騒から少し離れた場所を探して、人々が賑わっている様子を眺めながら酒を飲むぐらいである。祭りの遊戯場は子供達の聖地だ。あの子供達と今の私では【輪投げ】の精度が違う。もっと言うならば、子供達の目の前でお金に物を言わせて全ての景品を掻っ攫う事だって出来るだろう。それが、大人だ。だが、そんな事はしない。祭りは子供が楽しめば良い。出来るのに敢えてやらない私、格好良い。そうさ、今でも私は、自己顕示欲の塊だ。

    しばらくは太鼓の音と共に眠るのだろうな。今度その音に合わせて、部屋の中で誰にも知られずに、天狗のお面と法被と鉢巻きして踊ってみようか、と思い立ったが、馬鹿馬鹿しくてやめた。

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